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見渡せば高層ビル群のど真ん中
車の行きかう音や雑踏する交差点
誰もが他人で皆が冷たくて1人になれば本当に孤独になってしまう
人の温かさなんて簡単に忘れる都会に住んでいた
だから、あまりの違いに・・・びっくりした

「こんな・・・田舎」

狭い道路が一本、人ごみなんて見当たらない
騒がしいはずの外が、静かに鳴く鳥の声まで聞こえる
きっちり整備された街路園より、小さな道端の花のほうがずっと綺麗だ
自然に囲まれた場所は小さな幸せで作り上げられてる
人に踏み固められただけの道はとても歩きやすかった
大きなボストンバックからピンクのブタがプリントされた1枚のメモを取り出す
書かれた住所は全く分からないけど、とりあえず歩いてみよう
なんかたどり着ける気がする
いつもネガティブな自分とは思えない思考だった
そんな都合よくいくわけないのに・・・・

深く被った帽子に右目の眼帯
通りすがるジョギングのじさんや散歩中のおばさんに奇異の目で見られた
見慣れない顔がいるから見られるのはあたり前、だ
遮るようにきゅっと目をつぶってみる
人にじろじろ見られるのは恐い
今だって頭の中でぐちゃぐちゃ考えてる
誰も他人のことなんてそんなに見てないって分かってるけど
自意識過剰だってことも知ってるけど
私はどう思われてるのか、気になってしょうがない
後ろで足音がする。
きっとたまたま歩いてる人
私が変だからってわざわざ追いかけてない
だって、誰も私のことなんて知らないはずだから
心臓が変にばくばくした
お母さんと一緒に住んでた頃の感覚と同じ
手汗が滲んできてるから自分が焦ってるのが分かる
少しでも距離をあけたくて足早に歩いた

後から、ついてくる──

一瞬あの歌詞のフレーズが浮かんだけども
白い貝殻の小さなイヤリングなんて落としてない!
どんどん大きくなって、これはもう敵意の足音
帽子を押さえて全力ダッシュ
それでもそれでもついてくる・・・!
左の横っ腹を思いっきり捕まれる感触
いや、これは・・・・噛まれてる気が。
地面から足が離れた瞬間フッと意識がとんだ
ポタリと垂れた血液が雑草の上に散った



今日は一度も妖に遭遇してない
こんな日は初めてかもしれないな。
半袖で寒くない心地よい風が吹くこの季節は人間が過ごしやすいと感じる
暑すぎず寒すぎずの適温
そうだ、ニャンコ先生に七辻屋の饅頭でも買って帰ろうか
いや待て。ここまで絡まれてないのに寄り道でもしたら・・・
でも最近塔子さん達も食べてないだろうしやっぱり
・・・・・買ってから帰ろう。
一度立ち止まりもと来た道へ引き返そうとした
右側の茂みで音がする、ガサゴソと。
あぁ、やっぱり会ってしまうのか
うんざりした視線を投げかけるとそこにいたのは

「ニャンコ先生!
こんなとこで何、やって・・・」
「おぉ夏目。いいところに居たな」
「何・・・・食べてるんだ・・・?」

前足で口元を拭えばこびりついた赤が付着する
夏目から2,3m離れたニャンコ先生から鉄分の匂いが漂っていた
嫌な予感が頭を過ぎる
もしかして・・・人を、食べたのか?

「食っとりゃせんぞ」
「えっ、」

なんだ、そうか。よかった・・・
心底安心した様子の夏目にため息をついた

「それより着いて来い。瀕死の状態でな」
「な、瀕死!?」

地面に落ちた血痕を先生は辿るようにして歩いた
その後をおれも追う
引っかかる枝を払い顔を上げると
大木に背中を預けてぐったりしている少女がいた
一瞬死んでるのかと思った
口元に手を当てると僅かに呼吸を繰り返している
急いで病院に連れて行かないと手遅れになる・・・!

「ニャンコ先生!手伝ってくれ!!」

(白い肌と飛び散った血はよく栄える)