大切なトモダチが二人いた。

一人は緑色の髪が特徴的な女の子。オカリナを吹くのがすごくうまくて、ワタシは彼女の音色を聴くのが大好きだった。彼女の音色があれば、迷いの森の魔物たちも一緒に踊って、一緒にうたって。彼女はいつも森の奥の壊れた建物の下、切り株に座って笑っていた。かわいい声で笑う、森が似合う女の子だった。
名前はそう。ーーサリアっていう子。

そしてもう一人は、男の子だった。
もう七年も前にどこかへ消えてしまった。森の仲間が言うには、ワタシたち一族は絶対に出れないはずの外界に出たって。だからきっと消えちゃったんだ、って仲間は俯いて言ってた。ワタシはそれをどんな気持ちで聞いてたのか、もう覚えてない。
不思議な男の子だった。サリアも大概だったけど、サリアと特別 仲が良かった彼は、何かがいつも違っていた。ワタシたちの一族の特徴、妖精もずっと持っていなかった。...いなくなる寸前に突然 来たみたいだけど。なんていうのかな...雰囲気がワタシたちと離れてる気がした。

名前は...そう。ーーリンク。


リンクが消えてすぐのこと。世界は闇に変わったんだ。


『ミド!たいへん!』
『エ?なんだヨ、ティゼ!』
『早く皆を!魔物が、すぐそこまで!』

ワタシは森を出る寸前の吊り橋にいるのが好きだったから。一番に気付いたワタシは、すぐにこの森のアニキ分のミドに叫んだ。ワタシとミドは協力してコキリの森の皆に呼びかけ回った。
それから暫くワタシたちは自分たちの家の中に隠れてた。ちょっと前まではデクの樹サマが森を護ってくれてたのに、とミドはしょっちゅう言っていた。アイツのせいだ、とも。ミドが言うには、リンクがデクの樹サマに呼ばれて何かしでかしたから、ワタシたちの生みの親は枯れてしまったって。サリアはちがうワって言ってた。絶対にちがうって。ワタシはその真実を知らない。ミドが言うことがウソなのかホントなのかわからなかった。
でもミドもそうだったと思う。仮にリンクがデクの樹サマに本当になにかをしてたのだとしても、...ワタシたちはリンクを信じてた。


でも結局 今もーーー七年近くたった今も、リンクは帰らず。真実は結局、隠されたまま。
サリアも最近になって、迷いの森に出かけたっきり戻らず、仲間たちと探しまわったけど結局、行方がわからなくなって。


世界はいつの間にか、また光に戻りつつあった。
ーーリンクとサリアを奪ったまま、闇は次第に消えていった。


魔物たちはいなくなった。デクの樹サマの子供が産まれた。みんなの笑顔が戻った。...ミド...と、あるいはワタシも、置いてけぼりにして。
平和が戻って幾日経った頃だろう?...ハイラルというお城からやってきた人がいた。たくさんのヘイシを連れて、白いおウマに乗って、背中に弓矢を背負った、凛々しくキレイなオヒメサマ。ワタシたちは皆ポカンとしてた。だってコキリの森に入ってくる物好きなんて!
オヒメサマは仲間の先頭に立ってたミドとワタシに向かってゆっくりと歩いてきた。耳がピンととがった大人のヒト。ワタシは変なキモチになったのを覚えてる。...彼の雰囲気を感じたのはナゼ?

『お初にお目にかかります...突然の訪問をお詫び致します。私はハイラル王国の王女...ゼルダと申します』
『...ハイラル?...オウジョ?』
『えっと.........ワタシたちに、なんのごよう?』
『我らハイラル王国から宴に招待したくやって参りました。長きに渡った戦は終わり、ハイラルに平和が戻ったのです。...これも全て..."時の勇者"と"六賢者"たちの死闘があってこそ。世界は助かりました。...この喜びは種族を超えてのもの。是非、あなた方 コキリ族の方たちもお招きし、祭を開きたいのです』

オヒメサマは膝を折ってワタシたちの目線に合わせてくれた。オヒメサマらしくないヒトだと思った。おとぎばなしで聞くようなか弱いヒトじゃないんだと思った。瞳の色は柔らかいけれど、どこか鋭い気もした。

『...ミド...』
『オ、オウ。待ってくれ...えっと、ヒメサマ。アンタたちのおさそいは嬉しいけどサ、オレたちコキリ族は森から出たら消滅しちまうんダ。だから悪いケド...』
『承知しております。けれど...私は六賢者たちと対話ができる身。僭越ながらお願い申し上げたのです。今だけ世界の秩序を変え、あなた方が森の外を出てもお変わりがないようにと』
『...ホントに?信じてもいいの?』
『ええ。一国の王女として、嘘などはつきませんよ』

そう言ってオヒメサマは笑う。その微笑みのうつくしさに、ミドもだけど、ワタシも少し頬を染めて、恥ずかしくなった。ヘイシさんたちも可笑しそうに笑ってた。本当に平和になったんだと、その時 確信した。



そして今、祭は行われている。コキリの仲間たちも全員連れて。
ハイリア人、コキリ族、ゾーラ族、ゴロン族、ゲルド族、全ての種族が入り混じって、キャンプファイアーを囲んで、皆で歌って、踊って、食べて飲んで、笑って笑って笑って.........。
夢のような光景を見ている。夜空に広がった星たちの数々。ここ数年 空に淀んでいた曇天はもうない。待ち遠しかったかのようにここ数日は晴ればかりで。きもちのいい風が吹いて。

「...どこ行っちゃったんだろネ...サリアも、リンクも...」
「......オレが知るワケねージャン」

けれど、ミドとワタシは笑顔の輪から少し外れていた。
コキリ族はオトナにならない種族。ホントウのところは知らないけれど、森を出て消滅しない限り、死を迎えたっていう事例は聞かない種族。誰もデクの樹サマにそんなこと聞かないから。...寿命があるのかはしらない。でも、ワタシとミドは比較的早くにデクの樹サマに生み出されて、ずっとコキリの森で育ってきた。だからかもしれない。
仲間が消えたことにいつまでもぐじぐじ悩んでる。

「...サリアのオカリナの音が、もう聴こえないんダ」
「......ウン」
「なんだかんだいってサ...オレだって、アイツのコト...リンクのヤツのコト、トモダチだって思ってた」
「ウン。...ワタシも」

ミドはまた黙ってしまう。それに居心地が悪くなって、ワタシは横笛を手にとった。サリアのオカリナとよく共演した笛。吹くのはもちろん、サリアに教えてもらった森の音楽。リズミカルで、奏でるだけで森に囲まれてるような感覚になれる。素敵なメロディ。祭の音に流れて、密かに、でも明るく。ミドはなにも言わない。ワタシも何も言わなかった。
ケド。
不意にーーー何かを、感じて、ワタシは笛から口を放して振り返っていた。「...ティゼ?」ミドが少し顔を上げてこちらを見るけど。...私は立ち上がって、横笛を握りしめてた。

「...ちょっと散歩してくる、ミド」
「?...わかった」

なつかしい気配を、感じたんだ。何も見えないけど。何も聴こえないけど。そっと肩に手を置かれた気がしたの。
ーーワタシは走りだしてた。あてもないのに、そうせずにはいられなかった。"ハイラル城下町"側で騒いでたのを抜けて、子供の足で走って、つまづいて転んで、でも慣れてるからすぐに立ち上がってまた走って。迷子になるのはわかってるのに。新鮮な森の外。森よりは温かい風。いつしか見えたのは、小さな架け橋がかかった小川。
息を切らしたワタシはそこでようやく止まって、息を整えてた。数日前にも見た白いおウマがそこにいたから。キレイな顔を川に垂らして、水を飲んでる。次に見えたのは、今度は、色の濃いおウマさん。白いほうの近くではないけど、そこそこの位置にいるそのおウマは、優しい瞳で夜空を見上げてる。逐一 ワタシに気付いたのはそのコだった。警戒心強そうにぴくりと耳をたててたけど、でも、ワタシの姿を眺めたそのコはゆっくり近づいて来た。何が何だかわからなかったけど、ワタシにはそのコが、...少しだけ寂しそうに見えた。

「...誰だ?」
「!...エ?」
「......ああ...コキリ族の子か」

突然聴こえた耳慣れない声に体が反応する。白いおウマの体に隠れてたらしいヒトが立ち上がった。暗闇でよく見えないけれど、その人が細身の男のヒトだとはわかった。身に纏ってる青色の衣装が闇に同化してて、その手にはハープを持っている。

「...アナタは?」
「...僕はシーク。...シーカー族の末裔」
「でも...そのおウマさんは、たしか、オヒメサマ...ゼルダサマの」
「...これは...預かりものだ。彼女ならいない。...祭りの場にも。お転婆な王女だから、好き勝手出歩くんだ。...兵士たちはいい迷惑だろうな」

そう言う彼、シークはちょっと自嘲的。ワタシは首を傾げた。「王女に用かい」そう彼が聞くので、ワタシは首を振る。「名は?」それにはちゃんと応えられる。「ティゼ」そう言うと、ティゼか、と彼は呟いた。

「ティゼはどうしてここに?」
「...別に理由はないの。なんとなく...呼ばれたような気がしただけで」
「呼ばれた?」
「ウン。この曲吹いてたの」

横笛を口につける。何度も何度も、サリアがいなくなっても吹いてたから、考えなくても指が動く。森の音楽。コキリの皆がなにより好きなメロディ。遠くに祭の音はあるけれど、わりと静かな平原で。...色が濃くて、たてがみの白いおウマがヒヒンと一鳴きした。
口を離すと、シークはしばらくじっとワタシを見てた。紅い瞳は初めて見るけど、どこかで見たコトあるような気もする。

「...森の賢者の歌か」
「?...森?賢者?」
「君は...そうか、何も知らないんだな...」
「...なんなの?賢者サンって。賢者サンがいるなら、どうして七年も魔物たちをほったらかしてたの?どうして...」
「...その問いに答えるのは難しい。こうなってしまったのはただ悲運が重なってしまったせいだ。賢者たちにも...そして時の勇者にも、非はないんだ」

非がある者がいるなら、それは。彼はそう言って、僅かに目を伏せる。何かを呟いたようだけれどワタシには聴こえなかった。

「時の勇者...?......ワカラナイの、ぜんぶ。ワタシたちは森から出られないから、何もわからなかったの。アナタは、知ってるの?どうして魔物たちが急に増えたのか...七年も経って今更どうしてデクの樹サマのこどもが生まれたのか......どうして、おさそいのためだけに、オヒメサマが直々にやってきたのか」

わからなかったから、恐かったんだもの。酷く恐ろしかった。
ーーデクの樹サマのこどもが生まれるちょうどその前にやってきた、フツウのオニイサンでさえ、恐かった。
あれは結局誰だったんだろう?オトナなのに、コキリ族みたいな格好をして。その背中に光る剣にびくついた。ちょうどミドもいなかったから、強がる仲間もいなかった。ただどうしてか、...そのヒトは酷く静かに、コキリを歩いてた。魔物を平気で倒してくあの後ろ姿をワタシは知ってる気もした。
でも結局そのヒトもいなくなって、いなくなってすぐに、森から魔物たちが逃げてって、ワタシたちはフツウの生活を取り戻した。わけがわからないまま。

「...いろんなことが、どんどん過ぎていったの。ワタシたちは置いてけぼり。それほどイヤなコトってないヨ。ワタシたちはどうすればよかったんだろ?」
「......もう...全てが終わったことだ、ティゼ」
「ワタシとミドにとったらまだ終わってないもの......だって、...この争いはワタシたちの大切な仲間を奪ったの!ーーリンクもサリアも、まだ帰ってこないもの!」

ワタシが思わず叫ぶと、...シークは息を呑んだ...気がした。
色の濃いおウマがまた近づいてくる。ハッとして見上げると、そのコはヒヒンと頭を垂れてワタシに擦り寄った。恐る恐る手を伸ばすと、けれど、弱々しくはね除けられた。そうして、気がついたらシークが、ワタシの側まで歩いてきてた。背の高いヒト。彼の手は躊躇無くおウマに触れた。

「...エポナというんだ」
「エポナ?」
「ああ。...主人を無くしてさびしがってる。本来は警戒心が強い馬だ...けど、ティゼの格好が懐かしいんだろうな」
「ワタシ?...コキリの服のコト?」

それはおかしい。だってコキリのコは皆こどもだから、こんな背の高いおウマさんになんて...。そう思って、不意にあのオニイサンが脳裏に現れた。金色の髪で、青い瞳で、左手に不思議なマークがついてた男のヒト。

「...あのオニイサン?」
「...お兄さん?」
「まだ森に魔物たちがいたとき、森の外からやってきたオニイサンがいて......そのヒト、確かにコキリっぽい格好してた。でもあれ以来会ってないから、どうしてなのかはもう聞けなくて...」
「.........そうか......会ったんだな、彼に」
「あのヒトが誰だか知ってるの?恐かったけど、あのヒトが迷いの森にいってから平和がやってきたの。とっても強かったのヨ」
「...そうだろうな。彼こそが、"時の勇者"だ」

ワタシは僅かに目を瞬く。先日から何度か聞いてきた単語。「時の勇者?」
ワタシにはわからないことだらけ。シークは暫くワタシを見つめたあと、すっと夜空に目を向けた。気のせいか、おウマさんもだけど、シークもどこか寂しそうにお星サマを眺めてた。ワタシはなんとなしに目を下に向けた。悲しいおカオは見たくなかったもの。でもそうすると、シークの左手が見えて、その甲にあの時のオニイサンと同じような紋章が描かれてた。

「時の勇者サマは...いなくなってしまったの?」
「...そう。もう二度と、僕たちが彼を見ることはないだろう」
「...死んでしまったってコト?」
「いいや。彼は最後まで使命を果たした。自らの苛酷な運命に抗わず、決して諦めることなく、そして魔王に打ち勝った。...だが悪を滅したことはつまり、彼がこの世界にいる意味を失ったと同義だったんだ」
「...どういう意味?」
「彼は元より"この時代"の人間ではなかったんだ。彼は元の時代に帰った。もう二度とこちらに来ることはない...そのすべをなくしてしまったから」

難しいコトバを使うシーク。ワタシはこどもだから、何年も何十年もこどもだから、難しいコトは一つもわからないのに。...でも、わかるコトもある。「...シークは哀しいの?」控えめに聞くと、シークは少し笑った気がした。「...そうかもしれないな。...だからこんなところにいる」長い睫が赤の瞳にかかってる。そのおカオはほとんど布で隠れているケド、きっと綺麗なヒトなんだと思う。

「...でも、優しいヒトだったんだネ。わざわざ時を超えてまで世界を救ってくれるなんて」
「.........そうだな」
「これまでは勇者サマがいなかったから、賢者サマたちは護ってくれなかったの?」
「......それは...違う。賢者たちを呼び起こしたのが勇者だったんだ。それまでの六賢者のうち五人が殺され、新しい賢者が必要とされていた。勇者が各地の神殿をまわり、負の力の根源を倒し、その地に縁のある人物たちが賢者として目覚める...光、炎、水、闇、魂、そして...森。六賢者が揃った時、勇者は真に魔王を倒す力を手に入れた。魔王を倒した勇者は元の時代に帰り、ーーもう二度とこの時代には現れない」

どくり。
僅かに高鳴った心臓は...気のせい?もう終わったことだって言ったのに、シークはどうしてこんなに教えてくれるんだろう?...私はさっき、叫んだ。ワタシの大切な二人のトモダチのことで。
ーー森って......どの森のコト?
雰囲気の変わったワタシに気付いたのかもしれない。シークは夜空の映る瞳を私に向け見つめた。

「...引き返すなら今だ。全てを聞きたいのか?」

そんなことを今更言われる。ここまで知ってしまって、引き返す方法なんて、ホントにあるの?
お祭りの音がもっと遠くに感じた。ミド...今頃どうしてるカナ。まだ一人で踞ってるカナ。仲間の誰かが一緒にいてあげてたらいいな。...ごめんネ、ミド。置いてきちゃって。でも...ごめん。ワタシ、この話を最後まで、聞きたいヨ。


「勇者サマの元の時代って......七年前のコト?」
「.........」
「森って......それって、迷いの森のコト?」


確信?...わからない。でも、シークのコトバの全ての結論は、そこだった気がしたダケ。
答を聞いて、ワタシはどうするつもりなんだろ?哀しいお話は好きじゃないのに。聞いて、皆に話すの?皆で哀しむの?
ーーシークは、はっきりとは言わなかった。ただワタシから目を逸らして、エポナのカオを撫でていた。

「...何故王女が直々に君たちの元へ言ったか。...そう聞いたな」
「...ウン」
「...確かめたかったからさ。彼が育った地を。...いや...そうじゃないな。君の言葉を借りるなら、哀しかったからだ。もう二度と会えないと自分で告げておきながら、寂しかったからなんだ」

勇者サマがいなくなったコトが、哀しくて、寂しかった。
だからーー勇者サマが育った場所に、オヒメサマは訪れたかった。

「賢者たちは......森の賢者は今も、いなくなってはいないよ。どうして今更デクの樹のこどもが生まれたのか、それは、賢者が復活したからに他ならない。森の賢者が...彼女が今もいるおかげで、世界に...コキリに平和が戻ったんだ」
「...でも、もう会えない」
「彼女としての意識は確かに在る。...時の勇者はオカリナを通じて、森の賢者と対話していたと聞くよ...」
「......ワタシたちは、何も知らなかった」
「彼女は確かに今でも君たちを想ってる。その証拠に、君は今、ここに誘われたんだ」

ワタシの目は、もう、完全に下を向いてた。ーーリンクやサリアも着てたこの緑色の服の裾を握りしめて、じっと唇を噛み締めた。でも...耐えられないよ。リンク、サリア。涙が、止まってくれないよ。「リンクは...コキリ族じゃなかったのネ」...だからカナ。いつも不思議な感じがしてたのは。シークは何も答えない。私に確信を抱かせるコトを躊躇してるみたいに。
ぼろぼろと落ちる涙。こどもだからって、カッコワルイ、ワタシ。たたっと小川のほうに走って、澄んだ水でばしゃばしゃとカオを洗った。ヒヒン、とさっきとは違うお声。白いおウマさんがワタシを覗き込んでる。その瞳の中のワタシは、酷いカオ。こんなカオしちゃ、ミドの所に帰れない。

「...哀しいのはきっと、君たちだけじゃない」

シークがまた言う。ワタシはそっとカオを上げた。シークはまたエポナをやさしく撫でてた。

「彼らも...同じなはずだ。知らずにいるのもそうだろうが、知っていて黙っていなければならなかったのも...また辛かっただろう。...それにこんな運命に彼らを巻き込んでしまったのは彼ら自身のせいじゃないんだ............」

「...?」静かな声のトーンが落ちる。長い戦の中身をようやく少し知ったワタシに、シークの言外の意味は読めない。ワタシにはシークの言葉を待つことしかできない。そうして小さく、シークは呟いた。「__...私のせいだから」。
「(..."わたし"...?)」ふと、違和感を覚えたのは事実だけれど、同時にそれで、ようやくシークのホントウが見えた気もした。でもそれは、酷く切ないコトバ。

「......ワタシはやっぱりまだ、この戦いのコト、ぜんぶはわかってないヨ...シーク」

ワタシはぽつりと言った。濡れたカオを拭って、川に映る星の煌めきを眺めた。光は、ワタシたちの妖精を思わせる。ワタシたちみんなの...共通点。リンクとサリアを、想った。実は正義感の強かったリンクと、優しくて皆の中心だったサリア。二人のことなら、きっと、シークよりもわかるの。

「でもね...二人が誰かのせいだって思うコトなんて、絶対にないヨ。...二人がもうアナタに会えないというなら、ワタシがそう言う。二人のことは、よく知ってるもの。ヒトのせいだなんて思うコたちじゃゼッタイにないから」
「...ティゼ」
「そんなこと、言ってほしくないヨ」

ぐすり。また一雫 目から零れて、急いで拭う。こんなに泣いたのはいつぶりだろう?リンクやサリアがいなくなったときも、確か、...泣かなかったのに。確かに哀しかったのに。...まるで今初めて二人がいなくなったことを、実感したみたいだった。
昔の森がなつかしい。外の世界に興味はあったけど、興味があった世界に今こうして出て来れてるけど、もし昔に戻れるっていうならワタシはもうそんなことは思わないよ。何も変わらないことこそ幸せなことって、もう、知ったんだから。...でも...何もかも、もう遅いんだ。

「.......済まない、ティゼ。君も精一杯なはずなのに、無駄なことに気を回させてしまった」
「...気にしないでいいの。寂しいのは、シークも同じなんデショ?」
「...子供らしくないな」
「...確かにワタシは、きっと、シークよりは長生きしてる。でもやっぱりワタシはいつまでもこどものまま...」

大切なトモダチの運命を知ってもなにをすべきかわからない、それに、なんにもできない、こどものまま。
「ワタシは...この話を、どうすればいいカナ」。...ワタシが頼れるのは今、このヒトしかいない。ワタシはどうしたらいい?ミドにも...仲間にも教えたほうがいい?それとも、知ってて黙っておいたほうがいい?前だけ向いてようって、励ませばいいの?
でも、シークは教えてくれなかった。

「それはティゼが決める道だ...」
「...難しいよ」
「僕は君の仲間を知らない。君の仲間を思えばいい。...それは、何も今コキリにいる仲間たちじゃないはずだ。君の大切な二人の友人のことも...」
「.........」
「...僕はきっと、君の選択がどれでも、きっとそれは正しいんだろうと思う。今こうして話していてわかった......僕は君を信じられる」

大層なコトを言ってのけるシークに、ワタシは思わず笑ってしまう。「タダのこどもヨ、ワタシ」。シークもまた、笑ってくれた。「子供のほうがわかることもあるんだ」。軽い言葉のようで、それは酷く重い感じがした。シークの目に灯る光がそう教えてくれた。
満天の星空の下、シークは唐突に二つの楽器をとりだした。「...オカリナ、」そしてハープもあったけど、私が一番に目についたのがそっちだった。オカリナ。ーー二人に繋がる、大切な楽器。

「...ティゼはオカリナが吹けるか」
「...ウン」

なら、と。そっと立ち寄ったワタシにシークはオカリナを渡してくれる。サリアのオカリナに似た、でも少し色が違う、それ。

「森の歌を」

そうして優雅にハープをぽろろんと鳴らすシークに、私は少し涙が浮かんだ目で笑いかけた。ーーー「違うのヨ、シーク。..."サリアの歌"っていうんだから」。

大切な歌を共演する。ワタシたち一族が大好きな歌を吹く。一生忘れない、忘れられない、ワタシたちを繋ぐ...歌。
オカリナの音は、ハープの音に支えられながら、確かに夜空に響いて、遠くに聴こえるお祭りの音と馴染んで。

彼女たちを想いながら吹いていたメロディに、ワタシの名前を呼んでくれる声が、聴こえた気がした。


 
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