似た容姿をもつ二人の忍が対峙している時、カカシ班・ガイ班は既に"暁"のアジト前へと到着していた。そして八人の目の前に早速 提示された課題は五封結界の解除。最低でも四人はこの場から離れなければならないということで、数分後その任を負ったガイ班は「散」の一言でその場から消えていた。

残されたカカシ班には緊張感が募るばかり。今の彼らの使命はただ、我愛羅を救い出すことのみ。

まさか、手の届く距離に里抜けしてしまった仲間がいるなど、夢にも思っていなかった。



ーーー第二話 始まりの合図



「来ると思ってたぜ。多少は賭けに近かったが、お前はこうして来たんだから、この賭けはオレの勝ちみてえだな」
「罠......なんでしょうね。けれど退きませんよ。......嘘ではないんでしょう」

カナは北波を見据え、北波はカナを見据える。
北波の瞳の中のカナは、三年前とさほど変わった様子には見えなかった。身長が伸びた、多少は大人びた、それでも、さして変わっていないように見えた。
そして北波がカナについて分かることは、"変わったように見せたがっている"ことだった。

「......バカ正直に来てくれた礼に教えといてやるよ。あれは嘘なんかじゃない。今も封印を続けてる......いや、もう終わったかもな」
「......」
「オレを睨んだって何にもならねえぜ。大体今回は、オレも戦えないからな」
「......また邪魔しに来たのかと思ってましたけど」
「今のこの体は本体じゃねえんだよ。残念ながらな」

その割りには北波の手にある短刀がぎらりと光っている。北波がカナに向ける意志もまた、三年前と変わっていないようだった。
色々思うところはあるが、しかし、今のカナには北波への対応よりも、最も優先すべきことがあるのは確かだ。

「行こう、紫珀」
「......オウ」

珍妙にも黙っていた紫珀に声をかけ、カナは再び枝を蹴った。前方にいる北波にも恐れず、青年の横を過ぎ去ろうとする。

だがすれ違う際に、北波の目が鈍く光ったのを、カナは見逃しはしなかった。

ゴウ、と風が唸ってカナの周囲に作られたのは"風繭(かざまゆ)"。それにガッと大口を開けて噛み付いたのは、北波の術である"土蛇(つちへび)"。

目を眇めたカナはすぐさま北波と距離をとった。対する北波は、口元を上げる程度の笑みを見せている。

「冗談だっつの......これくらいならお前も止められんだろと思ってな、姫」
「......タチの悪いところは相変わらずですね」
「そうかもな。......詫びにこれをやるよ」

そう言って北波がカナに放り投げたのは、何の変哲もない黒のコートだった。咄嗟に受け取ったカナはまじまじとそれを見る。「怪しいなァ」とここに来てようやく喋った紫珀が北波を睨む。しかし、「失礼なヤツだな、ただの詫びだっつってんだろ?」と北波は本当に悪意がないかのように振る舞った。

「ソイツは役に立つと思うぜ。今 あの風影を助けに来ようとしてんのは、お前らだけじゃねえからな」
「......!?」

カナは瞠目する。嫌な予感は一気に高まった。

「木ノ葉のヤツらが、お出ましだ」

北波のその言葉に、紫珀は目を見開き、カナは髪で顔を隠していた。痛いほど拳を握り数秒、ようやく顔を上げて北波を睨みつける。だが開きかけた口は結局何も形を成さず、ふいと顔を背けていた。

「......紫珀」

ぽつりと相棒の名を呼んで姿を翻す。そしてふわりとコートを羽織る───それを見て、北波は笑っていた。


「"また始まった"」
「!」
「闇に潜む期間は終了だ......覚悟しとけ」


その瞳に隠す刃をちらつかせて、笑っていた。
カナはそれを一目見て、それから足元を蹴った。紫珀も同じように北波を一瞥したが、すぐにカナを追いかけていく。

そのまま消えていく二人をただ見送った北波もまた、フンとまた笑ってからその場に背を向けた。

「......やっぱり、お前は相変わらずだな」

ふっと北波の姿は風とともに消える。木の葉が風に吹かれてざわめいた。



「北波ガ神人ヲ逃シタヨウダ」
「はぁ!?何やってんだよあのヤロー!」
「いや、正確に言えば違うでしょ。北波はわざと彼女を行かせたみたいだった」

"暁"の一員であるゼツが半身ずつ報告すると、真っ先に不平を漏らしたのはデイダラだった。

北波を除く"暁"は、もう誰もが解印している。それは彼らが一つの亡骸を作ったことを意味するが、誰かがそれに気を止めることもなかった。

「一体 何考えてんだアイツは......うん。わざわざ"神人"に事を伝えた意味がねェじゃねぇか」
「落ち着けデイダラ。風羽カナはアイツのノルマだ......何か考えるところもあるのかもしれん」
「どうだかな。アイツも元は"あそこ"の出なんだろ?情が移っちまって殺すに殺せねえ上に、優しくしちまったんじゃねえのか」

デイダラの悪態をペインが制すると、傀儡"ヒルコ"に入ったサソリが呆れた笑いを零す。とはいえサソリもまた三年前、同意の上で"神人"を逃がした身だ。

「人のこと言えねえんじゃねえか旦那も、うん」
「黙れ」

白い目を向けるデイダラにサソリは一蹴した。だがサソリはこれだけで済むものの、もし北波に言ったならばどんな事になろうか、想像は容易い。「彼の前では言わないことですねェ」と鬼鮫は笑った。

するとちょうどその時、洞窟に蓋をしている大岩がぐわんと音をたてた。
結界があるため破壊はされていないが、相当な力が加わったことは確かである。木ノ葉の部隊が到着したということを悟ったペインは 「騒がしくなってきたな」と漏らした。

「外の奴らはサソリとデイダラで始末しておけ。ただし人柱力は生け捕りにしろ。他は解散だ」
「イタチ。九尾の人柱力はどんなヤローだ?」

我愛羅の命の灯火が消えた今、"暁"のメンバーが集合する理由はなくなった。ペインの言葉を境に、サソリは自分のノルマの為にイタチに問いかける。だが何故かじっと黙りこくるイタチ。「教えてやれ」とペインが促してやっとその口を開けた。

「一番最初に大声で怒鳴ってくるヤツがそうだ」
「...ん?何だそりゃ?」
「もっと具体的な特徴はねーのか、うん?」

疑問に思ったデイダラもイタチに問うが、イタチの幻灯身は無言でその場から消えていた。追うように鬼鮫のそれも消えていく。舌打ちしたサソリはもう一度 ペインを見た。

「風羽カナのほうはどうすんだ......放っといていいのか?」
「好きにすれば良い。だが優先事項は人柱力の捕縛......"神人"は二の次だ」
「けどよ、あっちから攻撃してきた場合は、北波に構わず捕まえるか殺すかしていいんだよな、うん?」
「ああ、それは許可する。あり得ないとは思うがな」

妙に確信じみた言い方に、二人は目を眇めた。

「風羽カナは基本的には戦闘を好まない性格だと聞いているがゆえだ。よっぽどの事がなければわざわざ姿を現すこともないだろう」
「あァ、それは言えてるな。少なくとも三年前のあの目は、"殺しをできない"目だった」

愉快な記憶を思い出すかのようにサソリは笑う。多少関わったとはいえそこまで知らないデイダラは、頭にハテナマークを浮かせていたが。「連絡を待つ」とペインが言って、デイダラとサソリを除く"暁"はそれで全員消えていた。

残ったのは二人と、もう息のない、我愛羅のみ。



カナの前を勢い良く飛ぶ紫珀は微かに目を細めていた。紫珀が徐々に落ちているカナの速度に気付くのはわけのないことだった。その理由も、何となく分かっている。

「(色んなチャクラが辺りに散漫しとんな......)」

"風使い"でない紫珀でも気付けるほど、チャクラの気配が色濃い。しかもその正体は先ほど北波によって明かされた。
紫珀が僅かに振り向けば、カナの顔色は良いとはとても言えない。羽織ったコートのフードで顔を隠すように俯いていた。

「......平気か」

紫珀が静かに問えば、カナはぴくりと身を震わせた後、小さく「平気」と呟いた。嘘であることは明白であったが、紫珀はそれについては言及せずに、更に静かに聞く。

「......もしかせんでも、お前の知り合いのチャクラか」

動揺を必死で押し殺したカナが、こっくりと頷くのを紫珀は確かに見た。

「どうするんや」
「......何のこと?」
「木ノ葉の奴ら。見に行くつもりか」

ーーーここ三年間、紫珀はカナに口寄せされることは激減していた。
三年前までは用がなくとも度々呼ばれていたが、それは完全に途絶え、今やカナは必要最低限のことしか口にしようともしない。
だが、その心中の想いを察せるからこそ、紫珀は何も言えなかった。
こんな時も。

「......紫珀。"私は今は復讐に目を向けてるんだよ"......行くわけないでしょ?」

言いながら、カナはフードの端を掴み、顔を隠す。籠った声を聞いた紫珀は前に向き直り、密かな溜め息をついた。
カナの速度が"重み"を振り切るように上がる。紫珀もそれ以上は何も言わず、目的地を最短距離で目指した。
川の国はもう近い。



イタチの助言は適確だった、というのが結論だった。ガイ班の協力を得てアジト内に踏み込んだナルトは、その中で見たものに打ち震え、耐えられずに怒鳴っていた。

「てめーら....!ぶっつぶす!!」

デイダラとサソリに座られている我愛羅は、もう二度とその目を開けられない。ナルトはその瞳に涙を溜め込んだ。"九尾"のチャクラが溢れ、目の色は赤へ。そうなってしまったらもう冷静な判断力はなく、ナルトはデイダラの誘いに呆気なく乗ってしまい、カカシもそれを追う事になった。

しかし、デイダラを追うナルトを更に追うカカシは、どこかで違和感を感じていた。

カカシは何故かデイダラに集中しきれなかった。それはカカシの鼻がいい為か、確かに感じる"それ"の正体を、完璧に掴みきれはしないものの、絶対に勘違いではない。

カカシ班・ガイ班以外のチャクラがかなりの速度で動いている。それも二つ。
一つはそれほど大きくはないが、もう一つは確実に"異質"だった。

「(だが......オレはこのチャクラを、知っている......?)」

不確かな想いを胸に、カカシは目の前のナルトを追う。
どれほど違和感に苛まれようとも、この場を離れるわけにはいかなかった。


 
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