fragola
雲雀夢/少陰夢


Since:2010/08/01
Removal:2013/04/01



魅了するもの


休みの日には、色々とやる事がある。

例えば、ナンパとかナンパとかナンパとか。


今日も可愛い子ちゃんを探してハンティングー♪



「そこの彼女ー!一緒にお茶でもどう?」



声を掛けては、無言で去っていく女性達を引き留めるでもなく。


とりあえず声を掛ける、といった様子の正臣に、帝人は呆れたように溜め息をついた。

竜ヶ峰帝人。

先日池袋に越してきた、紀田正臣の幼なじみだ。



「ねぇ・・・いつまで続けるの?」


「いつまでも!この世に女子がいる限り、俺は愛を囁き続ける!

ってか映画の試写会のチケットが2枚当たったんだよ。“お前の血は何色だ”!待望のホラー映画!きゃーこわぁーい!とか言って、抱きつかれたりー!!」



正臣の発言に帝人は、今日で何度目になるかわからない溜め息が口からこぼれた。


そのチケットが無駄にならない間に、誰か誘えたら良いのだが。


というかイタい。イタすぎる妄想だ。


シン・・・・・・・・・


不意に、辺りが静かになった。


いや、交通の多い池袋で車やバイクの音が止むことはない。

正確には、人の声が小さくなったのだ。


耳をすませば、囁くような小さな声が僅かに聞き取れる。


不思議に思い、2人はぐるりと辺りを見回した。





―――そして見つけた。



人の多いこの街に埋もれることなく、圧倒的な存在感を持った、女性。


周りの視線を気にも留めず、いや、そういった視線に慣れているような、それが当たり前だと言うような・・・


そんな堂々とした姿で颯爽と歩いていた。


凄まじい、美貌。


力の抜けた正臣の手からチケットが離れ、風に舞う。


それはちょうど、あの女性の近くに落ちた。


拾い上げて、きょろきょろと辺りを見回す彼女をみて、正臣ははっと我に返った。



「すみません、僕のです」



痛いくらい脈打つ心臓。

息を深めに吸いながら、近寄った。



「はい、どうぞ。今日は風が強いみたいだから気を付けて」



にこりと笑うその人に、魅せられた。



「っあの!」



去ろうとする彼女の腕をとっさに掴む。



「え?」



・・・が、特に用があったわけでもなく。


ただ、この人との繋がりを切りたくない。


そう強く思ったから。



「俺、紀田正臣っていいます!お姉さんは?」


「ちょ、紀田君!?」



うるせーよ、帝人。

これは、逃しちゃいけない繋がり、だ。

俺の本能がそう告げている。



「聞いて、どうするのかな?」


「・・・・・・え?」



しかし返ってきたのは予想外の言葉で。


にこりと浮かべられた笑みに、背筋が震えた。



「よく知りもしない相手に不用意に名乗るものじゃないよ、紀田正臣君?

名前も立派な個人情報なんだから」



俺達とは一線を画したような。


独特の雰囲気。


固まった俺の横をすり抜ける彼女の腕を慌てて、反射的に掴んだ。




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