休みの日には、色々とやる事がある。
例えば、ナンパとかナンパとかナンパとか。
今日も可愛い子ちゃんを探してハンティングー♪
「そこの彼女ー!一緒にお茶でもどう?」
声を掛けては、無言で去っていく女性達を引き留めるでもなく。
とりあえず声を掛ける、といった様子の正臣に、帝人は呆れたように溜め息をついた。
竜ヶ峰帝人。
先日池袋に越してきた、紀田正臣の幼なじみだ。
「ねぇ・・・いつまで続けるの?」
「いつまでも!この世に女子がいる限り、俺は愛を囁き続ける!
ってか映画の試写会のチケットが2枚当たったんだよ。“お前の血は何色だ”!待望のホラー映画!きゃーこわぁーい!とか言って、抱きつかれたりー!!」
正臣の発言に帝人は、今日で何度目になるかわからない溜め息が口からこぼれた。
そのチケットが無駄にならない間に、誰か誘えたら良いのだが。
というかイタい。イタすぎる妄想だ。
シン・・・・・・・・・
不意に、辺りが静かになった。
いや、交通の多い池袋で車やバイクの音が止むことはない。
正確には、人の声が小さくなったのだ。
耳をすませば、囁くような小さな声が僅かに聞き取れる。
不思議に思い、2人はぐるりと辺りを見回した。
―――そして見つけた。
人の多いこの街に埋もれることなく、圧倒的な存在感を持った、女性。
周りの視線を気にも留めず、いや、そういった視線に慣れているような、それが当たり前だと言うような・・・
そんな堂々とした姿で颯爽と歩いていた。
凄まじい、美貌。
力の抜けた正臣の手からチケットが離れ、風に舞う。
それはちょうど、あの女性の近くに落ちた。
拾い上げて、きょろきょろと辺りを見回す彼女をみて、正臣ははっと我に返った。
「すみません、僕のです」
痛いくらい脈打つ心臓。
息を深めに吸いながら、近寄った。
「はい、どうぞ。今日は風が強いみたいだから気を付けて」
にこりと笑うその人に、魅せられた。
「っあの!」
去ろうとする彼女の腕をとっさに掴む。
「え?」
・・・が、特に用があったわけでもなく。
ただ、この人との繋がりを切りたくない。
そう強く思ったから。
「俺、紀田正臣っていいます!お姉さんは?」
「ちょ、紀田君!?」
うるせーよ、帝人。
これは、逃しちゃいけない繋がり、だ。
俺の本能がそう告げている。
「聞いて、どうするのかな?」
「・・・・・・え?」
しかし返ってきたのは予想外の言葉で。
にこりと浮かべられた笑みに、背筋が震えた。
「よく知りもしない相手に不用意に名乗るものじゃないよ、紀田正臣君?
名前も立派な個人情報なんだから」
俺達とは一線を画したような。
独特の雰囲気。
固まった俺の横をすり抜ける彼女の腕を慌てて、反射的に掴んだ。
魅了するもの
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