あの放送の後、生徒達はすぐに移動を始め、チャイムが鳴る頃には、すでに全員が整列していた。
ステージには、大きなスクリーン。
そして生徒会長の姿。
「これより、生徒総会を始めます。
まず最初に、1年A組の永山春菜さん」
名前を呼ばれた本人はもちろん、全校生徒が反応した。
「ステージへ上がって下さい」
にこり、とその場に合わない穏やかな笑顔で告げる璃真さん。
バカな姫に、逃げ場はない、ね。
ああ、彼女を姫と表現するのは正しくないか。
永山さんが、恐る恐る、と言った感じで璃真さんの隣に立った。
ささっとパイプ椅子を用意して座らせる。
あんなのにも、紳士的な態度を崩さない璃真さんって・・・・・・。
もう、男が男に見えないよねー。
などと、美歩も、その場に合わない、暢気なことを考えていた。
璃真さんは、永山さんが座ってから、話し始めた。
「みなさん、今学校である噂が流れているのを知っていますか?」
噂・・・・・・それは、笹川京子が永山春菜を刺した、というもの。
「私は笹川京子はそんなことをしない、と自信を持って言えます」
この瞬間、この学校・・・いや、この町の全員が笹川京子側だ。
「・・・と、言っても私の勝手な思いが証拠になるわけではありません。
実際、永山さん本人に確認したところ、笹川京子に刺された、と。
そうですね?」
永山さんは、小さく、はい、と答えた。
「なので、まずは証拠が必要でしょう。
皆さん、スクリーンをご覧ください」
体育館内の照明が消えて、プロジェクターが作動した。
スクリーンに映像が流れ始める。
階段を上がり、屋上のドアが映った。
そのドアが開き、次に永山さんが映る。
「《ごめんね、永山さん・・・遅くなっちゃって・・・》」
京子ちゃんの声が聞こえた。
この映像は京子ちゃんの目線で撮影されたものなのだろう。
「《本当よ!トロいわね!》」
「《本当にごめんね・・・》」
怒鳴る永山さんの姿に体育館内がざわついた。
ステージにいる永山さんの顔が、面白いくらい蒼白になったのがわかった。
ぷぷぷ。あ、笑っちゃった、失礼。
ぶっちゃけ、君の足りない頭じゃ、仕方ないよ、としか思えなくて、同情も出来ないけど。
「《それで、話って?》」
「《・・・あんたウザいのよ!!ツッ君の周りをうろちょろして!
今後一切、ツッ君と話さないでくれる?!》」
「《・・・・・・え・・・?》」
「《だから、沢田綱吉君に近づくなって言ってんの!
あんた何かより、私のほうが彼に相応しいのよ!》」
「《・・・・・・ツナ君は、私の大切な友達だから、私はツナ君と、今まで通り、仲良くしたい!》」
「《っそう!わかったじゃあ、嫌われてよね?》」
ポケットから取り出したカッター。
みんなが、息を呑む気配がした。
ま、次にどうなるか、理解したんだろうね。
あはは、今更なんだよって感じだわ。
永山さんはグサリと自分の腕に突き刺した。
「《!な、永山さん何して・・・は、早く手当てしないと・・・》」
「《後でツッ君にしてもらうからぁ♪
きゃあぁぁぁぁぁ!!!》」
そこで、映像が切り替わった。
生徒会室だ。
「《適当に座って。
紅茶はダージリンでいいかな?アールグレイの方が好き?》」
「《どっちでも良いですよぉ》」
璃真さんと永山さんが入ってきた。
もしかして、今日の4時間目の出来事?
もう編集したのか。
仕事早いなぁ。
「《あ、あのぉ・・・あなたは・・・?》」
「《あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったね。
私は並盛中生徒会会長なの。よろしくね》」
・・・違和感。
今、璃真さん、自分の名前を言わなかった。
わざと?
永山さんが“沢田綱吉”に好意を抱いてるって知ってたのか?
「《昨日の屋上の件で、ね。腕は大丈夫?
かなり深く刺したみたいだけど》』
かなり“深く刺した”みたいだけど
・・・なーんだ。
バレバレだったんじゃん?
まあ、それもそうか。璃真さんだもんね。
「《大丈夫ですよぉ?お話って、それだけですかぁ?》」
しかも、その言い回しに全く気付いていない永山さん。
バカって言うか、ここまで頭が回らないって、哀れで滑稽。
本当に、私を楽しませてくれる人だ。
ここで爆笑出来ないのが辛い。
腹筋が割れそうだ。鍛えられる。
あ、これでウエスト引き締まったりしないかなー・・・。
審判の時
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