授業中なので当たり前ながら、廊下は静まり返っていた。
途中、遅刻してきた生徒だろう女とすれ違い、付いたのは生徒会室。
「適当に座って。
紅茶はダージリンでいいかな?アールグレイの方が好き?」
「どっちでも良いですよぉ」
紅茶の味の違いなんて、知らないわよ!
とりあえず、示されたソファーに腰を下ろす。
「あ、あのぉ・・・あなたは・・・?」
紅茶を入れ終わった女が向かいに座るのを待ってから、口を開いた。
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったね。
私は並盛中生徒会会長なの。よろしくね」
生徒会長が何の用だ。
「昨日の屋上の件で、ね。腕は大丈夫?
かなり深く刺したみたいだけど」
「大丈夫ですよぉ?お話って、それだけですかぁ?」
早くこの場を離れたいのか、永山本人は気付いていないが、そわそわしている。
「ううん。そんなことでいちいち呼ばないよ。
「じゃあ、なんですかぁ?」
「ちょっと噂を聞いたんだけど・・・
笹川京子にイジメられた・・・・・・
ねえ、それ・・・本当?」
!!!!
空気が変わった。
口元に浮かべられた薄い笑みは、この場を完全に支配している。
「ほ、本当ですよぉ・・・?」
気圧され、息をゴクリと飲んだ。
何・・・・・・
何なのよ、この女・・・?
「私、あなたや京子とは1つ上の学年でね。
京子の兄の笹川了平君と仲が良いから、私が中1・・・・・・京子が小6のころから、京子とは仲良くさせてもらってるの」
「つまり・・・私が京子ちゃんにイジメられてるのはぁ・・・・・・
嘘だと、思ってるんですねぇ?」
「うん、その通り。私、勘が良いの。目を見たらあなたが嘘をついてることくらい、すぐにわかる」
ふっと、空気が軽くなった。
再び相手に呑まれるわけにはいかない。
チャンスは今だけ。
それは、今までしてきた中で最も間違った選択。
「―――で、話ってそれ?」
「そう。嘘なら嘘って認めて欲しいんだけど」
急に変わった態度にも、璃真は全く動じない。
「ばっかばかしい!くだらないことに時間取らせないでよね!
笹川京子が何よ?邪魔なのよアイツ!」
「京子は、稀にみる良い子だよ?あの子の瞳は、いつも澄んでる。
だから、私はあの子の瞳を濁そうとする人を許さない。
でも、何か理由があるなら知りたい」
女の子に、手荒なマネはしたくないし・・・。
話し合いで済むなら、それが一番だ。
「あーっ!あんたマジでウザい!
偽善者?あんたに理由話す義務も義理も無いっつーの!」
「そう・・・残念。
じゃあ、話は終わり!教室に戻って良いよ」
私がそう言うと、イライラしながら立ち上がる永山さん。
「二度と呼び出すな!ブス!」
バシャっと口の付けていなかった紅茶を、璃真に掛けて、春菜は生徒会室を出た。
冷めてたから、熱くなかった、けど・・・。
「紅茶・・・シミになったら嫌だなぁ・・・」
そう呟きながらも、璃真の口元には、先ほどの笑みが浮かぶ。
それは、絶対的な支配者の、笑み。
「さーてと。締めと行きますか」
そう言って、璃真は棚に置いていたカメラの撮影停止ボタンを押した。
まぁ、こんなの無くても証拠は十二分にあるんだけど、ね・・・?
携帯を出して、電話をかける。
「あ、もしもし恭弥?準備オッケーだよ!
ついでに、制服代えってあるかな?
ん?ちょっと紅茶がこぼれただけ。
てっ君にクリーニング頼んどいてー」
崩壊はすぐ目の前。