異邦の影を探し出せ
たとえ昨夜に化け物退治の為に遅くまで都中を駆け回っていたとしても、明け方近くに帰って来た弟を出迎えようと夜更かしていたとしても、だからと言って翌日に寝坊して良いということにはならない。
というか、そんな事をしたが最後、二度と昌浩を出迎えるために夜更かしすることなど出来ないのは間違いない。
しかし、そうとはわかりつつも、あくびが出るのは誤魔化せない。
「・・・・・・さすがに、眠い・・・」
睡眠時間は一刻弱といったところか。
楓牙に起こすように頼んでおいて良かった。
自分だと確実に起きられなかったわね・・・・・・。
「主様、もう少しお寝みになられたほうが・・・」
「だめよ。朝餉の用意をしないと」
「わ、我がします!ですから主様は・・・」
「気持ちは嬉しいけれど、楓牙。あなた料理をしたことはないでしょう?」
「う・・・・・・・・・」
とんとんと、調子よく聞こえる包丁の音。
止まることの無いてきぱきとした動作からも伺えるように、理紗は料理が上手い。
その理紗の“代わり”を料理経験が皆無な者が務めるのは、早い話が、不可能だ。
しゅんと耳を垂らした楓牙に理紗は苦笑を浮かべる。
「・・・なら、楓牙にも手伝ってもらおうかしら」
言った瞬間、楓牙は勢い良く顔を上げて、尻尾をぱたぱたと振る。
「
首を傾げてお玉を差し出すと、楓牙は器用に直立し、両前足でお玉を掴んだ。
「(か、かわいい・・・!)」
内心、楓牙の可愛さに身悶えながら、それを表面には出さずに、具材を切る。
手を動かしつつも横目に楓牙を盗み見ることを忘れない。
この可愛さは犯罪級だ。
親馬鹿ならぬ主馬鹿なことを考えながら、理紗は零れ出たあくびを噛み殺した。
ううー・・・
それにしても眠い・・・。
「理紗、朝餉が済んだら少し
顕現した六合が普段の無表情に心配の色を浮かべながら言う。
「・・・大丈夫よ、六合。お洗濯にお掃除にと、やることもたくさんあるし。
きっと昌浩が破れた狩衣なんかを隠していると思うから、それも繕ってあげないと」
全て手作業なこの時代。
家事をこなすのもなかなか時間が掛かるのだ。
「理紗・・・」
まだ心配そうに見る六合に、理紗はもう一度、大丈夫だと告げた。
「昌浩も頑張っているんだもの。私だけ休んでいられないわ。
心配してくれて、ありがとう」
にこりと柔らかく微笑まれた六合は、内心溜め息をついた。
彼女はいつも頑張り過ぎる。
手を抜くということを知らないのか、いや、気を張りすぎている、のか。
他人に気を使いすぎていて、いつも自分を一番下に置く。
気が利くのは良いことだが、もう少し自分にも気を使ってほしい。
彼女の自分への無頓着さは何なのだろうか。
六合は楓牙に羹の味見をさせる理紗を見て、もう一度ため息をついた。
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