「ジャッカル!さっさと練習始めるぜぃっ!」
「あ、ああ・・・」
部活中、なぜか機嫌の良いチームメイトに幸村は首を傾げた。
「赤也、コートに入りんしゃい。相手しちゃるき」
「いいっスよ!今日の俺は無敵っス!!」
しかも、他にも機嫌の良い者がちらほら。
「皆さん妙に機嫌が良いですね」
俺以外にもそう感じた者がいるようで、柳生も不思議そうに呟いた。
「そうだね」
理由知ってる?と情報通な友人に尋ねる。
「・・・さぁな。だいたいの予想はつくが」
そう答えた柳自身も、どことなく機嫌が良さそうだ。
「で?」
その予想とは?
「おそらく沢田に会えたのが嬉しいのだろう」
「沢田?」
知らない名前に隣の柳生を見てみるが、こちらも知らないようで首を横に振った。
「今日、仁王と丸井のクラスに転入してきた女子だ」
「ああ、噂の」
季節外れの転校生。
美人で優しいって専らの噂だ。
でも。
「理由になってないな。そんなことであいつらの調子が上がったとでも?」
「おそらく、な。少なくとも俺の理由はそれだからな」
「・・・・・・へぇ?」
1拍遅れて意味を理解した幸村は面白そうに笑みを浮かべた。
「気になるな。どんな子なんだい?」
「そうだな・・・一言で言うと、不思議な奴、だ」
「不思議、ね」
柳には珍しく、ずいぶんと曖昧な言い方だ。
「百聞は一見に如かずだ。精市も会ってみたら分かる」
柳はそういうと、ラケットを持ってコートに向かった。
****
「(あ・・・)」
噂の彼女との邂逅は、その翌日に訪れた。
今ではもう日課となっている、中庭の花壇の水やり。
毎日朝練の前にしている為、人より早く来ているのだが、その花壇の前に噂の彼女がいた。
登校するには、ずいぶん早い時間帯だ。
「あ、おはようございます。園芸部の方ですか?」
「い、や・・・・・・違うよ」
ふわりと向けられたら笑みに、心臓がドクンと大きく脈打った。
「あれ?そうでしたか。
でも、この花の世話はあなたがなさったのではありません?」
「・・・うん、どうしてわかったの?」
「花の雰囲気があなたによく似ている気がして」
そっと花に触れていう彼女とは、初対面のはずなのに、なぜか心が安らいだ。
「・・・あ」
よく見ると、花に触れる手は土で汚れている。
それに彼女のそばには抜き取られた雑草で小さな山が出来ていた。
「・・・草むしり、してくれたんだ」
他にも邪魔な葉が切り取られていて、彼女は園芸に詳しいのだろうとわかった。
「え?あ、はい。雑草は毎日生えますからね。
あ、余計なことしましたか!?」
「いや、ありがとう」
じょうろの水を撒いてから、彼女の横にしゃがんだ。
「何でこんな朝早くに学校に来たんだい?」
「・・・つい、癖で」
7時に学校に来るのが・・・?
しかし、彼女が嘘を言っているようには思えなかった。
「ちょうど良かったので、学校を見て回ってたんです。そしたら、この花壇を見つけて」
イキシア、ルピナス、銭葵。
花を見て、スラスラと名前を上げていく。
噂の彼女
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