fragola
雲雀夢/少陰夢


Since:2010/08/01
Removal:2013/04/01



噂の彼女


「ジャッカル!さっさと練習始めるぜぃっ!」


「あ、ああ・・・」



部活中、なぜか機嫌の良いチームメイトに幸村は首を傾げた。



「赤也、コートに入りんしゃい。相手しちゃるき」


「いいっスよ!今日の俺は無敵っス!!」



しかも、他にも機嫌の良い者がちらほら。



「皆さん妙に機嫌が良いですね」



俺以外にもそう感じた者がいるようで、柳生も不思議そうに呟いた。



「そうだね」



理由知ってる?と情報通な友人に尋ねる。



「・・・さぁな。だいたいの予想はつくが」



そう答えた柳自身も、どことなく機嫌が良さそうだ。



「で?」



その予想とは?



「おそらく沢田に会えたのが嬉しいのだろう」


「沢田?」



知らない名前に隣の柳生を見てみるが、こちらも知らないようで首を横に振った。



「今日、仁王と丸井のクラスに転入してきた女子だ」


「ああ、噂の」



季節外れの転校生。

美人で優しいって専らの噂だ。


でも。



「理由になってないな。そんなことであいつらの調子が上がったとでも?」


「おそらく、な。少なくとも俺の理由はそれだからな」


「・・・・・・へぇ?」



1拍遅れて意味を理解した幸村は面白そうに笑みを浮かべた。



「気になるな。どんな子なんだい?」


「そうだな・・・一言で言うと、不思議な奴、だ」


「不思議、ね」



柳には珍しく、ずいぶんと曖昧な言い方だ。



「百聞は一見に如かずだ。精市も会ってみたら分かる」



柳はそういうと、ラケットを持ってコートに向かった。










****



「(あ・・・)」



噂の彼女との邂逅は、その翌日に訪れた。



今ではもう日課となっている、中庭の花壇の水やり。


毎日朝練の前にしている為、人より早く来ているのだが、その花壇の前に噂の彼女がいた。


登校するには、ずいぶん早い時間帯だ。



「あ、おはようございます。園芸部の方ですか?」


「い、や・・・・・・違うよ」



ふわりと向けられたら笑みに、心臓がドクンと大きく脈打った。



「あれ?そうでしたか。

でも、この花の世話はあなたがなさったのではありません?」


「・・・うん、どうしてわかったの?」


「花の雰囲気があなたによく似ている気がして」



そっと花に触れていう彼女とは、初対面のはずなのに、なぜか心が安らいだ。



「・・・あ」



よく見ると、花に触れる手は土で汚れている。


それに彼女のそばには抜き取られた雑草で小さな山が出来ていた。



「・・・草むしり、してくれたんだ」



他にも邪魔な葉が切り取られていて、彼女は園芸に詳しいのだろうとわかった。



「え?あ、はい。雑草は毎日生えますからね。
あ、余計なことしましたか!?」


「いや、ありがとう」



じょうろの水を撒いてから、彼女の横にしゃがんだ。



「何でこんな朝早くに学校に来たんだい?」


「・・・つい、癖で」



7時に学校に来るのが・・・?


しかし、彼女が嘘を言っているようには思えなかった。



「ちょうど良かったので、学校を見て回ってたんです。そしたら、この花壇を見つけて」



イキシア、ルピナス、銭葵。



花を見て、スラスラと名前を上げていく。




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