「やあ、沢田さん」
「ああ、幸村君。先程ぶりですね」
1時間目の授業が始まる前の休み時間。
何やら廊下が騒がしくなったかと思えば、教室に今朝会った幸村君が入ってきた。
「えっと・・・私に何かご用ですか?」
隣の席の丸井君や、廊下側にいる仁王君を通り抜けて真っ直ぐ私の所まで来たということは、そういうことだろう。
「少し君と話してみたくて」
「話・・・ですか。花とか園芸について?」
「うーん・・・そういうのも良いけど、別に何でもいいんだ。
沢田さんのことが知りたい」
途端、きゃー!やら、嘘ー!やらと叫び声が聞こえた。
チラッと仁王君と丸井君を見ると、これでもかと言うほど瞠目していた。
彼らにも幸村君の行動は驚きのようだ。
しかし幸村君は2人には見向きもせずに、私の前の席に座った。
「っ幸村!お前さん、いつ璃真と知り合ったんじゃ!?」
「あれ?仁王は沢田さんのこと名前で呼んでるんだ?じゃあ、俺も璃真って呼んでもいい?」
「お好きなように呼んで頂いて構いませんよ」
仁王君を無視して尋ねる幸村君は、中々腹黒い性格なようだ。
「仁王君、幸村君とは今朝会ったんです」
さすがにフォローを入れ、見事な銀髪をよしよしと撫でた。
照れたのか、少し赤い顔で「子ども扱いするんじゃなか」と小さい声で言われたが、手を振り払われることはなかった。
「璃真は仁王達とはいつ知り合ったの?」
「先週です。編入のことで立海に来ていたときに」
「ふーん」
じゃあ、と幸村君が言葉を続けようとしたとき、予鈴が鳴った。
「・・・残念。また来るよ、璃真」
「はい、ではまた」
と、笑顔で見送ったのだが。
私に興味を持たれると、困るんだけどなぁ・・・。
本来ならここにいないはずの人間だし。
園芸仲間、そんなに少ないのかな?
それから幸村君はほぼ毎休み時間やって来た。
質問は好きな物や趣味などの他愛ないものから、家族構成やイタリアでの生活はどうだったか、などの身辺調査的なものまであった。
・・・怪しまれているのだろうか?
私が知っているイタリアの地名がこちらのイタリアにもあるとは限らないので、適当にぼかしつつ笑顔でやり過ごした。
そして昼休みになり、さすがに昼休みは幸村君も来ないだろうと思った私はお弁当を掴んで裏庭へ向かった。
昨日もそこで食べたのだが、裏庭は花壇はあるが大きな木は無く、空がよく見える。
璃真はお弁当を食べるでもなく、芝生に転がって空を眺めた。
この広い大空は、この世界でも変わらない。
・・・所変わって、屋上。
週に2、3回、テニス部のレギュラー陣はここで一緒に昼を食べる。
委員会の用事で他のレギュラー達よりやや遅れて屋上に着いた柳生は、漂っていたただならぬ雰囲気に首を傾げた。
不機嫌そうな笑顔の幸村に、冷や汗を流す仁王と丸井。
「柳生、遅かったな」
入ってきた柳生に気付いた柳が声をかけた。
「あ、はい。委員会で呼び出しがあったものですから・・・・・・。
それより、何かあったのですか?」
「何でもないよ。ただ、仁王と丸井が使えないなぁ、と思っただけだ」
笑顔であそこまで人に恐怖を与えられるのも珍しい。
理由を詳しく聞くと、昼食に沢田さんを誘おうと思って幸村君が教室に行くと、沢田さんの姿はすでになく、同じクラスの2人に八つ当たり気味なようだ。
「沢田とは誰だ?」
こういうことには疎い真田に、柳が転校生だと簡単に答えた。
「わざわざ教室まで会いに行かれたんですか?」
「初めて話したのは朝練の前だよ。中庭の花壇の前にいたんだ」
幸村は嬉しそうにクスリと笑った。
どうやら彼も気に入ったらしい。
沢田・・・璃真さん、でしたか。
私も話してみたいですね。
お昼ご飯
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