fragola
雲雀夢/少陰夢


Since:2010/08/01
Removal:2013/04/01



勧誘


「―――と、なる。では次の文を・・・沢田」


「・・・はい。
I passed all the other courses・・・」



聞こえて来るのは、流暢な英語。


今は5時間目。


あんなことがあったにも関わらず、沢田は昨日や午前までと変わらない様子で授業を受けていた。

本当に、気にしていないんだ・・・、強がっているわけでもなく。


昨日今日の付き合いだが、沢田は勉強が十二分に出来るんだとわかった。


高校内容と思われる問いにも平然と答えている。


そして、コイツは授業を真面目に聞くタイプじゃない、ということもわかった。


教師に当てられたら詰まることなく答えるが、それ以外は、ずっと空を見ている。


ノートは真っ白。


で、たまに白のケータイをポケットから出して、画面を見ては溜め息を付く。


しかも、その横顔が・・・


すげぇ寂しそう・・・なんだよな・・・。


よくよく考えたら、今までの沢田は本当に笑っていたのかも分からない。


ふわりと“微笑む”ことはあったけど“笑う”ことは無かったような気がする。


何か、壁を感じるのは気のせいだろうか。


こいつは、手を伸ばせば届く距離にいるのに、すごく遠く感じた。



「丸井・・・丸井!」


「えっ、あ、はい!」



やっべ・・・。

聞いてなかった!



「丸井君、21ページの10行目からですよ」



沢田が小さく呟いて、机に置かれた教科書を指で示した。



「えっと・・・あ、I have been to・・・・・・」



ふぅ、と小さく息をついて席に座った。



お礼を言おうと隣を見ると、やはり沢田は空を眺めていた。


・・・これでちゃんと先生の話も聞いてんのか。



「沢田」


「はい?」


「サンキューな」


「ふふ、どういたしまして」



そう言って柔らかく微笑んだそれが。


作り物のように思えたのは何故だろうか。















高校生である私には、中学の勉強は全て復習になるので、授業はとても簡単なものだった。


窓から大空を見上げて、元々使っていた白いケータイを眺める。

こちらでは使えない為、新たにピンク色のケータイを契約したにも関わらず、この白いケータイを持ち歩いているのは、ひょっとしたら、この白いケータイが鳴るのではないか、と淡い期待を捨てきれないからだ。


ぼけっとしている授業態度が気に入らないのか、毎時間毎時間、当てられたけど、私からしてみれば、自分が授業に出てること事態が珍しいので、新鮮に思っただけで苦ではなかった。

・・・・・・今まで、生徒会室や応接室で、過ごしていたから。



私、ちゃんと向こうに帰れるよね・・・?


元はと言えば、10年バズーカの故障なんだ。

ジャンニーニさんや、未来の記憶を引き継いだ正一君やスパナさんもいるし、何とかしてくれるはずだ。うん。


暗くならないように普段通りに振る舞ってはいるも、やっぱり単身、異世界へ飛ばされるのは心細い。



「はぁ・・・・・・」



ケータイの待ち受けを見て、璃真は今日で何度目になるかわからない溜め息をついた。


私って、結構寂しがりなのかなぁ・・・。



「では次の文を丸井」



本文を読ませて、先生が解説して訳す。

単調な作業で、詰まらない。


授業中に寝る生徒がいるのはこのせいかな。

帰ったら並盛の学校の授業の仕方を改める必要があるね。



「丸井・・・丸井!」


「えっ、あ、はい!」



丸井君は慌てて立ち上がったが、目線はキョロキョロと教科書の上を彷徨っている。



「丸井君、21ページの10行目からです」



自分の教科書で文を指差して小声で言うと、丸井君がたどたどしく英文を読み上げた。


・・・ツナ達も、今頃学校かな・・・。


空を眺めて想うのは、みんなのことばかり。



「沢田」


「はい?」



名前を呼ばれ、振り返る。



「サンキューな」


「ふふ、どういたしまして」



ちゃんと笑顔で返したはずなのに、丸井君は少し寂しそうに眉を下げた気がした。















「今日の授業はここまで」


「起立、礼」



チャイムが授業の終わりを告げ、教師も教室を出て行く。


入れ替わるように幸村君が入ってきて、思わず苦笑してしまった。



「休み時間になる度に来なくても」


「迷惑?」


「そんなことは」


「なら良いじゃないか、俺の時間なんだから俺の好きなように使うよ」



幸村君は私の前の席に座って柔らかく微笑んだ。


仁王君が私の後ろの窓に背を預け、私の髪をいじりだした。

テニス部が固まったので、必然的に視線がこちらに集まる。



「璃真の髪はふわふわじゃのう」


「そうですか?」


「ピヨ」



・・・ピヨ?


仁王君の口癖だろうか?


随分と可愛らしい。



「璃真、放課後は暇?」


「特に予定はありませんが・・・」



身元調査の続き・・・なのかな。


やっぱり幸村君には警戒されてるんだ・・・。


何か怪しい行動とったっけなぁ・・・。



「なら一緒に帰らない?」


「「なっ!!?」」



丸井君と仁王君がなぜ驚いたのかは知らないが、同時に仁王君が髪を引っ張ったので、頭がそっちに持っていかれた。



「・・・仁王君、痛いです・・・」


「す、すまん!大丈夫か?」


「はい、大丈夫です」



髪を手櫛で整える。



「幸村君、抜け駆けだろぃ!」


「俺も一緒に帰るなり」



そう言うと幸村君は露骨に嫌そうな顔をした。


や、やっぱり取り調べ的なことをする予定・・・!?


ここは名乗りを上げてくれた2人に同行してもらうのが得策だ。



「いいじゃないですか。2人とも、部活仲間と楽しく帰りたいんですよ。ね?」


「「「・・・・・・・・・はぁ・・・」」」


「・・・何の溜め息ですか?」


「何でもなか」


「気にすんな」


「長期戦覚悟だからいいよ」


「長期、戦・・・?」



え・・・。


これからも隙を見て身元調査するつもりってことですか!?


ゆ、幸村君と2人きりになるのはなるべく避けよう・・・・・・。





璃真の天然鈍感故の勘違いはまだまだ続く。




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