黎明in魔法(親世代)
「陰気で狡猾、純血主義で闇の魔法使いになる確率が最も高いスリザリン・・・。こう聞くと確かに悪役っぽいかしら」
手摺に肘をついた理紗は自身の首を飾る緑色を撫でて、階下を見下ろした。口は笑っていても、その瞳に感情は見えない。
呟かれた言葉は日本語で、欧米人が大半を占めるこの学校内では、誰かが聞いていても意味を理解できる者はいないだろう。
《主様?》
応えた声も日本語だ。しかし声がした方向には誰の姿も窺えない。普通の人間ならば。
「勇気とは何なのかと思って。周囲の被害も考えず大暴れすること?一人を寄って集って辱しめること?それを白昼堂々とやってのけること?・・・・・・馬鹿馬鹿しいわ。見ていてとても不愉快」
そう言って、理紗はローブの中で右手で刀印を形作った。廊下での無闇な魔法の使用は校則で禁じられているが、これから使うのは魔法でなく、陰陽術である。屁理屈と言ってしまえばそれまで。言い訳にもならないだろう言い訳の正統性を、理紗は信じて疑わない。尤も、そのときにこの場で咎められるべきは、絶対に理紗にはなり得ないと承知の上での行動だが。
《よろしいので?主様が関わるのを厭う類の連中と思いますが・・・》
「でも、見ているほうが厭わしいのだもの」
言い終えると、理紗は小さく真言を紡いだ。
突如、風が巻き起こる。強いそれの煽られて、彼ら───悪戯仕掛人と呼ばれている四人組が投げた玉をすべて投げた本人たちへ、吹き飛ばした。ついでに彼ら自体も数メートル離れたところまで飛ばされる。
『『『うわぁぁっ!?』』』
『!!?』
四人分の悲鳴が響いた。囲まれていたスリザリンの少年は、目を見開いて周囲を見回していた。驚いた様子なのは当人たちだけでなく、面白がって見物していた野次馬たちも同様。それに小さく笑って、理紗はそっとその場を離れた。
誰の仕業か分かる者はいないだろう。誰も杖を手にしていないのだ。
『てめえ、スニベルス!!何しやがった!?』
『闇の魔術かい?さすが陰険なスリザリンだね』
声に振り返ると、起き上がった四人の内二人が杖を構えていた。
「懲りない・・・というか、しつこい人たちね。楓牙、怪我をしない程度に吹き飛ばして差し上げて」
《御意》
瞬く間に中を舞った二人を尻目に、理紗は止まっていた足を再び動かした。
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