「あっ!ルビー君とサファイアちゃん!」

始まりはカメラマンのダイがミナモデパートから出てきたルビーとサファイアを発見した事からだった。

「マリさん!に」

「ダイさんや」

呼ばれた方向に振り向くとインタビューアのマリとカメラマンのダイが居た。

「丁度良いわ。ルビー君とサファイアちゃん、インタビューを受けてくれないかしら?」

「インタビュー?」

「そう。インタビューの内容は『好きなタイプ』。ルビー君とサファイアちゃんの好きなタイプは何かしら?」

マイクを向けられたサファイアはきょとんと瞬きを数回繰り返した後ににっこりと笑った。

「あたしの好きなタイプは炎タイプったい!ばってん、炎だけやなくて、他のタイプも好きとよ?ポケモンぜーんぶ好きやけん。嫌いなタイプなんかなかとー」

「………………」

明るく答えたサファイアとは正反対に彼女にマイクとカメラを向けたマリとダイ、隣に居たルビーは沈黙した。

「ん?どぎゃんしたと?」

一人、自分の答えが的外れである事に気付かぬサファイアは沈黙する一同を首を傾げて見た。
それにどうしたものかと反応に困るマリとダイはちらりとルビーを一瞥する。
彼女達の視線にルビーは小さく溜息をつくと「サファイア」隣で首を傾げるサファイアを呼んだ。

「あのね、好きなタイプってポケモンのタイプじゃなくてさ、人の事なんだよ」

「えっ」

ルビーに間違いを正されたサファイアは目を丸くする。
自分の返答がズレていた事実に気付き、かあっと彼女の頬が赤く色付いた。

「そっ、そうやったとか!勘違いしてしまったとよ…。あっ、あたしの好きなタイプはバトルが強か人ったい!」

恥ずかしさを隠す為にサファイアは頭を掻いて笑った後に早口で答えた。

「へぇー。そうなんだ。そういえばサファイアちゃんもバトルが好きだものね。バトルが強い人だとやっぱり楽しいものなのかしら?」

ポケモンバトルに関しては素人であるマリがそう聞くとサファイアはにこにこと楽しげに笑った。

「それはもう!とーっても楽しかよ!ばってん、強さも弱さも関係なかと。バトルはバトルするだけで楽しかけんね!」

屈託の無い笑みを浮かべるサファイアに「そうなの」と返すマリ。
彼女に「うん」と頷いた後にサファイアは唇を尖らせた。

「ばってん、どっかの誰かさんはあたしとバトルばあんまりしてくれんけん…」

じとり、とルビーを睨むサファイア。
彼女の視線を真っ向から受けたルビーはニコリと微笑んで受け流し、ダイが持つカメラへと向き直る。

「それじゃあ、ルビー君の好きなタイプは?」

「そうですね。ボクは女の子らしい娘が好みです。女性的でとても可愛らしくて、綺麗で、知的な部分があると尚更魅力的ですね。逞しさや格好よさが垣間見えるのも良いと思いますよ」

さらさらと答えたルビーに唖然とするのはカメラマンのダイ。
インタビューアのマリはプロの意地か、唖然とした表情は表に出さずにルビーの答えにコメントを返す。

「流石、ホウエンコンテスト制覇者は言う事が違いますね!」

「まぁね!ボク程になると色々とこだわりが出来ますから」

天狗の鼻の様に鼻を伸ばしたルビーは誇らしげに笑った。
そんな彼をサファイアはきっと睨みつける。

「…ルビーのばかちん!もう知らん!」

罵ってサファイアは駆け出した。
突然の事態にマリとダイは瞠目し、ルビーは今はもう遠くなったサファイアの小さな背中を眺めている。
平静な様子のルビーにダイが慌てて小さな声でルビーを呼んだ。

「ちょっと、ルビーくん!どうしてサファイアちゃんを追い掛けないんだよ!?彼女、怒ってたぞ!?」

気の利く音響係がダイの声をわざと遠ざける。

「…ダイさん、マリさん」

振り返ったルビーはニコリと笑った。

「好きなタイプと好きな人っていうのは違うと思うんです。それじゃあ、ボク、急いでいるので行きますね」

嬉しそうに微笑み、ルビーは満面に笑顔を浮かべたまま、ランニングシューズのギアを最速に変えて、走り出した。




『ルビーのばかちん!もう知らん!』

そう叫んで走り去ったサファイアはルビーに追い付かれない為に途中からとろろを出し、その背中に飛び乗って空を翔けていた。
彼女の目指す先はミシロの秘密基地。
冷たい空気がサファイアの急上昇した頭の熱を冷やす。
秘密基地に到着する頃にはサファイアは冷静さを取り戻していた。
とろろにありがとう、と礼を述べてからミシロの森に還す。
モンスターボールの様な狭苦しい場所にとろろの巨体は辛いだろう。
そう判断しての自然に還す行為。
その事に不便を感じた事はない。
いつだってとろろは口笛を吹けば、サファイアの元へ来てくれるから。
他のポケモン達もモンスターボールから解放し、皆を自由にさせる。
サファイアというと秘密基地へと入り、ホエルオーのクッションへとダイブすると拗ねた様にそのクッションに顔を埋めた。

ー…好きなタイプ。

『ボクは女の子らしい娘が好みです。女性的でとても可愛らしくて、綺麗で、知的な部分があると尚更魅力的ですね。逞しさや格好よさが垣間見えるのも良いと思いますよ』

インタビューのルビーの解答が何度も、何度も頭の中を反芻する。

何ね…。
あげにあからさまに言わんでも良かでしょう。

サファイアはルビーが好きで、その事をルビーが知っているのか、知らないのか、サファイアには分からない。
もしも、マボロシ島であった告白の事をルビーが覚えていたら、ルビーはサファイアの気持ちを知っている事になる。
けれど、実際はマボロシ島を出る時の間がどうとかいう理由でルビーは告白の事も何も覚えてないと言うのだ。
ルビーの言葉を信じるならあの時の告白はルビーにとっては「無かった」事になる。
けれど、その言葉も疑わしい。
覚えてないと言っておきながら、彼はサファイアに告白の時に知った過去のルビーとサファイアを示唆する様な発言をするのだ。
即ちルビーはあの告白の事についても覚えている事になる。
だが、どれも推測でしかなく、真実ではない。
つじつまが合おうが合わなかろうが推測はあくまで推測で、それ以下でも以上でもないのだ。
たった一つ、サファイアが解るのはルビーにとってサファイアは好きなタイプから程遠い存在である事。
それだけは明確に理解出来るから、悔しくて哀しくてルビーを罵倒して逃げた。
テレビのインタビュー越しに遠回しに、けれど明白にサファイアを拒絶した。

遠回しに言うなんて卑怯ったい…。

ルビーの言う「可愛くて綺麗な女性的で頭の良く、格好良さと逞しさの垣間見える魅力溢れる女性」とは程遠い自分はきっとルビーの眼中にはないのだろう。
逞しさに自信はあるけど、それ以外は壊滅的だ。
そう思うと急に涙が込み上げて、後から後から大粒の涙が流れ出した。




覚えているか、いないかでいったらボクは覚えているんだ。
忘れたなんて本当は嘘で、サファイアの告白をあの時に起こった出来事をごまかしている。
どうしてそんな事をするのかって?
そんな事を言ったって誰も理解なんて出来やしないでしょう?

「やっぱりここに居た…」

走り去ったサファイアを追い掛けたルビーはランニングシューズのギアを元に戻すと秘密基地の中で横たわるサファイアに歩み寄った。
途中で見失ったサファイアは絶対にここに居る。
確信を持ってミシロに戻ったのは何度か似たような事があったから。
ルビーがサファイアと喧嘩をするのも、これが初めてという訳では無い。
口喧嘩から発展した大喧嘩等何回も繰り返した。
その度にサファイアはルビーとサファイアの二人だけの秘密基地に行くのだ。

ー…それってさ。

考えてルビーは口元をニヤリと歪める。
ホエルオーのクッションを抱きしめるサファイアの隣に腰掛けて眦に残る涙を指で掬い取った。

「サファイア…」

起こさない様に小さな声で優しくサファイアを呼んで、顔に張り付いた髪の毛を払ってやる。
泣き疲れた目元は赤く腫れ上がっていて、酷く痛々しい。
サファイアの寝顔を眺めて、ルビーは目を細めて柔らかく微笑んだ。
先程のニヤリとした厭らしい笑顔でなく、穏やかで優しい微笑み。

「可愛いなぁ…」

呟いて立ち上がるとポケットからハンカチを取り出す。
そしてどこかへと出掛けたルビーは数分後、濡れたハンカチを手にしてサファイアの目にハンカチをそっと当てた。

こんなになるまで泣くなんて。

「馬鹿だよねぇ…。でも、」

君がそんなになるまで泣いた理由がボクにあるなら。

「嬉しいなぁ…」

だって、君はボクを想って泣いてるんでしょう?
そうじゃなきゃ、マリさんとダイさんのインタビューに答えた時に怒ったりしないよね。
これだから、君にあの時の事について忘れたフリをするのが止められないんだ。
ボクの事が好きな君はボクの一挙一動に振り回されて泣いたり、怒ったり、笑ったり。
ボクの色に染まりながら、完全にはボクに染まらない君の藍色。
愛しい君だから君の全てが見たくて知りたくて。
ボクが忘れたフリをすればする程サファイアの頭の中はボクだけになる。
その間だけはサファイアはボクだけの物。
それがボクは嬉しくて仕方がない。

ルビーがサファイアの目を冷やす為に濡らしたハンカチは数時間が経過し、すっかりと温くなっていた。

そろそろ変えるべきか…。

思い立ってハンカチをそっと取るとサファイアが小さく呻いてぱかりと閉じられていた瞼が開き、彼女の藍色の瞳が現れた。

「やぁ、サファイア。おはよう」

起きたばかりのサファイアに爽やかに笑うとサファイアはめいいっぱいに目を丸くしてルビーを見詰めた。

「…な、ルビー!?なしてここにおると!」

「君を追い掛けて来たに決まってるでしょ。まったく…、急に走り出していなくなって。本当にサファイアは目が離せないんだから」

溜息をついてルビーはやれやれと左右に首を振る。
両掌を上に向けて両肩を竦めるというおまけつきで。

ルビーの仕種と台詞にムッとくるが、その台詞の一部が耳に引っ掛かり、思わず口に出してしまう。

「目が離せない…?」

「そうだよ。君は危なっかしいし、直ぐにどこかにいなくなるし、帰ってきたと思ったら怪我をこさえてくるし、目が離せないよ。もう少し気をつけて欲しいくらい」

「あたしはそげに柔じゃなか!それに怪我っち言うけど、全部かすり傷ったい!たいしたことなかとよ!」

「またそういう事を言う!君は君が思っているよりもよっぽど怪我を作ってくるし、人に心配を掛けてるんだぞ!」

「あんたが過保護なだけったい!」

わあわあと言い合っているとサファイアの相棒のバシャーモことちゃもが秘密基地の中に入ってきた。

「ちゃも?」

ちゃもは無言でサファイアのポケナビを指し示す。

「わっ!もうこげな時間やったと!?」

「早く帰ろう。博士も心配してると思うよ」

「うん…」

ちゃもをボールに戻すとサファイアはルビーが差し出した手に手を重ねる。
もう片方のルビーの手にはミナモデパートで買った物がどっさりと入った袋が握られている。
秘密基地からの帰り道、サファイアは夕陽に照らされるルビーの端正な横顔を見詰めた。

「…何?さっきからじろじろと見て。そんなにボクの顔って美しい?」

「ばっ…!気色悪かこつ言わんといて!」

「気色悪いとは何だ!」

「気色悪かもんは気色悪かと!って、そうやなくて!」

このままではまた喧嘩になる。
そう判断してサファイアは無理矢理に会話を打ち切る。
そしてじっとルビーを見た。

「……迎えに来てくれてありがとうったい」

そう言うとふいとあらぬ方向に顔を背ける。
しかし、ルビーに顔を隠してもサファイアの赤く染まった耳は丸見えで、容易にサファイアの顔が赤い色に染まっているであろう事が窺い知れた。これぞまさに顔を隠して耳を隠さずである。

「………どう致しまして」


暫く沈黙してサファイアを眺めていたルビーはふっと微笑すると繋いだ手をきゅっと握った。
するとサファイアから同じ力加減で手を握り返される。
それに僅かに驚いてサファイアを見るが、相変わらず彼女はルビーに顔を背けている為、サファイアの表情は見えなかった。
けれど、ルビーは満足そうに微笑む。

きっとサファイアも今のボクと同じくらいの笑顔を浮かべてる。

確信を持ってルビーはミシロの自宅へと歩いた。




一方、サファイアはというと。

ルビーの確信通りにとても嬉しそうに微笑んでいた。
顔は絶対にルビーには向けない。
今の顔を見られたらからかわれるに決まっているからだ。
サファイアを微笑ませているのはさっきの言い合いでルビーが言った一言。

『本当にサファイアは目が離せないんだから』

照れ隠しで悪態をついてしまったけれど、本当はそう言われて嬉しかった。

目が離せない。
そんくらいにはルビーはあたしんこつ気に掛けてくれとっと。

つまりはそれくらいにはサファイアはルビーに悪く思われていないのだ。
疎ましくも思われていない。
決して女の子として意識してもらう事は無くても、心配してくれるくらいにはサファイアを想ってくれている。
それだけの事がただ嬉しくて。

それに異性として意識して貰える様にあたしが努力すれば良か話やけん!

先程までの落ち込んでいた時とは打って変わって瞳に炎を滾らせるサファイア。

それにしても…。

ちらりとルビーを一瞥する。
ばれないようにほんの一瞬だけ。

なして、あたしが秘密基地におるの、分かったんやろ…?
追い掛けて来たち言うとったけど、それやったらあたしが泣いとった所も見とる筈。
つまり、ルビーはあたしが泣き疲れて眠っとる時に来たっちゅうこつになるとね。
……………。
な、泣いた跡とかついとらんよね?
酷か顔になっとらんよね?
いや、きっといつもの顔の筈ったい。
あの、デリカシーのない男の事やけ、酷い顔ばしとったら指摘するに決まっとう!

首を傾げて悩んでみたり、青ざめてみたりと忙しくしている間にサファイアとルビーはミシロタウンに着いていた。
辺りはもうすっかり宵闇で、薄暗い青紫が空一面に広がっている。

「それじゃ、またね。サファイア。買い物に付き合ってくれてありがとう」

ログハウスまでサファイアを送って別れの言葉を口にする。

「うん。…また明日ったい…」

「ー……」

元気の無いサファイアの返事にルビーはきょとりと彼女を見据えてー…ニヤリと笑った。
家の中へと戻ろうとするサファイアの腕を取って彼女を引き留める。

「な…?」

驚いて振り返るサファイアの耳元に唇を寄せた。

「サファイアが喧嘩をした後にいつも秘密基地に居るのってさー…ボクが迎えに来てくれるのを期待してるから?」

「ーっ!」

睦言を囁く様に去り際の一言をサファイアの耳朶に滑り込ませ、ルビーはサファイアの瞬間湯沸かし機器の様に真っ赤になった顔を見詰めてから掴んでいた腕を離すとニッコリと笑って隣の自分の家へと走り出した。

「じゃあ、また明日ね!」

ルビーの明るい声はサファイアの耳には届かずに宵闇の中に消えていった。




サファイアは玄関の扉を閉めるとへなへなとその場に腰を下ろした。
頬だけではなく耳まで真っ赤な顔、涙が滲んだ瞳は潤んでいた。
そろそろと片手でルビーに囁かれた方の耳を庇う様に触るとトサキントのように口をぱくぱくさせる。

な、なな、な。
なんちゅうこつばしよっとか!
み、耳にあいつの声と一緒に吐息がかかって…。
ぞわぞわした感じがしとっとよ。
そ、それにほんの一瞬やったけど、あいつのく、くく、唇があたって…っ。
……っ!

「ルビーの変態!スケベ!」

先程の光景を思い出してサファイアは小さな声で叫ぶと駆け上がって自分の部屋のベッドへとダイブした。
枕に顔を押し付けてじたばたと手足を動かし、暴れるサファイア。
帰ってきて早々に自分の部屋に篭り、暴れるサファイアが居る部屋をそっと見上げたオダマキは娘の奇行の理由が分からずに首を傾げた。




サファイアがルビーの所為で大変な事になっているとも知らないルビーは上機嫌でお風呂から上がると自室へと入った。
湯冷めしない内に肌のお手入れを手短に済ませ、ほかほかの身体をベッドへと滑らせてナイトキャップを被る。
電気を消して、ルビーは眠る準備を整える。
瞳を閉じるが眠気はやってくる気配がない。
寝返りを打ってルビーは先程の出来事を思い出していた。
家に戻ろうとするサファイアの腕を取って、鋭い聴覚を持った耳に唇を寄せて囁いた言葉。

『サファイアが喧嘩をした後にいつも秘密基地に居るのってさー…ボクが迎えに来てくれるのを期待してるから?』

返答こそは貰えなかったものの、その時のサファイアの反応はルビーにとっては満足のするもので。

「明日は何をしようかな?」

いつもいつも自分を楽しませてくれるサファイアに次はどんな悪戯を仕掛けようかと企むルビーの笑顔が今日一番の良い笑顔であった事は彼の手持ちしか知らないのであった。


*****おまけ*****


ルビーとサファイアが受けたマリとダイのインタビュー。
どうやらそのインタビューは全国放送だったようで。
ルビーとサファイアのやり取りは全国に放送されてしまった。
今回はそんな彼等の様子をテレビの画面越しに目撃した先輩、同期、後輩のそれぞれの反応を記そうと思う。

グリーンとブルーの場合
レッドとイエローの場合
ゴールドとクリスタルの場合
シルバーとエメラルドの場合
ダイヤモンドとパールとプラチナの場合

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遅くなって申し訳ありませんでしたあぁ!!と、一周年記念小説をお待ち下さった皆様ありがとうございましたあぁ!!
長い上に意味が分かない内容の小説で申し訳ありませんm(__)m
おまけですが、長かったり短かったりでばらついています。
ゴークリなんてルサと同じくらい長いです。
次からはオチを考えて起承転結が出来る様に頑張ります。
おまけも含めてフリー小説です。
お持ち帰りはご自由に。



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