さわさわと風が草木を揺らす頃、ルビーとサファイアの秘密基地では本人達が真剣な面持ちで互いを見つめ合っていた。

「最初はグー!じゃんけんほいっ!」

高らかな声を上げてルビーとサファイアが手を振り上げる。
サファイアの右手は拳を作り、ルビーが出した右手はピースサインだった。

「やったー!あたしの勝ちったい」

「くそっ!パーを出しておけば良かった!」

片方は喜び勇み、もう片方は地に膝をつき、ダンッと勢い良く片腕を叩き付けた。
これぞまさに勝者と敗者の図である。

「残念やったとね。ばってん勝負は勝負ったい。あたしが勝ったんやけ、あたしの好きなテレビば見させて貰うけんね」

楽しそうに笑ったサファイアはモンスターボールをモチーフにしたミニテーブルに置かれたリモコンを取るとエネコ型のテレビの電源をつけた。
グルグルマークのイラストがプリントされたクッションに腰を下ろすサファイアを恨めしげに見たルビーは諦めたのか、がっくしと項垂れる。

ああ、最悪だ。
今日はイッシュ地方のカミツレさんが登場するファッションショーが午後から放送されるのに。

日本だけでなく世界の流行を知りたいと思うのはデザイナーとしては当然で。
DVDで録画設定してあるから問題は無いのだが、やはりリアルタイムで見たいというもの。
次々と回されるテレビ番組が無情にもルビーの心情を打ち砕く。
そんなルビーの心情等知らぬサファイアはとある番組でリモコンを操る手を止めた。

何を見るんだろうか?

ちらり、と視線をサファイアへと向けるとサファイアはテレビ画面を凝視していた。
気になる物でも見付けたのか。
きっと、ポケモンの旅だとか、ポケモンプロレスだとかポケモン関連のテレビ番組がサファイアの興味を引いているのだろう。
しかし、ルビーの予想と現実は違った様で。
サファイアの目に留まったのはポケモンの旅でもなければプロレスでもない。
恋愛ドラマだった。
意外な事実に目を見開いたルビーは気付けばサファイアと一緒に食い入る様に恋愛ドラマを見ていた。
お昼から始まる恋愛ドラマは第一話と映っていたから、新作なのだろう。

それにしても。

このドラマ、懐かしいというか何と言うか。
色々と複雑な感情が込み上げてくる。
しかし、そういった感慨を抱くのも無理は無いだろう。
何せこのドラマの設定が自分達と重なる所が多過ぎるのだ。
幼い頃に出会って仲良くなった少年と少女。
兄妹の様に仲の良い二人は近所では有名な子供だった。
しかし、少年の両親の都合で引越しの為に少年と少女は離れ離れになってしまった。
それから数年後、島に一人の転校生がやって来る。
それは引越しで島から出て行った少年だった。
島育ちの少女は少年の記憶のままの女の子が成長した姿でその高校に居た。
思いがけない再会に喜んだ少女は満面の笑顔を浮かべて少年へと語りかけるが、少年の態度はどこかよそよそしく芳しくない物であった。
昔の彼とまったく違う。
記憶と現実のギャップに戸惑うが、都会が彼を変えてしまったのかもしれないと思い直し、寂寥感に苛まれながらも無理矢理心を納得させた。
やがて少女は都会育ちの少年に恋をする。
そして少年も昔と変わらないままの少女に恋心を抱くのだが、少女と違って変わり果てた自分は少女に相応しくないと自分の想いに蓋をする。
こんな内容のドラマを自分達と重ねてしまうのも無理はないと思う。
ちらり、とルビーはサファイアに視線を向けた。
テレビ画面を見つめるサファイアは至って真剣だ。

「…………」

ポリポリと頬を引っかくとルビーはテレビ画面に視線を戻した。
それから、1時間が経過した。
ドラマを見終えたルビーとサファイアは二人同時に呟く。

「「今も…」」

その言葉が耳に届いたルビーとサファイアはお互いえっと顔を見合わせて、慌てて自分の発言を庇うかの様に弁解を始めた。

「中々面白そうな展開だと思うよ。このドラマ!あの二人の関係とかどうなるんだろうね!?」

「そうったいね!続きが気になって仕方なかと。次はいつ放送するんやろ?」

「この時間帯なら明日も放送されるんじゃないかな?」

「せやったら忘れん様にせんといけんね!」

「そうだねー!」

わぁわぁと矢継ぎ早に会話をするルビーとサファイアは一呼吸置くと二人同時に立ち上がる。

「あっ!ボク、急に用事を思い出した!ごめんね、ちょっと行かなくちゃ」

「奇遇やね!あたしも先生の所に行かんといけんち、今日はこれで!」

真っ赤な顔を指摘する余裕も無く、ルビーとサファイアは秘密基地から脱兎の如く走り去った。




秘密基地から逃げ出したルビーは赤面状態から抜け出せないまま、自分の部屋のドアに寄り掛かった。
ランニングシューズを使う余裕も無く、全力で秘密基地から家まで駆け抜けたが為に、肩で息を吐くルビーはへなりと膝を曲げる。
そのまま座ると誰が見ている訳でもないのに両手で顔を覆い隠した。

まずいまずいまずい!
今のはまずかった。
あの躱し方はないだろう。
絶対に変に思われた。

先程の自分の発言を弁解する為に吐き出した言葉を思い返して、ルビーは泣きたくなる衝動に駆られる。

ああ、こうなったのも全部あの恋愛ドラマのせいだ。
ボク達と似た境遇の設定だったからうっかり重ねてしまったじゃないか。
今もボクを好きでいてくれてるの?なんて、聞いてしまいそうになった。
それもこれもあの恋愛ドラマのせいだ。
何てはた迷惑なドラマなんだ。

サファイアの告白から五年が経った現在、あの時の事をのらりくらりとごまかしていたルビーには既に限界が来ていた。
自分から始めたサファイアとの中途半端な関係。
今はまだ早いからと、今はまだ自分がサファイアに相応しくないからと、蓋をして閉じ込めた筈のサファイアへの恋心。
自制して触れない様にしていたあの時の問題。
気をつけていたのに、あのドラマのせいでうっかり触れそうになってしまった。
今までのボクの努力を水の泡にしてくれやがってどうしてくれる、と見当違いの怒りを恋愛ドラマにぶつけたルビーは悩ましげな溜息をついた。

「サファイア…。キミはさ、」

今もボクを好きでいてくれてるの?




ルビーが悩ましげな溜息をついている頃、オダマキ家ではサファイアがベッドに俯せになり突っ伏していた。
枕に顔を押し付けて、シーツを強く握った為にいくつか複数の皺がシーツに刻み込まれる。

や、やや、やっぱり、ばれとっと!?
あの恋愛ドラマば見てあたしがあたし達ば重ねて見とった事。

都会育ちの少年とジョウト地方からやってきたルビー。
島育ちの少女とホウエン育ちのサファイア。
相通じる物があると言えるだろうそれをルビーだけではなく、サファイアも同じ様に重ねて見ていた。
五年の歳月が流れていても、サファイアの心は変わらずにルビーただ一人だけを想っていた。
けれど、今のサファイアにはルビーにあの時の事を聞く勇気は無い。
五年前はあの時の事についてしつこくルビーを問い詰めていたけれど、一年、また一年と時が経つにつれて聞けなくなっていたのだ。
例えば今一度あの時の事について、ルビーを問い詰めたとして。
返ってくる言葉が自分の望む物とは限らない。
それが、怖いのだ。
拒絶されるのが怖いから、聞けない。
聞くのが怖い。
聞いた事で、返事が返された事で今の関係が壊れ、ルビーを失う事が恐ろしい。

「ルビー…。あたしは、」

今もあんたが好きったい。
ばってん、あんたはあたしんこつどげん風に思っとると?




聞きたい事はあるのに、聞けない。
触れるのが怖い。
けれど、離れる事も出来ない矛盾だらけのこの気持ちを一体どうしたら良いのだ。
持て余したこの感情に振り回されているルビーとサファイアは自分達が両想いであるという事実に気付いていない。
彼等の気持ちが通じ合うまで後、幾年時が必要なのか。
それは運命の神様だけが知っているのかもしれない。

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大変お待たせ致しました!
一万ヒットのリクエスト募集に応募して下さいましたやゆよさんに捧げます。

やゆよさんリクエストの両片思いなルサでほのぼの(原作の様な着かず離れずな雰囲気)との事でしたが、ご期待に添えているでしょうか…?
最初の方しかほのぼのしてないし、そもそも年齢操作して16歳ルサだし、16歳にしてはやってる事が幼いルサなので、色々とまずいかなー…なんて。
両片思いに関してはちゃんと両片思い出来ているのかが些か不安です。

えーと、余談ですが、あの後ルビーとサファイアは恋愛ドラマにドハマリします(笑)
二人で熱く恋愛ドラマについて語り合ったりする仲に発展する事でしょう(笑)

このような文で宜しければ是非貰ってあげて下さい。
もしも宜しければ書き直しも致しますので、書き直して欲しい箇所がありましたら、ご気軽にお申しつけ下さいませ^^

それでは一万ヒットリクエスト募集に参加して下さいましてありがとうございました!
※こちらの作品はリクエストして下さいましたやゆよさんのみお持ち帰り可能です。


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