家が隣同士で、互いの両親が仲が良かったりすると必然子供も仲が良かったりする訳で。
困った時はお互い様。
その言葉通りにセンリ一家とオダマキ一家は何か困った事があると隣家を頼る事が多い。
そんな訳で、一週間家を空ける事になったオダマキは愛娘を家に一人にする訳にはいかない、愛娘を預かってくれとセンリ一家に頼み込んだ。
そして、今日。
お泊りセットを持ってサファイアがルビーの家へとやって来た。

「いらっしゃい。サファイアちゃん」

「お世話になりますばい。ママさん」

にこやかな笑顔で出迎えてくれたルビーの母にお辞儀をするとサファイアは「お邪魔するとー」と玄関から家の中へと上がった。

「いらっしゃい。サファイア…って、君、何だか匂うぞ?お風呂に入ったら?」

出会って早々失礼な事を言うルビーにサファイアはムッとして牙を剥いた。

「あんたはほんまに失礼な奴ったいね!」

「何だよ。本当の事だろ?」

ぎゃあぎゃあと玄関先で喧嘩を始めるルビーとサファイア。
もしもここに彼等の友人エメラルドが居たら、持ち前の大きな声で「いちゃつくなーっ!」と怒声を上げていたところだろう。
だが、現実に彼は居ない。
代わりに居るのはルビーの母親。
その母親はにっこりと笑うとサファイアの手に触れて、ルビーとサファイアの喧嘩に躊躇する事なく飛び込んだ。

「サファイアちゃん。寒かったでしょう?身体が冷えているわ。お風呂に入って身体を温めてね。風邪を引いてはいけないから」

「ママさん…」

お風呂に入れ。
言っている事は同じ筈なのに、ルビーとその母親ではどうしてこうも違うのだろうか。

「入ってくるったい!お風呂ばお借りしますと」

「ルビー、案内して」

素直に頷くサファイアに笑って、ルビーに指示を送るとルビーは面白くなさそうな表情で返事をする。

「分かった。ついてきてよ、サファイア」

「分かったとー」

サファイアを伴い、浴場へと消えていく息子を見送り、ルビーの母親は台所へと向かった。
エプロンを着用して腕によりをかけて美味しいご馳走を作るべく、意気揚々と包丁を取り出す。
人参の皮剥きをしながら、先程のルビーを思い出してくすりと微笑むと同時にドアが開いた。

「何で笑ってるの?何か面白い事でもあった?」

「いーえ。ああ、そうだルビー。貴方暇なら手伝ってくれない?」

「…いいけど」

自分の質問を上手く躱され、ごまかされた事に眉根を僅かに寄せるとルビーは小さく溜息をついて紅いエプロンを身につけた。
隣に並ぶ息子は既に自分の背丈を超えている。
以前までは自分が見下ろす立場であった筈なのに、今ではすっかり見下ろされる立場だ。
昔は本当に子供で、我が儘で甘えてばかりだった。
まだまだ子供で、まだまだ親の庇護が必要な守られるべき子供。
それがいつの間にか11歳になり、世間的には大人の年齢になって。
それでもまだ子供子供していた筈の、息子は5年後には大人になりかけた子供になった。
大人とはまだ言えない。
けれど、子供とももう言えない。
思春期真っ只中の息子は気難しくなっていて。
以前みたいに甘えなくなって、「ママ」とは呼んでくれない様になった。
大人であり、子供の、やはり大人びた息子を寂しく思っていたのはつい最近まで。
そう、先程のルビーとサファイアの喧嘩を見るまでだ。
子供の面を見せなくなった息子は、彼女だけには年相応の顔を見せる。
どうやら息子は好きな娘程苛めたくなるタイプらしい。
決して自分には向けてくれなくなってきたけれど、でも。

「まだまだ子供よね」

つい口に出てしまった本心はしっかりとルビーの耳に届いてしまった。
その証拠に彼は紅い瞳を母親へと向けている。

「サファイアの事?本当、いつまで子供でいるつもりなんだろうね。いい加減、大人になって自分の身嗜みにも気をつけて欲しいくらいだよ」

苦笑してジャガ芋の皮を剥くルビーは自分は子供ではないと確信している。

「あら、私が言っているのはルビーとサファイアちゃんの両方よ?」

「ええ、ボクも!?ちょっと止めてよね。ボクはサファイアと違って大人なんだから」

驚きの声を上げてルビーは自分は子供ではないと否定する。
そういうところが子供なのよ、と心中で呟いて「もう良いわ。ありがとう。2階に上がって良いわよ」とルビーを2階に促した。

「でも、まだ終わってない…」

「下準備さえ整えばそれで良いわ。後は自由にして頂戴」

「………分かったよ」

一度言い出したらこの母親は他人の言葉等、聞かない事を熟知しているルビーは諦めると最後のジャガ芋を適当な大きさに切り、エプロンを脱いで、2階へと上がった。




「ルビー。お風呂出たけん。次、ルビーが入れば良かっちママさんが言うとったとよー」

ガチャリとドアを開けてお風呂上がりのサファイアがルビーの部屋へと入った。
丁度、POPOのコンテスト用の衣装を作り終わったルビーは顔を上げてサファイアに文句を言おうと口を開く。

「いい加減ノックしてドアに入る事を覚えてよね。常識だよーってちょっとサファイア、君何してるのさ!」

が、ルビーの文句は途中から悲鳴混じりの非難へと変わった。

「何ってルビーに声ばかけにきただけとよ。それの何がいけなかと?」

お風呂から上がったサファイアはタオルを肩にかけて首を傾げている。
ほてった身体は赤く色付き、濡れた髪から滴る水滴が彼女の髪の先から肌へと滑り落ちた。

「何がいけないって全部いけないよ!どうして髪の毛を乾かさないの!びしょびしょじゃないか!」

サファイアの肩にかけられたタオルを引ったくる様に奪い、彼女の腕を引いて座らせるとタオルを使って丁寧に髪の毛から水分を拭き取る。

「大丈夫っち言うとるのに…」

ぼそりと呟くとルビーは駄目だと首を振った。

「自然乾燥なんて髪の毛が傷むでしょ。それから風邪を引くから絶対駄目」

「風邪なんて引かん」

「根拠なんてないのにそういう事、言わないの。君がいくら野性児で身体を鍛えてるって言っても、人間風邪を引く時は引くんだから」

そろそろ良いだろう、と目安を付けてルビーはドライヤーを持ち出した。
コンセントにプラグを差し込み、スイッチを押すと温かい風をサファイアの髪に当てる。

「適当で良かよー」

「駄目。しっかり乾かさないと風邪引くよ。良いからボクに任せて」

ブラシを取り出し、サファイアの髪を梳かしていく。
柔らかなサファイアの髪は量が多くて大変だ。
きめ細やかで細くて、色が透き通っていて、きれい。

「……………」

「…?ルビー?」

突然手を止めたルビーを怪訝に思って、名前を呼ぶとルビーはへらりと笑った。

「はい。お終いー」

「ルビー?ちょっとあんた…」

「今度からは自分で乾かしなよー?毎回毎回ボクがサファイアの髪を乾かせる訳じゃないんだからさ」

「待ちぃよ、ルビー。あんた…っ」

「という訳でボクはお風呂に入ってきます。ボクの部屋に居ても良いけど、勝手に引き出しを開けたりしちゃ駄目だよ?いくら野性児な君でも一般的な常識は備わってるって信じてるんだから」

「…なっ!ばっ、馬鹿にするんじゃなかよ!いくらあたしかてそんくらいの常識くらいあると!」

「そう。良かった。じゃあ、お風呂入ってくるよ。じゃあね」

にこりと笑って、パジャマを持ち、ドアの向こうに消えていくルビーに向かってサファイアは怒声を浴びせる。

「ルビーのばかちん!お風呂でのぼせてしまえば良かーっ!」




脱衣所に入ったルビーはパジャマを籠に入れると壁にもたれかかった。
そのままずるずると座り込むと掌で赤くなった顔を隠す。

「…………あー」

恥ずかしそうな、残念そうな、酷く複雑な感情を混ぜ込んだ声音で声を上げる。
サファイアの髪を乾かしていたあの時、彼女の髪を綺麗だと思った。
絹の様な触り心地にいつまでも触れていたいと思ったし、何より髪の間から見える白いうなじがとても美しかった。
その美しさに魅せられて、どうしようもなく沸き上がる衝動を抑えるのに必死になった。
もしもあのままあそこに居たなら自分は何をしていただろう。
欲に任せて一体何を。

「暑い…」

顔に集まった熱は冷める事を知らず、高まるばかりだ。
火照った熱を下げる為にルビーは衣服を脱いで、ドアを開けた。

**************
16歳ルサでお泊りネタ。
泊まりに来たサファイアの髪の毛をルビーがドライヤーで乾かしてうっかり欲情、自分何考えてんだうわあああ、みたいなのが書きたいと一年前だか何だかに思って書いていたけれど、書きかけで放り投げたのを発掘して完成させて、今更公開。
書いていて一番力が入ったのはルサではなく、ルビーのママさんの独白みたいなところです。
親離れしちゃって寂しいわーみたいな。
どこか余所余所しいと言うか距離を置かれていて、思春期だから仕方ないかと思いつつも寂しかったり。
ルビーも成長するだろうから大人気ない部分をサファイアに出すんだろうなぁとか。
そんなシーンを見て、まだまだ息子も子供だと安心するママさんが私的に一番の見所です(笑)


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