定期的に集まる図鑑所有者。
彼等は一泊二日と短い期間ではあるが、お泊り会というものを開催する時がある。
前回は図鑑所有者の女子達だけで。
そして、今回は図鑑所有者の男子達だけで。
ならば、現在は。
太陽が南に昇る頃、グリーンが管理するトキワジムではグリーンを始めとする図鑑所有者が揃っていた。
それぞれ、モンスターボールからポケモンを出しており、ポケモン達は皆、自由に自分のやりたい事をやっている。
しかし、そのポケモン達の中には足りない存在があった。
リザードン、ピカ、バクたろう、オーダイル、ZUZU、ジュカイン、るー、サルヒコの計8匹である。
彼等は事前に主人に外に行く旨を伝えており、トキワシティの広場の様な場所で輪になって座っていた。
ピカがその愛らしい小さな手を上げて声高らかに宣言する。
「じゃあ、早速始めようか!第1回、ポケモン専用男子会を開催しまーす!誰か質問ある奴いるかー?」
「はい!何で男子会なんですか?」
パールの手持ちポケモン、サルヒコが挙手して質問を投げる。
「チュチュ達が女子会を開いたのは知ってるよな?」
ピカが確認する様に周囲をぐるりと見回すと彼等は一様に頷く。
「となるとオレ等もやってみたいじゃんか。男子会」
「えええ!そんな理由なんですか!?」
「ちなみに拒否権はない。先輩命令だ」
「先輩命令ってオレ達にも当てはまるんですか!?」
「当然」
踏ん反り返って自信満々にドヤ顔をするピカと先程から度肝を抜かされてばかりのサルヒコ。
「まぁまぁ、気にすんなって!」
リザードンがサルヒコに笑いかけるとサルヒコは力無く笑った。
「そりゃあ、先輩達は命令を行使する側ですから、気にもならないでしょうけど…」
「いーや、良く考えるんだ。サルヒコ。いいか、お前は今は一番下の後輩だけどな、いつかは先輩になる。そしたらお前はオレ達みたいに偉大な先輩となって後輩を導かなくちゃならないんだ」
真面目な表情になってリザードンはサルヒコを諭す。
「つまりは、だな。いつかお前に後輩が出来たらお前にも先輩命令を行使出来る権利が回ってくるんだぞ?」
「…先輩命令…?」
「どうだ、楽しいか?という事でオレ達の命令は気にするな」
「はい!」
リザードンの口車に乗ったサルヒコはキラキラと瞳を輝かせて頷く。
そんなサルヒコに誰もが心の内でツッコミを入れた。
サルヒコ!お前、騙されてるよ。話が掏り替わっている事に気付いて!と。
「でも、割と楽しそうだな。男子会」
バクたろうがオーダイルに話し掛けるとオーダイルは小さく頷いた。
「何を話題にするかにもよるが、交流が深まる事は良い事だ」
「オレも同意見だ。長い物には巻かれろという諺もある。様々な経験を積む事は己を成長させる糧になる」
オーダイルに賛同したジュカインが腕を組んで頷く。
ホウエンの自然災害(意図的な物による)によりキモリの頃に海に流され、人の手に渡ってジュプトルに進化し、ホウエンを震撼させた事件の解決の一柱になり、その後にまた人の手から離され(正確には逸れたと言った方が正しい)ジュカインになる頃にはホウエンのバトルフロンティアのレンタルポケモンに紛れ混ませられて、エメラルドと出逢い、彼と共に巨大な悪と立ち向かったという波瀾万丈な体験をしたジュカインが言うと説得力がある。
皆、それもそうかもしれないと思わず頷いた。
「そうそう。それに何事も楽しまなくちゃー。ルビーもね、楽しむ事から始めるのが大切なんだって言ってたんだよ」
大きな両手を上げてZUZUがニコニコと笑う。
すると、るーがにっこりと笑って体を揺らした。
「ダイヤも同じ様な事を言ってた。『オイラが楽しそうにやってれば、最後はそれがみんなに伝わるかも!!』って」
のんきな性格の二人がほわほわとした花を飛ばしながら、柔らかい空気で皆を包む。
「それで、何から話すんだ?」
ジュカインがピカに聞く。
「何から話したい?」
質問を質問で返されて、ジュカインは僅かに戸惑う。
「チュチュ先輩達は何について語り合ってたんですか?」
サルヒコがピカ達に質問を投げるとピカとリザードンは腕を組んでうーん、と唸った。
「それがさぁ、チュチュに聞いてみたんだけど、教えてくれないんだよ」
「ぷりりも『さぁ〜?何でしょうー?』ってはぐらかすしなぁ…」
「そういえば、むーぴょんが女同士で盛り上がる話題だって言っていたな」
オーダイルが思い出したように言うとバクたろうが首を傾げた。
「絶対に盛り上がる話題って何だろうな?」
「「そりゃあ、恋バナに決まってんじゃん」」
リザードンとピカが口を揃えて同じ言葉を発すると今度はサルヒコが首を傾げた。
「何でですか?」
瞬間、風がサルヒコの傍にいたるーの横を通り過ぎ、少し離れていた筈のピカがサルヒコの前に現れ、ガシリと肩を掴む。
「せ、先輩…?」
「いいか?よーく、覚えとけ。女って生き物はなぁ、三度の飯よりも恋愛話が大好きな生き物なんだよ!それは人間、ポケモンなんて種族は関係なしに!女はそういう生き物なんだ!」
ゴゴゴ…と背後に黒いオーラを召喚し、力説するピカにサルヒコは黙って首を縦に振った。
こくこくと何度も首肯するサルヒコに満足したのか、ピカはよし、と頷いてサルヒコを解放する。
それにしても、そこまで力説する程、ピカはその持論に何か強い思い入れでもあるのだろうか。
少し気になりはしたものの、賢明なサルヒコは自分の口をつぐんだ。
「でも恋バナって言ってもオレ達が語る事って特にないと思う」
バクたろうが挙手して意見を述べるとリザードンが「そうでもないぞ?」とピカを指差した。
「例えばピカの主人、レッドの事とか」
「ええー、レッドさん?」
ZUZUが驚きの声を上げるとピカがそうだな、と頷く。
そしてどこから取り出したのか漫画を何冊か持ってきてぺらぺらと捲り、自分以外の皆に集まる様に手招きをする。
「例えばポケスペの1巻から15巻にかけて、レッドはカスミとイエローの二人をたらしこんでる。しかも奴は無自覚だ。天然タラシのフラグ建築士なんだよ」
天然タラシ。フラグ建築士。
あまりにも酷いピカの言い分にリザードンを除く一同が唖然とする。
「…ピカ先輩。その言い方は酷いんじゃ…」
「これくらい、大丈夫だ。むしろレッドには直接本人に言ってやりたいくらいだよ。早くイエローとくっつけ!ってな」
オレはチュチュの悲しむ顔なんて見たくない。
そう吐き捨てるピカにサルヒコ達はひそひそと声を潜める。
「もしかしてピカ先輩はレッドさんが嫌いなのか…?」
「んー。嫌いではないと思う」
「じゃあ、何だ?」
「多分あれはー…」
ZUZUが答えようと口を開くと、その答えをリザードンが口にした。
「あれは嫌いじゃなくて、ツンデレなんだよ」
「ツンデレ?」
サルヒコ、オーダイル、バクたろうが首を傾げてリザードンを見る。
リザードンはその尖った爪で器用に漫画の頁をぺらぺらと捲るとある一コマを指差して皆に見せた。
「ここがピカとレッドの出会いな。それからここまでがピカのツンの時期。で、タケシとのニビ戦からがピカのデレ期。そっから後は全部ツンデレだよ。あー、でも、ツンデレの比はツン2のデレ8だから」
「リザードン。てめぇ、何後輩共に余計な事を吹き込んでんだ…?」
「余計な事?事実だろ」
パリパリと電気袋の赤い頬から微弱な電気をちらつかせるピカとフフンと鼻息を出し、斜に構えるリザードン。
「喧嘩なら買ってやんよ」
「準備体操くらいにはなるかな」
一触即発なピカとリザードン。
雷と焔。
偉大な先輩達の迫力に呑まれ、止める事が出来ずにいる後輩達。
そうこうしている内にピカとリザードンの激しいバトルが始まった。
こうなったら誰にも止められない。
サルヒコ達は先輩達の仁義なき熱い戦いが早急に終了する事を願って、会話を続行する事を選択した。
「そういえばさー、オーダイルさんはシルバーさんの事、どう思ってるの?」
ZUZUがオーダイルに問い掛けるとオーダイルはそっと目を閉じた。
「…そうだな。オレとシルバーの出会いはある意味特殊だった。最初はシルバーに懐いている訳でもなく、しかし、嫌っている訳でもなかった」
そっと瞼を開くとオーダイルは瞳を細めた。
「ある時な、シルバーの目に気付いたんだ」
「目?」
「それは家族が仲睦まじく談笑している姿を見かけた時や、兄弟、姉妹が遊んでいる姿だったり、様々だ」
どこか遠くを見るような瞳は過去を思い出しているのだろう。
「羨ましそうな、もしくは置いて行かれた子供の様な寂しそうな虚な瞳になるんだ。だが、それも一瞬の事で、直ぐに憎悪と覚悟に満ちた瞳に切り替えて前を見据える。そんなシルバーを見てからオレはあいつに興味を持った。何がそこまであいつを駆り立てるのか、知りたかった」
独り言の様に呟いて、オーダイルは穏やかに笑った。
「それからだ。オレがシルバーに懐いたのも、支えて力になりたいと思ったのも。シルバーはオレが最も敬愛する主人だよ」
オーダイルの語る内容に何と返せば良いのか分からないでいるとオーダイルがバクたろうをつつく。
「お前はどうなんだ?バクたろう」
「オレ?…そうだな。ゴールドは相棒だ。あいつは賭博好きで放浪してばかりの困った奴だけど、家族想いで仲間想いの熱い奴だ。オレの気持ちを汲んで、オレをパートナーに選んでくれた。ああいう奴だから、オレは呆れながらもあいつの相棒であり続けたいと思うんだ」
「………」
オーダイルに続いてバクたろうまで真面目に主人への想いの丈を正直に語る。
聞いているこちらとしては何だか恥ずかしくなってくる。
それぞれ思う事は別だが、黙しているとバクたろうがサルヒコへとバトンタッチをする。
「次、サルヒコな」
「えっ、オレですか!?」
「当たり前だ。この際全員に話して貰おう。ちなみに先輩命令だ」
先輩命令ときたら従うしかない。
サルヒコはぽつぽつと語り出した。
「…パールはいつだって常識人ですよ。せっかちでじっとするのが苦手だけど、お笑いに対する情熱は誰にも負けない。意思が固くてこうと決めたら必ずやり遂げる。そういう真っ直ぐなところは真似出来ませんね。いつだって真っ直ぐに自分の気持ちを言ってくれる、こっちが気持ちをぶつければ真っ直ぐに受け止めて応えてくれる、…そういうところは好きですよ」
穏やかな表情で言い切るとサルヒコは赤面して、るーを叩いた。
「っ!次!るーだから、ほら早く暴露しろよ!」
「ダイヤはね、カッコイイよ。パールと比べてのろまかもしれない。でもその分時間をかけて一生懸命考えるんだ。そうして努力を重ねて正しい答えに辿り着く。いつも楽しそうで、食べ物を食べてる時の顔を見てるとこっちまで幸せな気持ちになるんだ。お笑いだってパールに負けないくらい真剣だよ。そんなダイヤがボクは好き。ダイヤとパールは絶対にお笑い界でトップになるよ。ボク達が保証する。ね、サルヒコ」
「…あっ、たりまえだろ!」
誇らしく笑うサルヒコとるー。
「それじゃ次はジュカインさんね〜」とジュカインに暴露の権利が回ってきた。
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