オーキドの研究所で手伝いをしていたクリスタルとエメラルドは新年も研究所で書類を捌いていた。
年越しも新年も仕事、仕事、仕事。
仕事人間になりつつある二人を外に引っ張り出すのはいつの間にかゴールドの役目になっているが、現在ここにゴールドは居ない。
彼は彼で育て屋夫婦に新年早々呼び出されているそうでとても忙しい毎日を送っている様だ。
ある程度、仕事を片付け終えたクリスタルとエメラルドは休憩がてらお茶菓子を用意して何気なくテレビの電源を付ける。
たまたま付けた番組がパフォーマンスにギャラを付ける番組で、ロボットのマスクを被った人間がパフォーマンスを披露している最中であった。
話を要約すると戦場で殺しの道具と化していたロボットが一人の赤子と出会い、赤子に救われ、赤子を守る為に死んでいくという内容であった。
そこに込められているのは戦争の惨たらしさ、非情さ、悲しさ。
訴えられているのは戦争をしてはいけないという切なる願いと命の大切さを、命の尊さを考えてくれという切実な想い。
考えさせられてしまう悲しいストーリーにエメラルドとクリスタルは沈黙して俯いた。
その後は影絵のパフォーマンス。
遠近法だけで様々な影絵が作られる。
兎、赤子の手、その手を愛おしそうに触れる親の大きく無骨な手。
最後にBGMとして流れていた歌の歌い手の顔の様な影絵が表れ、締め括られる。
見る者全てに暖かい想いを抱かせるのはどうしてだろう。
エメラルドは瞳を細めて外国から来日したというパフォーマーを見た。
親の指を掴む小さな赤子の手、そのシーンを作り出した手を見詰める。
じっと、ひたすらにじっとテレビ画面を眺めるエメラルドはその無言の沈黙の下で何を思い、考えているのか。
家族との縁が薄かったエメラルドの境遇を知っているクリスタルは感動の涙で滲む瞳をエメラルドへと向ける。
そうこうしてる内に今度は世界的ミュージシャンであった平和を愛する外国人を彷彿とさせる黒人が空中ダンスを始めた。
これもパフォーマンスと呼ぶのだろう。
滑らかな動きはまるでCGを使っているのではないかと疑いたくなる程だが、テレビで見る限りその可能性は皆無に等しいだろう。

「……凄い…」

ぽつりと漏らされたのはエメラルドの感嘆の声。
クリスタルが彼へと視線を向けるとエメラルドはクリスタルにはにかんだ微笑みを向けた。

「…パフォーマンスであんな風に人を感動させられるのが凄いなって。ポケモンの力を借りないで、自分一人だけの力であそこまで出来るのが凄いと思ったんだ」

照れ臭そうに白状するとエメラルドのモンスターボールがガタガタと揺れだし、バリヤードが飛び出した。

「!?」

飛び出したバリヤードはエメラルドの前に来ると突然パフォーマンスを始め出す。

「な、何だ!?何だ!?」

訳が分からないエメラルドは驚愕しながら瞠目する。
突然のバリヤードの奇行にエメラルドと同じく目を見張っていたクリスタルは、バリヤードの必死なパフォーマンスと形相を見てある可能性に気付く。

「…もしかして、バリヤードはエメラルド君に喜んで貰いたいんじゃないかしら?」

「…え?」

「きっとそうよ。だって体全体でこんなに表現してるのよ?喜んで!って笑ってる」

自分の持てる技を駆使するバリヤードを見詰めたエメラルドはその翠色の瞳を細めて小さな唇の端を上げて弧を描いた。

「…ありがとう。バリヤード」

そう礼を述べるとバリヤードはパフォーマンスを止めてエメラルドに飛び付く。
すると他のモンスターボールからジュカインとサマヨール、ウソッキーが飛び出し、たちまちエメラルドの取り合いが始まった。

「痛い!痛い!離せ!」

悲鳴を上げるエメラルドと彼を離したがらないポケモン達。
クリスタルはその微笑ましい光景を見詰めて満足そうに笑った。

「ポケモン達に愛されてるわね。エメラルド君」

「痛た!クリスタルさーん!そこで見てないで助けてよ!」

新年早々、エメラルドのポケモン達は彼を哀しい気持ちにさせたくない気持ちで一杯らしい。
真のエメラルド愛で隊隊員No.1はこのポケモン達なのかもしれない。
クリスタルは内心でそう思いながら暫くの間、賑やかな光景を見詰めた。

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エメラルドを誰よりも一番好いているのは彼の手持ちポケモンに違いない(^O^)/


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