シンオウ地方は極寒の地。
というのは些か表現が極端過ぎるだろう。
けれど、この地方が他の地方と比べて寒いのは明確な事である。

しんしんと雪が降る。
冬。
窓の外を見れば辺り一面銀景色。
雪が降り止めば小さな子供達が防寒着を着用して駆け出すだろう。
そんな想像を描いてはその微笑ましい光景にヒカリは口元を綻ばせた。

「何か楽しい事でもあった?」

隣で本を読むコウキが本から視線をヒカリへと移す。
優しく温和な彼の笑顔に安心して、ヒカリはベッドから下りてとてとてと歩き、コウキの隣に座った。

「外は雪が降ってるよ」

「そうだね」

「きっと、子供達が雪合戦するんだね」

「元気に遊び回る姿が目に浮かぶね」

「それって凄く、良い事だね」

良い事?
微笑ましい、ではなく?
首を傾げて問い掛けるとヒカリは水の様に透き通った瞳を真っ直ぐにコウキに向けた。

「子供が元気いっぱいに遊び回ったら身体がぽかぽかするよ。そしたら、寒くないもん」

だから、良い事。
そう続けるヒカリの言い分にコウキは納得した。
ああ、そうか。
ヒカリちゃんは人一倍寒がりだっけ。

「僕達も外に出て駆け回る?」

提案すると彼女はふるふると首を横に降った。

「……寒いから、嫌」

流石寒がり。
結果として温かくなるとしてもその過程で寒い境遇に身を置くのは嫌らしい。
ぴったりとコウキに身を寄せて、ヒカリは彼の手に自分の手を伸ばした。
指を絡ませて繋ぐ。
曰く恋人繋ぎを無意識に行う彼女は絶対に天然だ。
ぎゅうと力を入れてコウキの手を握るとヒカリはぽつりと呟いた。

「どうして、」

「どうして人の体温はこんなにも温かいのに、心までは暖かくないの?」

「何で、笑顔の裏で嘘を吐くの?」

「私は、「ヒカリちゃん」

ヒカリの言葉を遮ってコウキはヒカリを抱き寄せた。

「多分それって悩んでも仕方ない事だよ。それでも答えを見付けたいから君は悩み続けるんだろうけど、でも一人で突っ走らないでよ」

「でも」

「でもじゃない。そうやって君に置いてかれたら僕が寂しいでしょうが。大体何でそうやって一人で抱え込むの。こういう時にこそ僕に頼るべきでしょう」

「…」

「今まで何だって一緒にやって来たでしょう。今回の事だって君の納得する答えを二人で見付けようよ」

「…………コウキ君はあったかい、ね」

「ヒカリちゃん限定でね」

ぽとぽと涙を流すヒカリちゃん。
君は本当に繊細だね。
きっと君は世界中の誰よりも繊細だから、僕等みたいに受け流す事も割り切る事も出来ないんだ。
不器用過ぎて優し過ぎる君が世界で一番あたたかいって事、知らないんだろうな。
多分、僕が言っても否定するだろうし。
どうして君は自分が誰よりも冷たい心の持ち主なんて勘違いしちゃうのかな。
純粋で優しい君は自分以外の誰かを想って泣いているのに。

とりあえず腕の中で子供みたいに泣く(子供だけどね)ヒカリちゃんを笑顔にさせないとな。
そんな事を考えてコウキは幼なじみを笑わせるべく口を開いた。

君を笑顔にさせる為なら僕はきっと。

**************
コウキはヒカリが大事。
繊細なのはヒカリで打算的なのはコウキ。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -