ぽかぽかと春の陽射しが眩しい季節。
お昼を過ぎた太陽は南に昇り、ぎらぎらと真下に存在する全てを照り付ける。
その太陽の下では一人の少年ー…ルビーが森の中を走っていた。
理由は一つ。
サファイアを探しているから。

…まったく、約束の時間になったっていうのにあの娘は…。

本日の昼を過ぎた1時。
その時間にルビーとサファイアは出掛ける約束をしていた。
ミナモデパートに新しい店がオープンするので、その店に買物に行くのだ。
約束の時間丁度にサファイアを迎えに行ったルビーを出迎えたのはフィールドワークに行く準備を整えたオダマキだった。

「やあ、ルビー君。どうしたんだい?」

「サファイアと買物に行く約束をしまして、迎えに来たんです」

にこりと微笑んで「ところでサファイアは?」と首を傾げたルビーにオダマキは申し訳なさそうに頭を掻いた。

「サファイアなら今朝早くに外に飛び出して帰って来てないんだよ…」

すまないね、と頭を下げるオダマキを慌てて制止して、ルビーは息をついた。

「大丈夫です。大体の見当はついてるので、迎えに行ってきます」

そう言って踵を返すルビーの背中をオダマキは再び申し訳なさそうに見つめた。




美しさを信条にするルビーは汚れる事を極端に嫌う。
彼からしてみれば森の中も出来るだけ歩きたくはないのだろう。
森の中を通る時はルビーはいつも汚れが付くのを最小限に抑える為になだらかな道を歩く事を心掛けている。
どんな時だってその心掛けに例外はなく。
ルビーとサファイアの秘密基地に向かう時もその例に外れる事はなかった。
細心の注意を払いながら秘密基地に居るであろうサファイアを迎えに疾走する。
風を一身に受けてルビーは思った。

ランニングシューズがあって良かった…。

デボンコーポレーション開発のランニングシューズ。
これはルビーがミシロに引越した際に彼の誕生日プレゼントとして父、センリから贈られた物だ。
一度はごみ箱に捨てたこの靴を今では大切な物として扱っている。
その行動からホウエン地方に引越してからの一年間でルビーの心境が劇的に変化したのが読み取れる。

「…っと」

ランニングシューズにより秘密基地に着く時間を早める事に成功したルビーは洞窟に降り立つと声を掛けた。

「サファイア居るー?」

わんわんとルビーの声が反響した。
自分の問い掛けに帰ってきたのが自分の声だけである事に眉を顰めたルビーは呟いた。

「…ここには居ないのか」

アテが外れた。
溜息をつくとルビーは無言で秘密基地を後にした。




どこに行ったんだか…。

探しても探しても見付からない。
フィールドワークに出掛けたのだろうか。
日頃の彼女を思い出して、ルビーは深い溜息をつきたくなった。
有り得る。
サファイアならやりかねない。
でも、もしもそうだとしたら、彼女に一言言ってやりたい。

何を考えてるんだっ!ってね。
だってそうだろう?
昨日デートの約束をしたんだよ?
その約束を忘れてフィールドワークって…。
……………。
あ、ちょっと今、傷付いた。
サファイアにとってボクよりポケモンの方が大事なのか。

ショックを受けるルビーのテンションは急激に下がった。
がっくりと肩を落とすルビーの背中には哀愁すら漂っている。
ふと俯かせていた顔を上げるとルビーは周囲をぐるりと見回した。

ー…甘い香りがする。

すんすんと匂いの元を探して叢を掻き分けたルビーは瞠目すると大きな声を上げそうになって、慌てて自分の声を飲み込みー…脱力した。
ルビーの視線の先には花の中で眠るサファイアが居た。

こんな所に居た…。

熟睡するサファイアの隣に座るとルビーはサファイアに手を伸ばした。
ぐぐっと指を折り曲げて、勢い良くサファイアの額にデコピンを繰り出す。

「…いっ、!?」

大きな声を上げてサファイアは飛び起きた。
閉じていた瞼が開き、藍色の大きな瞳が姿を表す。
ルビーがデコピンをした額は赤く色付き、痛そうだ。

「約束破って居眠りしてた罰だよ」

「ルビー?」

サファイアの瞳がルビーを見て大きく開く。
涙で濡れた藍色に驚愕の色が足された。

「まったく、君はどうしてそんなに忘れっぽいのかな?君を探すボクの身にもなってくれないかい?」

呆れた、と両手を左右に広げ、首をゆっくりと振り、わざと大きな溜息をつく。
ルビーの心底呆れたという表現にサファイアはたはは、と苦笑を返した。

「すまんち…。散策ばしとったらこげに綺麗な場所ば見付けたけん。遊んどったらお日様の暖かさと風の心地好さでうっかり寝てしまったと」

らしい。
サファイアらしすぎて返す言葉が見付からない。
優雅な花畑の中、ポケモンと転がり回るサファイアを想像したルビーはじっとサファイアを見つめた。

「…だからってねぇ…」

とりあえずサファイアに説教を施そうと口を開いたルビーの口にサファイアが突然、何かを押し当てた。

「んむっ!?」

ルビーの双眸が見開く。
ぐいぐいと口の中に突っ込まれた物を思わず咀嚼して飲み込んだルビーを見て、サファイアは満足そうに微笑んだ。

「散策ばしとった時にそこで苺が成っとったけ。甘くて上手かやろ?」

苺の甘さが咥内を満たし、溜飲と共に喉を通り、胃へと下る。
苺を口の中へと突っ込まれたルビーは半眼になってサファイアを見据えた。
すると何か。
サファイアは散策に出掛けて思いも寄らず、美しい花と美味しい苺が成るこの場所を見付けて、夢中で遊んでいたら、お腹が一杯になっていたのも含め、陽射しの暖かさとそよ風の心地好さに負け、睡魔に襲われたという事か。
ルビーの纏う雰囲気が不穏な物に変化したのを野生の勘で察したのか、サファイアは眉を下げてしおしおと項垂れた。

「…やからってルビーとの約束忘れて遊んでたのはいけんね。あたしが悪かったち。ごめん…」

心底、申し訳なさそうに頭を下げるサファイアを暫くじっと眺めたルビーは小さな溜息をついた。
ルビーの溜息が耳に届き、顔を上げたサファイアの口に先程のサファイア同様に指を突っ込む。

「むぅっ…!?」

サファイアの咥内に苺を置き去り、彼女の唇から指を抜き取ったルビーはサファイアの足元に散らばる苺を見せびらかす様に一つ摘み上げて口の中に放り込み、指を舐めて、妖艶な笑顔を浮かべた。

「お返しだよ」

「〜っ!!」

ルビーの行動に頬どころか耳も含めた顔面全てを真っ赤にしたサファイアは声にならない悲鳴を上げた。
サファイアの反応に満足したルビーは彼女の頭へと手を伸ばす。

「仕方ないからこれで許してあげる。今日はミナモデパートで買物は止めて、ここで日向ぼっこでのんびりデートにしようか」

ぽんと頭を撫でて柔らかい笑顔を浮かべるルビーの言葉にサファイアは瞳を輝かせた。

「うんっ!」

嬉しそうに笑ったサファイアの明るい笑顔は数秒後のルビーの発言により、凍りつく事になるのだが、この時のサファイアにはそんな事はまだ、知る由もなかった。


(ところでサファイア?苺はどこに実ってるの?)
(あっちったい!)
(OK。あっちだね。よし、じゃあ苺の食べさしあいっこしようか)
(たべさしあいっこ…?)
(そうだよ。ボクが君に、君がボクに苺を食べさせるの)
(何ば言うとっと!?日向ぼっこするって言ったとやろっ?)
(だから、食べさしあいっこしながら日向ぼっこをすれば良いじゃないか)
(嫌ったい!そげな恥ずかしいこつ出来なか!)
(おっと、逃がさないよ?)
(ぎゃー!離すったーい!)
(離す訳ないだろ?だってせっかく君と二人きりなんだから)
(っ!…ううう…)

******************

遅くなって申し訳ありませんっ!
相互をして下さった「初恋いちご」の神山 煉さんに捧げます。

どうしても神山さんのサイト名の「初恋」「いちご」のキーワードが入れたくて、お互い初恋同士のルビーとサファイアのカップリングで苺の食べさしあいっこをする話にしました。
長い上に纏まりのない文で申し訳ありません…><
最初のイメージではほのぼので終わる予定でしたのに、ルビーが暴走してしまいました。
いえ、暴走したのは咲の脳なんですが…。

えーと、お話の中でルビーが気付いた甘い香りは苺の香りです。
季節は春なので苺のシーズンも最後の方なんですけれど、そこはもうあえてツッコまない方向でお願いします!
拙い文で分かりにくいかもしれません。
書き直して欲しい箇所がありましたら、お申しつけ下さい。
書き直しを致します。

相互して下さって本当にありがとうございました!
お互いにpkspサイトの運営を頑張りましょうo(^-^)o
これからも「time lag」と咲を宜しくお願い致します^^*

※こちらの相互記念小説「君と二人きりで」は神山さんのみお持ち帰り可能です!
予めご了承下さいm(__)m


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