「けっこん…」

ホエルオーのクッションを抱いて、サファイアが呟いた。

「サファイア?」

その呟きを耳にしたルビーが裁縫を行っていた手を止めて、ぼーっとテレビを眺めているサファイアを見る。
彼の手の中にはサファイアの為の髪飾りが出来上がっていて、その形を見せていた。
サファイア、と再度呼びかけても応じない彼女の後ろに立ち、サファイアを後ろから抱き寄せる。

「ひゃあっ!?な、なんばすっとね!」

「別にー?」

もぞもぞと動いてルビーの腕の中から逃れようとするサファイアを先程よりも強く抱きしめ、彼女の首筋に唇を寄せる。

「やめっ…!」

ルビーの息がかかるのがどうにもこそばゆく、サファイアは身を震わせた。

「ルビッ…」

顔を赤く染めるサファイアの様子を眺めて、ルビーはサファイアの首筋から顔を離す。
ルビーが自分から離れたのを確認するとサファイアは振り返ってルビーを睨みつけた。

「まあまあ、そんなに怒らないでよ」

「せからしかっ!」

睨みつけられてもなお、飄々とした態度で笑うルビーにサファイアの怒りのボルテージが上がる。

「ごめんってば。ほら、そんなに顔を赤くして目を吊り上げないで。せっかくの可愛い顔が台なしだよ」

サファイアが怒っていても変わらず朗らかに笑ってルビーは手に持っていたサファイアに贈る髪飾りを彼女の頭につけた。

「まあ、怒っていても君はcuteだけど」

悪びれもなく笑って、さらりとどんなサファイアでも可愛いよと言ってからルビーはサファイアから離れた。



「うーん…。どうしようかなぁ…」

しとしとと雨が降っているので、外に出掛けるのを断念したルビーは自室にて一人頭を抱えていた。

どういった事をすれば彼女は喜ぶのかな。
一般的な女性はロマンチックなシチュエーションに憧れるものだけど。

普段のサファイアを思い出してルビーは眉毛を寄せた。

女の子らしい事も本当は大好きな、けれどお洒落よりもポケモンを優先する彼女を幸せな気分に浸せたい。

男としての意地か。
単純に自分の美意識が許さないのか。
おそらく両方。
どうしてもサファイアの笑う顔を見たいルビーはこれといった名案が思い付かない事に溜息をついた。

雨は降ってるし、外には出掛けられないし、wonderfulな閃きもない。
あー、もー。

行き詰まったルビーは帽子を取ってベッドに体を投げ出した。

思い付かない。
全くもってこれっぽっちも全然思い付かない。
何でこんな思い付かないんだ。
ボクってそんなに閃き力ないのかな?
いやいや、そんなことはない筈。
あれだ。
外、雨降ってるし。
ほら、NANAやCOCOとか憂鬱そうだし。
つまり何が言いたいのかというとボクもこの雨に憂鬱になってる訳で。

何気なく窓に目をやったルビーは一瞬の沈黙を後に叫んだ。

「ー…これだ!」




雨続きでぬかるんだ地面を踏み締めてサファイアは秘密基地に到着した。
深夜と言って良い程の夜更けにルビーから連絡が入った。

『もしもし?サファイア?夜遅くにごめんね。今から秘密基地に来て欲しいんだ。待ってるから』

眠気眼だったサファイアの瞳は久しぶりのルビーの声が耳に届いた瞬間にぱっちりと開いた。

「は!?」

驚きの声を上げてポケギアを見れば、画面には既に通話が切れている事を知らせる文字の表示が。
数日間姿すら見かけなかった彼の突然のコンタクトに驚き、今まで何をしていたのかと問い詰めたくなり、サファイアは急いで着替え始めた。
秘密基地の入口には布の様な物が掛けられている。

あん人、また模様替えでもしたんやろか。

今まで連絡がなかったその理由が、遠い地方で模様替えの為の買物をしに行ってました。だったら笑える。
いや、むしろ脱力する。
やぁ、サファイア。見てよこのエモンガドール。この可愛さといったらもう…。
そんなルビーの幻聴が聞こえて、サファイアはその幻聴が現実に起こらない事を祈りながら布をめくって秘密基地の中に入った。

「ルビー、来たとよー」

声を掛けてルビーの存在を確認する。
秘密基地の中は真っ暗で視覚による認識は期待出来ない。
声を掛けても返事が返ってこない事を不思議に思ってサファイアは耳を澄ませた。
ルビーの存在を五感を使って確認する。

「…?ルビー、おらんの?」

何も感じられない。
つまりはルビーはここに居ない。
どういうことだろう。
首を傾げてルビーを呼べば、後ろからここに居るよ、と。

「ルビー!?」

驚いて後ろを振り向く。
サファイアの後ろには紅い瞳を持つ青年が洞窟の壁に寄り掛かってサファイアを見ていた。

「あんた今までなんばしとったと!何の連絡も寄越さんで…っ」

「サファイア」

サファイアがルビーに詰め寄ろうとした瞬間、ルビーがサファイアの名前を呼んだ。

「…外を見て」

有無を言わさぬ言葉の響きにサファイアは口をつぐんで黙ってルビーに従った。

「…あ!」

秘密基地を塞いでいた布はいつの間にか剥がされていて、外の光が洞窟の中にさしこむ。

「綺麗…」

朝焼けだ。
いつの間に太陽は昇ったのだろうか。
日の光が洞窟の中に差し込んで光を反射する。
木に覆い茂る木の葉には昨夜まで降っていた雨の雫が朝の光を受けてきらきらと輝いている。
それはまるで世界の始まりの様で。
世界が目覚める瞬間を目撃した様な気分になった。
美しく幻想的な景色だ。

「この景色を君に見せたかったんだ」

「まさか、こん為に…?」

目を丸くしてサファイアはルビーを凝視する。
ルビーは何も言わずにサファイアの手を取ると床に膝まずいた。

「…?ル、ビー?」

ルビーの行動の意味が分からずにサファイアは首を傾げた。

「君の笑った顔が好きだ。怒った顔も泣き顔も可愛くて、誰かの為にあろうとする…誰かの為に一生懸命になれる君の心はとても美しくて」

「…っ!ル、ルビーっ!?」

突然始まったルビーからの愛の告白にサファイアは頬を赤らめた。
熱を持った視線で熱くサファイアを見つめて、ルビーは柔らかく微笑した。

「本当は女の子らしい所もあって可愛いものも好きな君だけど、でも君は自然やポケモンの方が好きだよね」

ありのままの美しさを僕に教えてくれたのは君だったよね。
君との賭けがなければ、僕は本当の意味で美しさを悟る事は出来なかった。

「だから、君に見せたかった。ありのままのこの景色を。…覚えているかい?僕等が再会したのはこの秘密基地なんだよ。そして君と賭けをしたのもこの秘密基地だ」

8年前、僕等は此処で再会した。
そして賭けという名の約束を交わし、旅に出た。
その約束は確かに守られて、僕等は約束を果たす事が出来た。

それが過去の僕達。
なら、現在の僕達は?

「忘れる筈がなかやろっ!あんたとまた会えた場所で賭けばした場所やけん!」

特別な思い出やけん。
忘れる筈なか。

口を尖らせてふて腐れるサファイアを嬉しそうに見つめてルビーは笑った。

「ねぇ、サファイア。もう一度、約束しようよ。今度は期限付きじゃない約束を」

「どげんこつ…?」

首を傾げて僕を見下ろす彼女が愛らしくて。
早くその表情が僕の望む表情に変わる瞬間が見たいと思う。

「ずっと僕の傍に居て欲しい。隣で笑っていて欲しいんだ。ー…結婚しよう。サファイア」

初めて出逢ってから僕等は互いに影響し合って、再会してからまた交じり合って、もう離れる事なんて想像出来ないんだよ。

愛の誓いと共にサファイアの指に用意してあった指輪を嵌めて、ルビーはサファイアの手にキスを落とした。

ねぇ、返事を聞かせてよ。
上目遣いでサファイアを見上げるとサファイアは勢いよくしゃがみ込み、ルビーの胸に飛び込んだ。

自分の胸に飛び込んできたサファイアを受け止めて、ルビーはサファイアを覗き込んだ。

「…嬉しかぁ…」

サファイアは笑っていた。
頬を染めて藍色の瞳を潤ませ、はにかんだ笑顔はとても幸福そうだ。
その笑顔を目にしてルビーも幸せそうに微笑んだ。

その笑顔が見たかったんだ。
君のその幸せそうな表情が。
ところでサファイア?
君、何か忘れていないかい?

「サファイア、返事は?」

そう促せばサファイアは僕の頬を包んで、先程よりも一層に頬を赤く染めて笑った。

「そんなん決まっとる」

綺麗な笑顔。
beautiful…。
僕の呟きとサファイアの唇が下りてくるのは同時だった。
僕の唇にサファイアのそれが重ねられて、僕の呟きは彼女の口へと飲み込まれていった。

長い時間キスをしていたように思えたけれど、実際のキスの時間はとても短かった。
すぐに唇を離してサファイアは僕から体を離し、正座をした。
居住まいを正して背筋を伸ばし、お辞儀をする。

「ふつつか者やけど、よろしくお願いします」

顔を上げたサファイアは幸せそうに微笑んだ。

ああ!
してやられた!
まさか彼女からこんなお返しがくるなんて!
彼女を喜ばせるつもりだったのに、僕まで幸せになってしまった。

衝動に任せてサファイアを引き寄せて抱きしめる。

「きゃあっ!」

サファイアの悲鳴が聞こえたけど聞こえないフリ。
ついでに文句も聞こえないフリ。
なんばすっとね?
勿論、さっきの続きさ。
甘美なキスの続きをしよう。
それこそ、とろけてしまいそうな甘くて熱いキスを。

そう言ったら彼女は全力で逃げようとするから、服の端を引っ張って腕を捕まえて体の自由を奪う。
混乱しまくって支離滅裂な言葉をはく彼女の唇を指でなぞる。
ぷつり。
緊張の糸が切れた音。

「うがーっ!」

「ぐあっ…」

渾身の力で頭突きをされて、僕はサファイアを離してしまった。
隙有り。
言葉通り僕の隙を見付けた彼女は一目散に駆け出して僕から逃げて行った。

「あはは。逃がさないよ?」

笑顔でサファイアを追い掛ければ、サファイアは悲鳴を上げて走る速度を速めた。

「来ないで欲しかーっ!」

「無理言うなよ!僕は君とキスしたいんだ!」

「普通のキスやないけん、嫌ったい!」

「ごく一般的だよ!」

「そげんこつなか!」


逃げる君と追い掛ける僕。
会話だけ聞いてると端から見たら喧嘩だけど。
でも僕達が笑ってるの分かるでしょ?

ああ、幸せ。




******************

長い間お待たせしてしまって申し訳ありませんでした!
リクエスト「ルサで甘甘小説」との事ですがお題に沿えているでしょうか…?
書き直して欲しい箇所があるようでしたら、お申しつけ下さい。
いくらでも書き直しますので><

1000hitリクエスト募集で応募して下さった緒梨さんに捧げます。
緒梨さん以外はお持ち帰り禁止ですのであらかじめご了承下さい。
リクエストありがとうございました!^∀^*





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -