CLAP Thanks

5月の中間試験が終わった後に残る行事は遠足だけである。
一年はカイナの海に、二年はヒマワキの森に、三年はキンセツの地下にあるニューキンセツと呼ばれる地下遊園地に出掛ける事が決まっている。
一年生であるサファイア達はバスにより、カイナシティへと訪れていた。
学年主任であるテッセンが一つ一つ注意事項を話し終えると彼は息を深く吸って締めの一言ー…曰く、駄洒落を言って豪快に笑った。
テッセンの駄洒落を解散の合図と受け取った生徒は皆一斉に駆け出した。

「お嬢さん達遅いなぁ…」

先に水着に着替えたパールとダイヤモンドはプラチナとサファイアを待っていた。
余りにも遅いのでぼんやりと青空を眺めていたパールが呟く。

「女の子だもん。オイラ達と違って支度に時間くらい掛かるよ〜」

ビーチに備え付けられているベンチに腰掛け、ダイヤモンドがのほほんと笑った。

「でも遊べるのは今日一日だけだろ?出来る限り遊んどきたいじゃないか」

ビーチボールを膨らませるパールの肩をダイヤモンドが叩く。

「あ、お嬢様達来たよ〜」

「遅くなってすまんち」

「お待たせ致しました」

「遅いよ。お嬢さん、サファイア」

振り返るパールの視界には艶のある黒髪をおだんご頭にして一つに纏めたプラチナといつも通りの髪型のサファイアが映った。
プラチナが着ている黒のビキニには適度にフリルがあしらわれ、気品が滲み出ている。
ビキニの黒い布や紐がプラチナの白い肌を一層に引き立てた。
サファイアはショートパンツに首の後ろでリボンを結んだキャミソールの様な水着を着ている。
サファイアとプラチナの格好にダイヤモンドは拍手を贈った。

「二人とも可愛いよ〜」

「…とりあえず、お嬢さんは上に何か羽織ってくれ」

「?何故ですか?」

首を傾げたプラチナにパールは僅かに頬を朱色に染め、「良いからこれでも羽織ってくれ!」と自分が上に着ていた上着をプラチナに押し付けた。
首を傾げながらもパールに押し付けられた上着を素直に着ていくプラチナに背を向けて、パールは朱く色付いた頬をごまかす為にぺしぺしと叩いた。
横目でちらりと周囲を窺えば、プラチナとサファイアに擦れ違った男共が振り返っては彼女達に見惚れているのが見えた。

「サファイアもオイラの上着着る〜?」

「あたしはこのままで良かよ。ありがとー」

ダイヤモンドののほほんとした申し出を断るサファイアの会話が耳に届き、パールは頭を抱えたくなった。

あああ!
何だってうちの幼なじみ達はこうも無防備かつ鈍感なんだ!

不躾な視線に気付きもしない幼なじみをオカン気質のあるパール…訂正、心配性のパールはじとりと見つめた。
そんな彼に知った声が掛けられる。

「あれ?パールじゃないか?」

呼ばれたパールが振り向くよりも早く、サファイアが大きな声を上げた。

「あーっ!あんた達、あん時の…!」

「エメラルドを知ってるの〜?」

「この前、飲み物ば買う時に助けて貰ったとよ。…ダイヤはこん人達のこつ知っとると?」

「ああ…サファイアはあの時居なかったもんな」

パールがそう言うとサファイアは傾げていた首をますます傾げた。

「オイラ達がボランティア部に入部する事に決めた日にブルーさんから翌日に集合しろって言われてたでしょー?あれって生徒会メンバーとの顔合わせだったんだよ〜」

にこにことダイヤモンドが笑って説明する。
説明されたサファイアはゆっくりとエメラルドの方に顔を向けた。
今の話の流れからすると…。
サファイアの読みを肯定するかの様にエメラルドはサファイアに片手を差し出すと笑った。

「つまり、そーいう事。俺は生徒会会計のエメラルド。よろしくな、サファイア」

「あたしはぼらんてぃあ部のサファイアったい!困ったこつがあったらいつでも言って欲しか!手助け出来るこつやったらいくらでも力になるったい」

エメラルドと握手をするとサファイアはエメラルドの隣に並ぶ少年に視線を向けた。
紅い瞳が印象的な少年はニコリと微笑んだ。

「僕はルビー。部活には所属してないけど、洋裁とか料理を作るのが得意だよ」

女々しか男ったい…。
ルビーの自己紹介を聞いたサファイアはそう思ったが、自分を助けてくれた人に失礼な事は言えないので、声には出さなかった。

「俺はパール。サファイアと同じボランティア部のサポーター」

「オイラはダイヤモンド。パールと同じボランティア部だよ〜」

「私はプラチナです。生徒会書記を担当しています」

それぞれが自己紹介を終えると和やかによろしくと言って、顔合わせが終了した。

「あ、えーとパール君?君の持ってる物ってビーチボール?」

ルビーがパールの抱えるボールを指差すとパールはああそうだよと頷いた。

「後、俺の事はパールで良いよ。君付けは呼ばれ慣れないから何かむず痒い」

「分かった。じゃあさ、そのボールでビーチバレーしない?」

「ビーチバレー?」

「うっは!やるったい!やりたか!」

サファイアが瞳を輝かせ、挙手した。

「…あ、だったら海の方が良いかも」

何かに気付いた様なルビーの言い方に違和感を覚え、視線をルビーへと向ける。
エメラルドは嫌な予感が脳裏を過ぎり、眉を顰てルビーを見上げた。

「…ほら、エメラルドは小さいから身長差の有りすぎる僕等とじゃやりにくいんじゃないかな」

ぽんとエメラルドの頭を撫でたルビーに対してエメラルドは顔を真っ赤にして憤慨した。

「んな訳あるかーっ!お前、俺をおちょくるのも大概にしろよ!」

「アハハ。ゴメンゴメン」

「誠意がないっ!棒読みすんなっ!」

「…あの、とりあえず海に入りましょうか?砂浜は熱いですし」

ルビーとエメラルドのやり取りに目を丸くしていた一同はプラチナの控え目な提案に我に返った。

「そうやね!早く海に入りたか!」

「お嬢さん、陸に上がる時は上着を着てくれよ」

「?良く分かりませんが、了解しました」

「海の中、冷たくて気持ち良い〜」

「冷たっ!」

「じゃあボール投げるよー」

ビーチボールが青く澄み渡る空に高く放り投げられた。




遠足から帰って来たサファイアは風呂上がりでほかほかの体をベッドへと投げ出した。
首に掛けていたタオルで濡れた髪をぐしゃぐしゃと拭き取る。
開けていた窓から夜風が入り込んだ。

「気持ち良か〜」

今日はとても楽しかった。
海でのビーチバレーは白熱物だったし、ルビーがエメラルドを抱え上げて「ほら、エメラルド!ボールが来たよ!トスして!」「下ろせーっ!そんな事されなくてもトスくらい出来るわ!」「あ、そう?」「ぶっ!」「お前…っ、いきなり海に落とすなよ!」「下ろせって言ったり落とすなって言ったり、エメラルドは我が儘だなぁ」「誰が我が儘だーっ!」とおちょくるのも(エメラルドには悪いが)はたから見ていて面白かった。
ルビーに憤慨するエメラルドは本気で怒っている様には見えないし、ルビーも彼が本気で怒っていないのが分かっているのだろう。
きっとそのやり取りを行ったり、そうある事が彼等にとっての友情なのだ。
そう認識したサファイアはにんまりと口角を上げた。
帰ってきた約束の地方、自分と共にこの学校に入学した幼なじみ、知り合う事が出来た生徒会会長とその役員、そして。
新たな友達。
これからの学校生活を想像したサファイアは楽しくなるであろう未来に想いを馳せて、ゆっくりと瞳を閉じた。


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