仕事を終え、翌日の指示や準備を終えたリヴァイは、「明日は休みだ、宜しく頼む」と、秘書に書類を渡して部屋を出た。 自室に戻ってシャワーを済ませると、リヴァイは食堂ではなく街へと向かった。 酒場が軒を連ねる辺りに来ると、いつもの店を通り過ぎ、普段ひとりでは入らない大衆酒場へと入った。 (煩せぇな……だが……) それが少し、心地好いと思う時がある。 「あの酒と、食い物は任せる」 「はい、今日のオススメで良いですか?」 「あぁ、それで良い」 『誰か』の傍に居たいのではなく、『人』に紛れていたい……そんな気分なのか、リヴァイはカウンターでひとり飲んでいた。 訓練や雑務をしていれば、それ程気にはならない様だが、リヴァイは時折自分の存在している意味がわからなくなるのだ。 地下にいた頃は、生きる為にあれこれやった。食える時に食って、眠くなれば眠り……何事にも何者にも縛られずに生きていた。 (だが、今はどうだ……?) 時間と規律に縛られ、それ自体は苦痛でも何でもない。与えられた仕事をこなせば良いだけだ。だが、休みとなるとそれらから解放され、何も無い自分に不安になる。 (そろそろ、飲んでおくか) 実は、リヴァイは見かけによらず酒に弱い。 地下に居た頃は、警戒からかあまり量を飲んだ事が無かったせいか、本人も知らなかったのだ。 兵団に来てからは、ある程度飲めた方が都合が良いだろう……と、それに気付いたハンジがアルコールの中和剤をリヴァイに渡している。 そのせいで、皆はリヴァイが酒に強いと思い込んでいるが、兵士長のイメージとしては良いことだろう。 何度かポケットの中を探ったが、持って来た筈の中和剤が……無い。 (ヤバい……) 少しくらい酔っていた方が寝れるだろう……と、いつもよりも飲んでから中和剤を飲もうと思ったが、リヴァイにとってこれは一大事だ。 無いと思うと余計に回っている気さえして、リヴァイは眉間にこれでもかと深い皺を寄せた。 リヴァイのすぐ後ろでは、女性ばかりのグループが楽しそうに飲んでいたが、その中のひとりが心配そうにリヴァイを見ていた。 (兵長、何か苦しそう……?) 具合でも悪くなってしまったのかと見ていると、少し不安定な歩き方で会計を済ませて店を出ようとしていた。 「ナマエ? どうしたの?」 「これ、私の分……足りなかったら今度払うね」 「えっ? ちょっと……」 「ごめんね、用事思い出したから……」 この中で、兵士はナマエだけだ。出て行った男が兵士長だと気付く者は居ない。 咄嗟に立ち上がると、ナマエは急いで店を出た。 (兵長……どこに……) キョロキョロと辺りを見回すと、細い路地へと入って行くのが見え、ナマエは走って追いかけた。 「ここって……」 角を曲がろうとして、ナマエが躊躇したのも無理はない。その通りには娼館が並び、普通の女性はまず通ろうとしない道である。 (あそこに用があるなら……お邪魔かな……) そう思いつつも、心配からか……そっと路地の奥を覗いたナマエは、思わず「あっ!」と声を漏らした。 先程よりも足元の覚束ないリヴァイを囲む様に、数人の男たちが近寄っていった。 (いくら兵長でも、あの状態では……) 対人格闘に少しだけ自信があったナマエは、咄嗟にまた駆け出した。 (あっ! えっ? 嘘っ……!) 近付くナマエの目には、次々と倒れていく男達の姿が映り……背中を向けたリヴァイにあと数歩と迫ったところで、汚れを払う様に手を叩くのを見て足を止めた。 「ったく、腹ごなしにもなりゃしねぇ……って、まだいやがったか」 バッと振り向いたリヴァイは、ナマエの姿を見て躊躇したのか、蹴ろうとした動きを止め……ナマエに向かって倒れて来た。 「兵長、大丈夫ですか?」 「あぁ……」 「お部屋まで送りましょうか?」と訊いたナマエに、リヴァイは少しだけ考える素振りを見せたが、「あぁ」と頷いた。 「お部屋に着きましたよ」 端から見れば、ナマエの肩を抱いて歩いている様にも見えたが、ナマエに支えられて歩いて来たリヴァイは、鍵を開けるとそのままナマエごと中に入った。 (わぁ……こんな風になってたんだ……) 部屋の場所は知っていても、幹部の部屋の中まで見る機会など無いからか、ナマエが部屋を見回していると、更に奥のドアをリヴァイは開けた。 (積極的だな。悪くねぇ……) ドアの向こうは寝室だったが、ナマエは早くベッドに横になりたいだろうと思い、自ら誘導する様に寝室へと入った。 「兵長……っきゃぁっ?」 さあどうぞと寝かせるつもりが、ナマエはリヴァイの腕の中でくるりと反転させられたかと思うと、あっという間に寝かされ、視界にはリヴァイの顔と天井しか無かった。 (反応が、初々しくて良い……) 驚いた顔のまま固まっているナマエは、必死に状況を理解しようとしているが、未だこういった経験の無いナマエの頭は、パニックを起こしていた。 リヴァイはといえば、良い感じに酔って……普段もて余している欲がここぞとばかりに膨らんでいた。 (兵長に、押し倒された……?) 漸く思考が戻ってきたナマエだが、その頃には服は何処へ行ったのか……気付けばリヴァイもナマエも裸になっていた。 「あ、あの……」 「そう焦るな……」 思いきって出した言葉は、リヴァイのキスによって遮られた。 (まだ、慣れてねぇのか……?) それなら俺が教えてやろう……と、リヴァイは普段なら適当に慣らして突っ込んでやれば良いだけだと思っていたが、こういうのもたまにゃ良いなとゆっくりとナマエを蕩けさせ……開かせていった。 途中、「こうしてやれば、男も喜ぶぞ」「ほら、ここだ……」と、教えてやったりもしていた。 (良い声で啼きやがる……) 序盤の優しさは何処へやら、途中からはもう、ナマエは声を上げる事しか出来ず、されるがまま、背を反らし……喉を曝し、ナマエは自分が今どんな格好をさせられているかすらもわからない状態だった。 だが、何度目かの大きな波を越えたとき、リヴァイの動きがピタリと止まった。 (ん……? お、終わり……?) やっと解放されるかと思ったナマエだったが、うっすらと開けた目には、自分を見下ろす美しい獣が見えた。 「そろそろ、終いにするか……」 情欲に染まる瞳が、ゆっくりと近付いた。先だけナマエに押し込むと、リヴァイはナマエの背中に手を差し入れ、グッと抱き締めたかと思えば、一気にナマエの奥まで突き立てた。 (っ、イイ……) それまでの動きも激しかったが、それでも、ナマエを気遣っていた動きとは違い、己の欲と快楽のままに激しく……リヴァイも熱い息を溢しながら、何度も何度も突き上げた。 背中に回された腕によって胸を突き出す格好のナマエは、悲鳴の様な声を上げると、これでもかとリヴァイを締め付けた。 それに逆らうこともせず、リヴァイは促される様に一番奥へと擦り付けながら、思いっきり放った。 (こんな……) イイ思いはしたことがねぇ……と、リヴァイは抜く事すら考えられず、抱き締めたままゆっくりと瞼を閉じた。 「ん……」 ナマエが目を開けると、月明かりが差し込んでいた部屋は、いつの間にか窓から見える朝焼けの色を映していた。 (ここ……兵長の……) ぼんやりと記憶を辿っていたナマエだが、腹の上の重みと下肢の違和感に恐る恐る下を向けば、そのまま寝てしまったのだと理解した様だ。 (兵長と……) そっとそっとリヴァイの下から抜け出したナマエは、幸せそうな顔でぎゅっと自分を抱き締めると、今度は一変して悲しそうな顔でベッドを降り、脱がされたものをひとつひとつ拾い、身形を整えると静かに自室へと向かった。 ずっと憧れていた兵長と……でも、それはきっと行きずりの行為であって、期待してはいけないと……ナマエは泣きそうになるのを堪えながら、同室の皆を起こさない様にそっとそっとベッドに潜り込んだ。 ナマエが僅かな時間でも……と、眠りに落ちた頃、リヴァイは目を覚ました。 (あのまま、寝ちまったのか……?) だが、ベッドには女の姿は無く……服も無くなっていた。 (身体の相性というのは聞いたことがあったが、これ程とは思わなかった……) 酔いも手伝っただろうが、理性も何処かへ行っちまった相手など居なかったと思った途端、リヴァイは思い出した。 「名前も聞いてねぇ……」 呆然として、顔はと考えたが……それも覚えていなかった。 (だが、まぁ……) 探せばすぐに見つかるだろう……と、リヴァイは最高の気分でまた瞼を閉じた。 人生最高……そんな睡眠を貪ったリヴァイは、朝食が始まる頃に目を覚ました。 (また……抱きてぇ……) 遠くを見る様に目を細め、ほぅっと溜め息を吐いたまでは良かったが、そこで漸く、あのまま……シャワーも浴びずに寝た事を思い出したリヴァイは、途端に眉間に皺を寄せた。 だが、イイ思いをしたオマケだと思えば……すぐに穏やかな顔に戻った。 「取り敢えず、飯でも食って探しに行くか……」 ベッドから降りたリヴァイは、シャワーの序でにシーツも洗っちまうかと振り返り……驚いた。 (怪我でもしたか……? いや、させたのか……?) 自分を見たが、痛みも、それらしい傷も無い。となると、自制が利かなかった事で、女にかなり無理をさせたんじゃないかと考えるしか無い。 (悪いことしちまったな……) シーツを剥ぎ取ると、リヴァイはとぼとぼと浴室に向かい、何度も溜め息を吐きながら……なかなか落ちない汚れを丁寧に洗った。 [ *前 ]|[ 次# ] [ request ]|[ main ]|[ TOP ] |