「こりゃ……どんな冗談だ?」 目覚めた俺の第一声は、そんな言葉だった。 今までにも、妙な事になった事は多々ある。だが、こんな……こんな事が起こるなど、誰が思うだろうか? ガキに……いや、小人というものになっちまったのか? ベッドを降りようとして、足が届かずに落ちた俺は、思ったよりも高いベッドに驚いて姿見の前に行ったが、変わり果てた己の姿を見て……出たのがあの言葉だった。 ……この状態じゃ、無理じゃねぇか? 寝起きといえば、先ず行く場所を見たが、やはり、ドアノブにすら届かねぇ。こりゃ参ったと風呂の方を見ると、珍しく閉め忘れたのか開いていた。浴室のドアも、換気のために少し開けてあるのを思い出し、俺は急いでそこへと向かった。 ……何でこんな目に合わなきゃならねぇんだよ。 排水口を狙って用を足すなど、有り得ねぇ事だろう。手を洗おうと蛇口を捻れば、頭から水を浴びる羽目になって、踏んだり蹴ったりだ。 浴室に起きっぱなしになっていたタオルで拭いて、着替えをと思ったが、よくよく考えてみれば、服はでかいままだ。 起きた時、唯一掃いていた下着も脱げちまっていて、ベッドから落ちた時には素っ裸だった。 これしかねぇか…… フェイスタオルを腰に……いや、なんか女が巻くみてぇになった。ソファーによじ登り、これじゃ紅茶すら淹れられねぇと舌打ちをしたが、事態が変わる訳じゃなかった。 「こんな事が出来るのは……」 ハンジしか居ないのは、誰に訊くまでもねぇだろう。部屋からも出られねぇ……それに、下手に出歩いた方が騒ぎになっちまう。 それから3時間、俺は部屋で悶々としていた。 「兵長、起きてますか?」 外から声がして、時間になっても来ない俺をナマエが探しに来たのだとわかった。開けて入れと言おうとして、気付いた。鍵が……掛かっている。 「退いてろ!」 駄目だろうと思いつつも、思いっきりドアを蹴れば……開いた。どうやら力は元のままの様だ。 「オイ、大丈夫か?」 ドアの外で伸びているナマエは、退いてろと言ったのに退かなかったんだな。まぁ、内開きのドアが当たるとは思いもしなかったんだろうが…… 仕方無く引き摺って入ると、俺はソファーに乗せてやった。 起きるのを待つしかねぇ俺は、肘掛けに座って待っていた。 「あっ! 兵長!」 気付いたナマエは起き上がると、キョロキョロしている。 「ここだ……」 「え?」 「俺だと言っている」 「お、お人形が喋った……?」 「んな訳無いだろうが……」 ひょいと降りてナマエの膝に乗り、よく見ろと襟を引き寄せ顔を寄せた。だが、その拍子にタオルが落ちると、ナマエはそっちに気を取られた様で……一点を見たまま動かなくなった。 「どこを見てるんだ、どこを……」 「……ついてる」 「ったりめぇだろうが!」 これは夢だ、頭打っておかしくなったんだと暫くパニックを起こしていたナマエだが、俺を抱き締めている。胸に密着させられていると、その感触と甘い匂いに……催した。 ……ん? ナマエの膝に乗っているが、少し見下ろす位置に顔がある。 「戻ったみてぇだな……」 見上げて驚いているナマエから降りて前に立つと、ナマエが悲鳴を上げた。 「兵長、はだ、裸です!」 「あぁ、そうだったな……」 下を向けば、反り返ったモノがナマエの前に丸出しだった。 「取り敢えず、これで良いか?」 「よ、良くないですっ、何か着て下さい」 隠せる物はとフェイスタオルを取ったは良いが、腰に巻くにも足りねぇ。仕方無くタオルをモノに被せたが……駄目だったらしい。 見せると目付きが変わるのは……商売女だけか? 本気で嫌がってるよな……? 何だか気持ちも萎えた俺は、着替えるべく歩き出し、寝室のドアノブに手を掛けて引いたつもりが、ぶらんとぶら下がり、ぽてんと床に落ちた。 ……オイ。 効果が、不安定なのか? へ、兵長の裸! それよりも、アレはあれですか? 酷く凶悪な容貌でしたが…… 何とも言えない恐怖に顔を覆ってしまうと、暫くそこにいた兵長が、何処かへ行った。 着替えて来るのを待ちましょう。 小さな兵長らしい子を抱っこしていたら、大きな兵長になってしまった。小さいとあんなに可愛かったのに、残念だなと考えていたけれど、待てど暮らせど戻って来ない。 「兵長……?」 何故か心配になって振り返ると、ドアの前で小さな兵長が仰向けに倒れていた。 「ど、どうしてまた……」 「おれがしりゅか……」 言ってすぐに、兵長はバッと口を押さえた。 今……何か……らしからぬ言葉が……? 「どうしましょうか、このままという訳にもいきませんよね?」 「あぁ……」 「私の部屋に連れて行っても良いですか?」 「……?」 首を傾げる仕草が……可愛過ぎます! 「裸のままという訳にもいきませんよね?」 「あぁ……」 「服を作ります。と言っても、少し直すだけなので、すぐに出来ます……が、取り敢えず何かくるむ物は……」 「しょこの、3番目、たおる……」 くりんとした大きな目が、もっと大きくなったかと思うと、口を歪めて泣きそうな顔になった。 「き、気にしてませんから! タオルを出しますね」 急いで取り出して、兵長をくるんで自分の部屋に走った。 どうしちまったんだ……さっきは喋れてた筈だ。だが、上手く舌が動かねぇ。 ナマエに運ばれながら、俺はこのまま頭の中もガキになっちまうんじゃねぇかと考えて、そうなったら……俺はどうなるのかと不安になった。 「ちょっと良いですか?」 下手に喋りたくねぇと思った俺は、頷いた。 ナマエは荷物の中から小さな服を出し、妹の人形の服なのだと説明をしている。 良く出来てるな…… 渡されたのを着てみたが、サイズは合う様だ。ズボンは、腹が緩いが長さは丁度良い。 「どうですか?」 「ズボン、おっきい……」 そこでまた、俺は固まっちまったが、言葉に関してはもう諦めた。ナマエも何も無かったかの様に、話をしていた。 どうせ、長くても3日の我慢だろう。 着替えを幾つか持ったナマエと、ハンジのところへ行き、俺が説明した通りに話して貰った。そのあと、団長室へハンジも連れて行って、また同じ説明をして貰い、ハンジの弁解を聞いた。 「困ったな……中身は大人なのか?」 「あぁ」 「解毒剤は、無いんだろう? ハンジはすぐに取り掛かってくれ。リヴァイは、暫く自室で様子を見るしかあるまい。だが、それにも世話する必要がありそうだな」 「……あぁ」 俺はエルヴィンの目を見ながら、ナマエの服にしがみついた。それで通じたらしく、世話はナマエに頼むと言ったエルヴィンはニヤリと笑った。 「はら、へった」 部屋に帰ると、朝からバタバタしていて飯どころか飲み物すら飲んでいない事に気付いた。 「朝食も、食べてないんですよね?」 頷くと、ナマエは急いで部屋を出て行った。 俺の世話はナマエがやってくれる……そう思えば、こんな状況だがかなり気分はましな方だと思う。 「もう、お昼でした……」 何故かしょんぼりしながら帰って来たナマエに、一食抜いたくらいで死にはしねぇと言えば、困った顔で笑った。 [ *前 ]|[ 次# ] [ request ]|[ main ]|[ TOP ] |