以心伝心?
〜お前に伝わりゃそれで良い〜


調査兵団は、変人の巣窟である。

その中でもやはり幹部は、相当な変わり者の集まりであると言えよう。

先日、面白い事思い付いた……と、ハンジが『兵団一○○』というお題で投票を募ったのだが、これが思ったよりも盛況だった。まあ、当然と言えば当然だが、ダントツ1位は『兵団一奇行種』という称号を手にしたハンジである。

「てめぇは誰が見てもそうだろうが」
「そうかなぁ、私は巨人は好きだけど……巨人じゃないんだけどなぁ」
「人間にも、奇行種が居るというだけだろう?」
「……まあ、それなら」

……それで良いのか。皆の呆れた顔は、当然見えていないハンジである。

「私よりいいじゃん」

不名誉だ……と、その横で落ち込んでいるのは、ハンジと同じ分隊長を務めるナマエである。

『兵団一小さい』それが彼女に贈られた称号であるが、こればっかりは努力してもどうにもならなかった事だと嘆いている。

「女は小さくても問題ねぇだろうが」
「だって……」

チラッとリヴァイが目線を遣れば、「あー、他は?」と、ナマエは話題を逸らした。

「リヴァイがさ、票の数ではダントツなんだけどさ、纏まらないんだよね……」
「ん? どういう事?」
「内容はほぼ同じなんだけど、書き方が違うから……どうしたもんかと」
「……あー、ほんとだ。意味は同じっぽいけど、○○って部分が違うんだね」

ナマエが次々と読み上げていくが、その度にリヴァイの眉間の皺が深くなっていく。

「うわ、これ面白い!」

ハンジの手にある紙には『兵団一ツンデレ(デレない)リヴァイ兵士長』そう書かれていた。

「成程な。リヴァイがデレるというのは想像がつかないな」
「エルヴィンは『冷静・冷徹』だってさ」
「誉め言葉として受け取っておこう」
「ミケはさ、『匂いフェチ』っていうので纏まってるね。単なる変態だと思うんだけどな……」
「ナマエ、それは酷いぞ……匂いというのはだな……」
「あ、リヴァイのこれも面白いよ!」

ミケが語り出したが、ナマエは既に違う話題になっている。いくら語ろうが、会う度に匂いを嗅がれる方からしてみれば、ただの変態であるという結論なのだろう。

「ほら、『兵団一貴公子(喋らなければ)』だって……」

ナマエとハンジが大笑いをしていたが、リヴァイの足によって床に転がされた。だが、慣れたもんで二人は文字通り、笑い転げている。

「無記名じゃないと書けない内容だな」
「うん、背丈と目付きと喋り方が残念……って書いてあるけど、ある意味それがリヴァイの特徴なのにね」
「……知るか」
「顔だけなら王子様なのに……と、誰か言ってたな」
「好き勝手言ってんじゃねぇ……」

団長室が凍りつきそうな声で、皆の動きも口も凍りついたが、約一名、流石は奇行種である。ハンジは普通に紙を振り分けていった。

「でもさ、これが一番多いかな……」

皆もリヴァイも、早いとこ終わりにしてくれといった目でそちらを見た。

「『兵団一笑顔が見たい人』だってさ、成程と思うよね」

だが、皆は違う意味で笑いを堪えていた。

以前、パーティーに出た時の為にと、愛想笑いで良いからしろと言って練習をしたのだが、結果……リヴァイは笑わなくて良いという事になったのだ。

相当……酷かった様だ。

「俺は戻るぞ」

このまま此処に居れば、間違いなく物を壊しそうだと思ったリヴァイは、これ以上ネタにされてたまるか……と、さっさと部屋を出て行った。

「あちゃー、怒らせちゃったかな……」
「まあ、リヴァイには面白くは無かっただろうな」
「え? 皆わからないの?」
「何が……?」
「あれ、リヴァイは照れてるだけだよ」

皆は愕然としているが、「リヴァイってば可愛いんだからぁ」と、ナマエは楽しそうにはしゃいでいる。

「あれのどこが……」
「あばたもえくぼ……ってヤツか?」
「怒ってる様にしか見えねぇ」

顔を寄せてそう言った面々に、ナマエはウインクして「よーく見てればわかるってば」と言って、リヴァイを追って行った。

「そりゃ、あんただけでしょうが」

フッと笑ったハンジに、二人も頷いた。




(恥ずかしいじゃねえか……)

ナマエの言う通り、リヴァイは笑う訓練をした時の事を思い出し、恥ずかしさを誤魔化す為に暴れそうになっていたのである。

通路をひとり歩きながら、リヴァイが漸く通常に戻った頃、ナマエが追い付いた。

「……何だ?」
「一緒に食堂行こうかと思って」
「そうか」

ビタ……と、足を止めたリヴァイは、キュッと靴を鳴らして向きを変えたが、ナマエを見ても表情は変わらない。

「行こっ?」
「あぁ」

にこやかに笑うナマエと眉ひとつ動かさないリヴァイ……だが、ナマエはそんなリヴァイを見て、更に綻ばせる。

「楽しみだね、今日は何かな?」
「……」

リヴァイの肘をツンツンと突っついたナマエは、少しだけ出来た隙間に手を差し込んで歩き出した。
並んで歩くリヴァイの歩調は、普段よりも遅いのだが、ナマエに合わせているとは誰も思わない。

「野菜スープだ」
「あぁ」
「リヴァイはニンジン好きだよね」
「お前が嫌いなだけだろうが……」

周りはハラハラしながら見ているが、ナマエがリヴァイの器にポイポイとニンジンを放り込んでも、表情は変わらない。

「だって……数が多いんだもん」

ペロッと舌を出したナマエは、リヴァイの顔色を窺っている様にも見えるが、「リヴァイ、ありがと」と、黙々と食べているリヴァイに笑った。

「分隊長、ひとりでやってて悲しくならないのかな……」
「兵長、ほんっと表情が何にも変わらないよね」

周りにはそう見えているが、ナマエはそうは思っていない様だ。

後から来た幹部三人も、リヴァイとナマエの居るテーブルに着き、「見てればわかる」と言ったナマエの言葉通り、頑張って見ている。

「でね、窓から下着落としちゃってさ、慌てたのなんのって……」

スープを飲んでいたリヴァイの手が止まり、ナマエを見ている。皆は、リヴァイは何を言うのかと固唾を飲んで見た。

「ちゃんと拾ったんだろうな?」
「う、うん。でも……」
「……」
「新兵の頭に乗っちゃってね、大騒ぎだったんだよ」

少し俯き加減で、リヴァイの動きが止まった。

「あ、大丈夫……女の子だったから……ね? 怒らないでよ」
「……そうか」

何事も無かったかの様にまた、リヴァイはスープを口に運んでいる。周りで見ていた者達には、リヴァイの変化はわからなかった。

「喋ってねぇで、さっさと食え。置いて行くぞ」
「うん、そうだね。明日は休みだもんね、買っておいたお酒飲むんだったよね」

何処にそんな要素があった……? と、周りは唖然となった。だが、リヴァイも「あぁ」と、ナマエの食器の辺りを見る様な角度で、頬杖をついたまま答えていた。

「まだ座ってろ」

リヴァイは二人分のトレーを持って席を立ち、片付けに行ってしまった。

「ね、ねぇ……今のリヴァイは……?」
「え? 楽しみで……早く部屋に帰りたいみたいね」
「遅いからイライラして……とかじゃないの?」
「ええっ? 全然穏やかだよ? 仮に怒ってたとしたら、それ以前に待たないで帰るだろうと思う。でも、一度もそんな事した事無いよ」

訊くだけ無駄だったかと、ハンジは変な笑いをした。

「行くぞ」
「はぁい、片付けありがとう」
「……あぁ」

先を歩くリヴァイについて立ったナマエは、皆に小さく手を振って食堂を出て行った。

「わかったかい?」
「「いや……」」
「……だよね。あれで喜怒哀楽がわかるって、凄いよね。やっぱ愛かねぇ……」

……勝手にやってくれ、そんな顔の二人をよそに、ハンジは暫く喋っていた。




「ねぇねぇ、明日はリヴァイ……何か予定がある?」
「これといって予定はねぇな」

だが、一晩中……とはいかないまでも、ナマエを可愛がってやろうと思っている。そうなれば、明日は部屋でのんびり過ごす事になるのは確定だ。

「街にね、新しいカフェが出来たんだって」
「そうか」
「一緒に行きたいなぁ……」
「……女ばかりだろうが」
「リヴァイのハンカチも、買いに行こうよ……」
「……まだあるが」
「ちょっとだけで良いから、ねっ?」

下から覗く様に、ナマエの上目遣いと甘い声がリヴァイにヒットしている。

(よしっ! もうちょいだ……)

別に、リヴァイが行かないとはナマエも思っていない。では、何を彼女は期待しているのだろう……?

「リヴァイと一緒に行きたいの……」

ナマエの潤ませた瞳を見たリヴァイは、スッと目線を床に落とした。

「行ってやらねぇとは、言ってねぇ」

暫くその状態を見ていたナマエだが、飛び付いて喜んだ。

(こ、これはやめられない……)

伏し目がちに見たリヴァイが、頬を染めて目を逸らす。これは他人には見せたくない……貴重なリヴァイのデレ顔なのである。

普段の会話なら、ナマエはリヴァイの意思をきちんと汲み取れる。当然、行きたいと言った時点で、リヴァイも同意している。けれども、何度も訊く時は理解できていないのだと思うのか、リヴァイも頑張るのである。

皆は、表情というもの……顔全体を見て判断するのだろうが、リヴァイの表情筋は仕事をしない。
ならば、ナマエはどこを見ているかといえば、リヴァイの目の動きなのだ。

眉間の皺に騙されそうだが、面白い事に、あれはどの感情でもなる。しかも、感情の度合いを示すだけなのだ。その代わり、リヴァイの目は口よりも物を言う。

(つ、次いってみよう!)

「じゃあ、お酒はお終いにして、お風呂……はいろうか?」
「先に入っちまえ」

(片付けておいてやる)

「やだ」
「なら、どうすりゃ良い」

(一緒に……というのだろうが……)

そうしたいのは山々だが、片付けを残すのは嫌だと思うリヴァイである。

「片付けも一緒にするから、ねっ?」

(早く見たいっ!)

「あぁ」
「いっぱいサービスしちゃうよっ」
「……されてろ」
「ん……?」
「お前は啼いてりゃ良いんだ」

(くぅ……っ、デレからの俺様進化、たまりませんっ)

こうなると、何故か表情筋も活躍する。色気全開のリヴァイは、ニヤリと笑い、食器やグラスを運んだ。

「ほら、さっさと洗わねぇと……お前の下着が汚れちまうぞ」

後ろからナマエを抱え、脱がせに掛かるリヴァイを制しつつ、必死に洗うナマエだが、実はとても喜んでいる。

誰にも見せたくないリヴァイを……独占出来るのだから。

「お、終わったよ」
「残念だが、時間切れだな」
「やっ、終わったのに……許して?」
「躾が足りねぇ様だな、ナマエ……」

(ここから先のリヴァイは……誰にも教えてあげないよ)

End



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