幸せの為のスパイス
〜恥ずかしいからイイんだろう?〜



調査兵団には、2年程前から常に噂の中心に居る女性が居る。
それまでは、特に目立つ事も無く平凡な兵士であり、素行が悪い訳でも何でも無く、噂になる様な事すら無かった。

2年前というと、リヴァイが調査兵団に来た頃で、そのリヴァイとの出会いが彼女の運命を大きく変えたのだ。

パタパタと走って来たナマエが、リヴァイに飛び付いた。

「リヴァイ、今度のお休みっていつ?」
「確か4日後だったが……」
「一緒ね」
「あぁ、何かあるのか?」

態々同じ日にしているのだと、言わないリヴァイもリヴァイだが、気付いていないナマエも中々大したものである。
流石に毎回とは行かないが、リヴァイは出来る限り努力している。

だが、実はナマエもエルヴィンに頼んでいるので、恥ずかしいから……と、そこには触れないだけなのだ。

「隣の町に、凄く美味しいケーキ屋さんが出来たらしくてね、一緒に行って欲しいな……って」
「その情報は……アイツか?」
「うん、エルヴィンが教えてくれたのよ」

(そりゃ多分、てめぇが連れて行ってやろうと……誘ったんだと思うがな)

「アイツは何と言ったんだ?」
「確か……『隣町に、お前の好きそうなケーキ屋が出来たぞ。次の休みにでも……』って言ったから、リヴァイに訊いてみようと思って、走って来ちゃった」

(そんなこったろうな、続きがあった筈だが、まぁ良い)

「そうか」

リヴァイはナマエを引き寄せると、頭や背中を撫でてやった。

「一緒に……行こうな」
「楽しみにしてるね」

リヴァイの予想通り、エルヴィンの言葉には続きがあった。「たまには私とどうだ?」と彼が言った時には、「ありがとう!」と、ナマエは走り出していたのだ。

「また、夜にね」
「あぁ」

来た時同様に、ナマエは走って去って行く。そんな後ろ姿を見ながら、リヴァイは「まだ諦めてねぇのか……」そう呟きながら顔を歪めた。

周りを気にしない……そんな二人の様子が、瞬く間に広がっていくのだ。




翌日、休みの調整の代わりにと、ナマエは団長室の掃除をする事になっていた。

「元気が無いな、何かあったのか?」
「え? 大丈夫……」

そう答えたナマエだが、昨夜はリヴァイの嫉妬により、中々寝かせて貰えなかった。無意識に腰を擦る姿を見て、エルヴィンは察した様だが、昨日のリヴァイ同様にナマエの後ろで顔を歪めていた。

(リヴァイ……)

腹の中では、どす黒い物が渦巻いている。どうしてくれよう……そんな事を思い浮かべているエルヴィンも、ナマエが好きなのである。

元々は、家が近所でエルヴィンを兄と慕うナマエであったが、兵士になり、暫くは恋などしないと言ったナマエの意思を尊重して見守っていたのを、リヴァイにかっ拐われたという、間抜けな話なのだ。

辛そうにしながらも、休みの為だと頑張る姿を見て、愛しさと切なさ……ではなく、嫉妬に苛まれているエルヴィンであった。

「ナマエ、昨日のケーキ屋の話だが……」
「あ、うん。リヴァイが一緒に行ってくれるって」

顔だけ向けて「ありがとう」と、満面の笑みを見せられ、自ら墓穴を堀り追い討ちを掛けるという失態を犯すあたりは、エルヴィンもそういった事はあまり得意ではないのが窺える。

どうしてやろう……そう思いながら歩いているリヴァイと、どうしてくれようか……そう思いながら書類に向かうエルヴィンとの間で、ナマエは何も知らず幸せそうに掃除をしている。

「あいたっ!」

よろけたナマエが、資料の並ぶ棚にぶつかり声を出した。バッとそちらに目を向けたエルヴィンは、声を掛けるよりも早くナマエの方へと走った。

大きな音と衝撃から目を開けたナマエは、エルヴィンに押し倒された格好で倒れていた。

(何で……?)

時を同じくして、良い案も浮かばないまま団長室に着いてしまったリヴァイも、外で物音を聞いた。

「オイ、どうし…………ぁあ?」

慌てて駆け込んだリヴァイの前には、ナマエの上に乗ったエルヴィン……という、有り得ない光景があった。

「エルヴィン……?」

不思議そうに呼んだナマエにすら腹が立ったリヴァイは、退こうともしないエルヴィンに近寄った。

「っ、てめぇ、白昼堂々と俺の女を押し倒すとは、良い根性してるじゃねぇか……なぁ?」

ナマエの声にも、リヴァイの言葉にも、エルヴィンは反応せずにナマエに乗ったままだ。
そこで漸く、ナマエはある事に気付いた様だ。

「リヴァイ……エルヴィン気絶しちゃってるよ」
「……あ? なら、何でお前もそうしている……早く退けよ」
「重くて動けない」

箱に入った書類が幾つも床に落ち、散乱している。こうなる前の状況を聞けば、ドジを踏んだナマエを助けようとしてこうなったのだろうと理解出来る。箱に当たって、気絶したのだろう。

(だが、待てよ……?)

「お前は、そういう状態で嬉しいんじゃねぇのか?」
「そ、そんな事無いよ、エルヴィンはお兄ちゃんだから、そんな事思わない」

本当か? そう訊いたリヴァイの顔はどう見ても……片方だけ口角を上げた、所謂、"悪い顔"になっていた。

「そうか、なら、助けてやる」

エルヴィンを足で転がし、リヴァイはナマエを引き起こすと、「証明して貰おうか」とナマエの頬から首、胸へと手を滑らせて掴んだ。

「リヴァイ、証明って……な、何を……?」
「簡単だ、いつもみてぇに俺が好きだと言えば良い」

真っ赤になっているナマエを、エルヴィンの横に座ったリヴァイが自分の上に向かい合わせで乗せると、「早く……」
そう言ってナマエの背中を撫でながら目を閉じた。

自室で過ごす時は、リヴァイがソファーに座っていると、ナマエが自分でこうして座る。

「リヴァイ……好き」

ナマエがリヴァイに口付け、一度離してそう言うと、今度は深く口付けた。

「ん、っ、リヴァ……好きっ」

その時、エルヴィンの眉間に皺が寄った。リヴァイはそれを見逃さない。蹴って退かした時に、エルヴィンが意識を取り戻していたのを、彼は知っていたのだ。

そのまま、ナマエを連れて出て行くだろうと……そうしてくれと望んだエルヴィンの思惑は、リヴァイにはバレていたという事で、それを逃す手は無い……と、逆手に取られたのである。

(……悪くねぇ、いい加減諦める気になるだろう?)

ナマエは息を乱しながらも、何度もリヴァイに「好き」「リヴァイだけ」と繰り返している。
エルヴィンが気絶していると思っているからか、かなり積極的なナマエは、腰まで揺すり始めた。

(あ……リヴァイ……)

それまではナマエにされるままだったリヴァイが、気を良くしたのかエルヴィンに聞かせるためか、ナマエを責め始めた。

甘い声を漏らし、終いにはリヴァイが欲しいとまで言ったのには、エルヴィンだけでは無く、リヴァイも驚いた。

「そうだな、エルヴィンは寝ちまってるしな……少し位お前が居なくても文句は言わねぇだろうよ」

ナマエの肩越しにエルヴィンを見たリヴァイは、クッと小さく笑いを溢した。
すぐに起き上がらなかった事が裏目に出たエルヴィンは、リヴァイがナマエを抱き上げて出て行くのを、黙って見ている事しか出来なかった。




「アイツの前であんなに乱れて……興奮しちまったか?」

リヴァイの言葉に、ナマエは反論出来ずに小さく首を振った。

「どうせなら、あそこであのままヤっちまっても良かったな」

また、ナマエは首を振った。

リヴァイの自室へと連れて行かれる間、ナマエはこうして何度もリヴァイに恥ずかしいと思う事を言われ、その度に首を振ったが、リヴァイの表情は楽しそうにも見えた。

「エルヴィンに見られていたとしたら……どうなっちまうんだろうな?」

部屋に着き、ベッドに降ナマエを降ろすと……リヴァイはそう言って覆い被さった。

「派手に濡らしてるんだろう?」

リヴァイの手は器用にズボンを脱がせている。

「そ、そんなこと……」
「無いとは言わねぇのか?」

(……言えない)

ナマエの考えている事など、お見通しと言わんばかりに、下着の上から指で撫でた。

「下着は使い物にならねぇな」

嫌、言わないで……と、ナマエは身を捩ったが、逃がすリヴァイでは無い。

「やっ、あ……」

下着のまま指で押され、掻き回す様にされれば、そこがどういう状態かはナマエにもわかる。
そのまま下着の横から滑り込んだ指は、これでもかとナマエを責め立てた。

ナマエの乱れる様を見ながら、リヴァイも自分で器用に脱いでいく。

(あ……も……ダメっ)

ナマエがイきそうになるのを察知したリヴァイは、指を引き抜くと、ズボンも下着も投げ、ナマエの下着を剥ぎ取った。

「イくなら、コレの方がイイだろう?」

早く……と、手を伸ばしてきたナマエに覆い被さると、リヴァイは一気に腰を沈めてナマエに押し込んだ。
逸る気持ちそのままに、リヴァイは激しく腰を動かし、ナマエを啼かせた。

(やべぇ……)

癖になりそうだと思ったリヴァイは、エルヴィンが気付いているのを知っていただけに、ナマエよりも興奮していた様だ。
エルヴィンの前で……というのも余計にリヴァイを高揚させるのだろうが、本当にそんな事をしたらどうなるかなどわかりきっている。

勢いのまま放ったリヴァイは、普段よりも互いに「善かっただろう……?」と、ナマエを抱き締めて囁けば、頷いたナマエに何やら話していた。




急いで団長室に戻ったナマエは、一瞬入るのを躊躇ったが、エルヴィンは知らないんだから……と、大きくドアを開けた。

「エルヴィン、ごめんね……大丈夫だった? リヴァイが来て連れて行かれちゃって……」
「ああ、大丈夫だ」

互いに知られる訳にはいかない……と、それ以上は何も言えなかった。

(あの時、すぐに起きていれば……)

然しものエルヴィンも、今回ばかりは策を誤ったと後悔するも、命に関わる事ではないと溜め息を吐いた。

(潮時かも知れないな)

リヴァイに取られた腹いせをしていたエルヴィンであったが、次に何か起きれば、目の前であの続きを始めるんじゃないかという不安が過った。

(そんな事になれば、耐えられるとは思えない)

傷心のエルヴィンは、ナマエからそっと視線を外した。




「どう……だ?」

その夜、ベッドで足を組むリヴァイの前に立ったナマエは、俯いた顔を下から覗く様に訊かれて頬を染めている。

「洗っといてやったぞ」

そう言ってナマエの下着をぶら下げたリヴァイは、取り返そうとしたナマエを抱えて転がった。

「なぁ、恥ずかしい癖に、濡らしてるんだろう?」
「い、意地悪……」
「ほら、脱いで見せろよ」

どうやら、リヴァイは新しい楽しみを見つけてしまった様だ。

そんな二人が居る部屋の窓を見上げ、エルヴィンは夜の町へと姿を消した。

また今夜も……ドアの外まで聞こえる声で啼かされたナマエは、翌日の話題になるのであった。

End



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