sends and arrives 2
〜お前が俺に届いた日 1〜


調査兵団の専属獣医になって欲しいと、出した手紙の返事の通り、ナマエが俺の元に届いた。

再会を喜び、ナマエの感触を確かめ、そのまま部屋に連れ去ろうとしたのだが……契約に関する話などで、来て早々にナマエはエルヴィンとハンジに取られた。

「……それで、今夜はどうする予定なの?」

ナマエが着いたのは昼過ぎだったが、今はもう夕方になっていた。今から帰らせるなんて出来る時間じゃねぇ。

「あ、あの、この辺りに宿はありませんか?」
「あるけど、空いてるかな? それなら、此処に泊まれば良いんじゃない?」
「そうだな、部屋は余ってるから問題はない」
「……俺の部屋に泊める」

皆が揃って俺を見た。存在が忘れられているかと思うくらい、暫く口を開かなかったからか、言った言葉の内容なのか、驚いた顔をされた。

「そんな顔をするな、俺のベッドを貸してやると言っているだけだ。何も一緒に寝ようとは言ってねぇだろうが」
「うん、まあ、そこまでは考えてないけど、ナマエちゃんはどうなのかと思ってさ……」
「あ、あの……」
「ナマエは俺のだ、どこにもやらねぇ」

笑い転げたハンジと、真っ赤になったナマエ……そして、真顔で「好きにしろ」とエルヴィンは言った。

「話はもう良いか?」
「ああ、明日帰るなら、その前にさっき訊いた事の返事を貰えるかな?」

出張という形で月のうち数日を此処で過ごすか、此方に引っ越して来て、常駐して貰えるのかと訊いていた。
俺は常駐して貰うものとばかり思っていただけに、それには驚いた。

選ぶのは……ナマエだ。

「はい、明日お返事させていただきます」

やっと解放されたと、俺はナマエを連れて団長室を出た。

「一度執務室へ戻って、残りの仕事を片付けちまいてぇんだが……」
「はい、お仕事するリヴァイさんを見てみたいです」

すまねぇと言おうとして、返事に頷いた。

見て、楽しいもんでもねぇだろうがな。

「凄い……綺麗な部屋ですね」
「普通……だろ」
「そんな事無いですよ、きっと性格なんですね」

キョロキョロと見回して、落ち着かねぇのはきっと同じだろう。紅茶でも淹れるか……そう思った時、ナマエが言った。

「お父さんも、此処で働いていたんですね……」
「あぁ……」
「今度連れて行ってやるって、言ってたのに……やっぱり、"今度"と"お化け"は出ないんですね……」
「……?」
「心配だって言いながら、化けて出る事も無くて……」

出たら怖いだろうが……

そう思ったが、ナマエはそれでも、「もう一度会いたかった」と呟いた。

「ロルフは、未だ戦っているんだろう。お前や俺達を守る為に……な。だから、未だ帰れねぇんだろう」

必死に立ち向かって行った、大きな背中を思い出した。

「座っていろ、茶を淹れてくる」

恥ずかしい事を言っちまったと想う反面、どこかでそう思っていたい俺も居るのだろうと思った。
しかし、ナマエが親を失ったばかりだという事を、浮かれて忘れていた。此処へ来るという事は、嫌でも思い出すのだろうと、察する事すら出来ない己の浅はかさには腹が立った。




夕食は外で食わねぇかと誘ったが、ナマエは父親の思い出を集めていた。

「思ったよりも……少ないのですね」

食堂で皆と同じ物を食いたい……それを叶えてやったが、少し困った顔を見せた。

「あぁ、お前の家の……あの食事に比べたら、そう思うかも知れねぇな」
「そうですね……お父さん、いつも沢山食べていたので……」
「あぁ、ロルフは食うからな。たまに足りねぇと言って、外に食いに行ってたな」
「やっぱり……」

ナマエは、ふふっと笑いを溢した。

皆の視線が俺とナマエに集まっていたが、ナマエは気付いちゃいねぇ様で、その後は黙々と食べていた。

食後は馬の様子を見に行き、大人しく繋がれているでかい馬を誉めてやっていた。だが……たまたま空いていた俺の馬の隣で、満足しているそうだ。
俺の馬も、嬉しそうに見えちまった。

「そりゃ……良かったな」

何とも複雑な気分だったが、俺達は邪魔だと言わんばかりに鼻で押し遣られ、厩舎を後にした。

娘が男を連れてきた時、父親はこんな気分なのだろうか……?

なぁ、ロルフよ……

無意識に壁の方を向き、俺は胸の奥でそう問うた。




風呂も済ませ、寝るとなったらやはり、どちらがベッドを使うかで口論になりかけた。

「ベッドを貸してやると言っただろう?」
「でも……」
「どうした?」

俺の服をきゅっと掴んだナマエに、胸も鷲掴みにされた気分だった。

「リヴァイさんに……会いに来たのに、ひとりじゃ寂しいです」

隣の部屋で寝ると言ったからか、不安そうにするが、だからと言って一緒に寝る訳にも行かねぇだろうと考えていた。

「来て……ください」
「……?」

服を引っ張られてベッドに近付けば、嫌でも胸が騒ぎ出す。だが、ベッドに上がったナマエは、壁に寄り掛かり膝を抱えていた。

「隣に座って貰えませんか?」
「あぁ」

残念に思う下半身と、どこかホッとした想いの上半身に戸惑いつつも、俺もナマエの横に座った。

「家に居ても寂しくて、最近こうして寝る事が多いんです」

母親を亡くした時、ロルフがこうして隣に座っていてくれたのだという。ナマエを置いて仕事に行かなきゃならない事もあり、寂しい時はこうしていれば安心出来ると教わったそうだ。

「誰かにぎゅってされてる様な気持ちになるだろう? って、お父さんて見かけによらず可愛い事を言うな……って思ったんですけど、こうすると確かに……寂しく無かったんです」
「そうか、確かに落ち着く。俺もひとりだった頃は、よくこうして眠っていた」

それは、胎児の記憶なのではないか? そう書かれた本があったと、話してやった。
思い出す事は出来ない記憶だが、母親の腹の中というのは、どんな場所よりも安心出来る場所だったのだろう……と。

「そう……かも知れないですね」
「あぁ、ガキの頃は小さくなって隠れている格好だと思っていたが、こうしていると眠れる事もあった」

今にして思えば……安心出来たのかも知れねぇなと話していると、ナマエが少し遠慮がちに俺に寄り掛かって来た。

「こうして、寝ると良い。今はひとりじゃねぇからな……」

片足を伸ばし、ナマエを引き倒して俺の足を枕にさせた。俺はもう片方の膝に肘を着いて頭を乗せると、ナマエの手に手を重ねた。

だが、ナマエはその手を抱える様に、胸に当てた。

鼓動が……伝わってくる気がした。




「ロルフの代わりにゃならねぇだろうが……」

リヴァイさんはそう言ってくれたけれど、代わりじゃ困る。私は……リヴァイさんが好きだから。

「リヴァイさんは、リヴァイさんです。わ、私の好きな人です」

手紙には、『好きだ』と書いてあったけれど、まだ恋人という関係ではないと思う……と、その言葉は使えなかった。

「そうだな、親父の代わりじゃ……好きだと言えなくなっちまうな」
「そ、そんなの嫌です」
「なら、俺を……」

俺を……? 何だろう?

「お前の恋人にしてくれ」
「えっ?」

それは、イメージでは恋人になってくれとか、してやるとか……そういうものだと思っていた私は、驚いてしまった。

「無理にとは……言わねぇが」

自信無さそうな声に、思わず飛び起きた。

「してあげますから……」
「あぁ、宜しくな」

声とは反対に、少し意地悪そうに笑っているリヴァイさんを見て、「やられた」そんな言葉が浮かんだ。

「好きだ」

今度は優しく微笑んでいる様な顔で、そう言うと頬にキスをされた。

「ど……どうぞ」

ベッドにコロンと横になった私は、リヴァイさんに向かって両手を広げてそう言った。

「それは……」
「恋人になったら、その……すぐにそういう事をするものだと聞いたので」
「因みにお前、それは誰に聞いたんだ?」
「シリウスに……」
「シリウス……? あのでかい馬じゃねぇか」

額に手を当てて、大きく溜め息を吐いたリヴァイさんは、「俺達は馬じゃねぇぞ」と私の隣に転がった。



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