兵長と女兵長?
〜変わった奴も居たもんだ〜


他兵団から移籍者が来る……

そんな話を聞いてはいたが、いつだって人員不足な調査兵団にとっちゃ、それ程珍しい事でもねぇし、生憎俺はエルヴィンの使いで遠く離れた貴族の所へと向かっていた。

往復4日、向こうでの用事もあり、滞在1日、計5日。戻った俺は、どこか雰囲気が違う気がしたが、然して気にもせずにエルヴィンの元へと向かった。

「今戻った」
「ああ、ご苦労だったな。先方の様子はどうだった?」
「予想通りだ、わざわざ兵士長自ら出向く……というのは好印象だった様だ」
「そうか、それは良かった」
「ところで……」
「書類なら、約束通りこちらでやっておいたぞ。リヴァイのサインが必要な物だけは執務室の方に置いてはあるが、サインだけすれば良い様にしてある」
「あぁ……」

新しい奴はどうだと訊こうとしたが、まぁ、そのうちわかるか……と、ゆっくり休めと言われた俺は、サインだけならやっちまおうと執務室へと歩いた。

道すがら、やはりどこか落ち着かねぇ兵士達が話しているのが聞こえて来た。

「まるで兵長だよな」

……俺?

「いや、兵長よりヤバイかも」

……俺よりヤバイ?

「兵長より…………イイかも」

……俺より、イイ?

「でも想像出来ないよね〜」

は? 何だそりゃ……

会話の内容は、新しく来た奴の事だろうと察しは付いたが、どんな野郎だ?

俺みたいでヤバくてイイ……最後の想像出来ねぇってのは何だ?

止まっていた足を動かし、訳のわからねぇ奴が来たのだという、曖昧な情報を仕入れただけだったが、そのうちどんな野郎かはわかるだろうと、執務室で書類にサインをした後自室に戻った。




……何だ? このちっせぇのは。

会議に向かう通路で、キョロキョロしながら俺の前を歩いている。

見た事ねぇな。

移籍者がひとりだとは聞いてねぇ、と、即座に答えが出た。噂された奴と一緒に来たのだろう。

「オイ、何をしている」

振り向いたのは、やはり知らねぇ顔で……俺を見て驚いているのか怯えているのか、落ち着かねぇ様子だ。

「会議室を探しているのですが」
「……そこだが、何の用だ?」

すぐそこのドアを指差せば、「やっぱり……」と、困った顔を見せた。

「参加する様にと、言われたので……」
「……?」

コイツが何の用だと思ったが、モタモタして入らねぇ。邪魔だと思った俺は、ぶら下げて中に入った。

「エルヴィン……コイツも用があるのか?」
「あ、ああ……リヴァイ。そうだ、席はリヴァイの隣に座らせてやってくれ」

そのままぶら下げて席に着いた。

「ありがとう……ございます」

エルヴィンが何を考えているか……そんな事は俺の知ったこっちゃねぇ。コイツに何の用があるのかなど、関係ねぇと思って放って置いた。

だが、会議が始まるとそいつの表情が、横から見ても変わったのがわかった。

何なんだろうか……

会議が進み、質問や意見があればと進行役が言った途端、隣で手が挙がった。

「ナマエ分隊長、どうぞ」

あ? 分隊長?

呆気に取られたが、移籍者はそのままの役職の場合が殆どだと思い出した。

「はい!」

立ち上がったの……だが、数センチ高くなった程度の差に、皆が笑うどころか驚いた。

「先ずは、その陣形に於て、配置に関する力の配分についての……」
「それについては……」
「では、その場合の生存率についての……」

おいおい……何だこりゃ……

珍しく、エルヴィンの顔が険しくなるくらいに食って掛かるのを、俺は眺めていた。

……ほぅ、悪くねぇ。

会議はその後、そいつとエルヴィンの一騎討ちといった感じで終わったが、皆があまり訊けねぇだろうところまで引き出した事で、皆もメモを取ったり真剣に二人のやり取りを聞いていた。

「分隊長以上は残ってくれ」

いつもの顔ぶれにそいつが加わり、場所を団長室に移した。

「リヴァイには、紹介がまだだったな」
「あぁ……」
「ナマエ分隊長だ」
「初めまして、リヴァイ兵士長。先程は失礼致しました。憲兵団より移籍して来ました、ナマエと申します。宜しくお願い致します」

……憲兵……団?

こりゃまた、どうしてそうなったんだろうな……と、エルヴィンを見たが、エルヴィンは何故か笑っていた。

「リヴァイ……だ」

一応、自己紹介だからと名乗ったが、妙な間が出来ちまった。

その後、細かい配置についての話をしたのだが、ナマエは自分が先陣を切るとエルヴィンに食らいついた。予定していた配置は、エルヴィンの護衛に当たる場所だ。

「お前の役職は何だ?」
「分隊長……です。兵士長」
「お前は外に出た事があるか?」
「あり……ません」
「なら、一度は黙って従え!」
「っ、は……はい」

骨のある奴だとは認めよう。だが、このままじゃ終わりそうにねぇ……と、俺は声を荒げた。

「まあまあ、落ち着いて……リヴァイ。やる気があるのは、良いことだよね」
「あ? 俺は冷静だし、認めねぇとは言ってねぇだろうが」
「そうだな、ナマエ分隊長には、壁外調査の様子や流れを知ってもらうという事で、この配置にしたんだ。納得いかないだろうが、我慢してくれ」
「申し訳ありません」

ナマエは、シュウウ……と、風船が萎む様な感じに小さくなっちまった。
ソファーで両手でカップを持ち、少しずつ飲む姿は……まるで迷子になったガキにも見えた。

「移籍者は……ひとりか?」
「そうだが、何かあるのか?」
「いや、何でもねぇ」

だが、コイツが俺みたいだとはどういう事だろうか? ましてや、ヤバいというのは……何がだろう?

数日でそんな話が聞こえるくらいだ、まぁそのうちわかる事かと流したのだが、思ったよりも早く、その理由を知る事となった。




「ああああ……なってない!」
「はい……」
「何でそこでそうなる!」
「すみません」
「すみませんで部下の命を守れるのか? 部下は捨て駒か?」

訓練中、指示を間違えた班長に腹が立った。こんなもんでまともに戦えるという事が、疑問でしかない。

「私がやるのを見ていろ!」

口ばかり出しても、理解出来なきゃ意味が無いし、誰も付いては来ない。それは、理解している。

私は今班長が指示した動きと、間違っている箇所をやり直した。

「先を読まないで行動しても、犠牲を増やすだけだ! 頭を使え!」

言い過ぎだと班員に反論されたが、それで命が守れるなら……どうでも良い。

「外に出た事の無い私にわかる事がわからないで……」
「そこまでだ!」

振り返ると、兵士長がいた。

「言いてぇ事はわかるが、それ以上は止めておけ」
「……はい」

兵士長は、泣いている班長にハンカチを渡して、こう言った。

「同じ事を繰り返さねぇ為に、訓練も変えていく必要がある。今に甘えてちゃ次はねぇぞ」
「はっ!」

皆が兵士長に敬礼するのを見て、私もやった。




怒鳴る姿に驚いたが、まぁ、それだけじゃねえのは悪くはねぇと思った。離れて見ていたが、ナマエはどうやらヒートアップすると収まらねぇタイプらしい。

「言いてぇ事はわかるが、それ以上は止めておけ」

思わず、止めに入った。

わからないでもない……訓練の内容は伝統とでもいうのか、自分が教わった事を後続に伝えている。それも必要な事だ。

だが、変えていく必要もあると、俺は思う。

そのまま、訓練は終わりになった。鐘の音が鳴り終わると、ナマエの様子が変わり、団長室で見たガキのような雰囲気になった。

テキパキと歩く……というよりは、ペタペタと……空を見ながらのんびりと歩いて戻って行くのだが……

っ、石が……

咄嗟に走った俺は、予想通りに石に躓き、受け身も取らず段差に顔面から向かうのを、すんでのところで引き戻した。

「あ、転ばなかった……」

……何だ? コイツは……?

「ありがとうございます。でも、首が苦しいのですが……」

ぶら下げて持ち上げていたのを、俺はポトリと落とした。

これが、さっきの奴か?

ヘラヘラと笑いながら尻を叩いているが、持っていたタオルを落としても気付いてねぇ。

「落ちてるぞ」
「あ、あれれ……?」

自分の両手を見て、それから漸く俺が指差しているタオルを見た。

想像出来ねぇって……こういう事か?

余りの違いに、何と言って良いかわからなくなった。

「では……失礼しま……っ、わぁっ」
「っオイ!」

目の前の段差にまた、躓いた。俺は黙ってそのままぶら下げて歩いた。

その後、掃除をしているところを見掛けたが、どうやらそれが俺みたいだという事だとわかった。

……掃除の腕は悪くねぇ。

「ナマエ分隊長ってさ、怖いけど可愛いよね……」
「そうそう、兵長よりカワイイから、私好きだな」
「兵長はいつも怖いし……」

……いつも怖い。そうか。

俺よりイイ、では無く、カワイイ……だというのはわかったが、何故か酷く落ち込んだ。

壁外調査では、陣形の奥まで入り込んだ巨人に向かうナマエの変貌ぶりに、皆が腰を抜かしそうになったと聞いた。
だが、流石首席で憲兵になっただけの事はある……と、大絶賛だった。

「俺は……要らねぇんじゃねえか?」
「急にどうしたのさ」
「いや、アイツが居りゃ……俺よりイイんじゃねぇかと思ってな」
「そんな事はないよ」
「そうか……?」
「えっ? リヴァイ……ナマエに嫉妬してるとか?」

爆笑しやがったハンジには、勿論蹴りを見舞った。だが、嫉妬……なのかと考えて、そんなつもりはねぇなと思った。

「うひゃー!」
「っ、てめぇは……またかよ」

階段から俺目掛けてダイブして来たナマエを、とりあえず受け止め、またぶら下げた。

「オイ、何階だ……」
「一番、下まで……」

そのまま運んで1階で落とした。

「ありがとうございます」

ふにゃりと笑うその顔が、どうやら俺は嫌いじゃねぇ様だ。

「気を付けやがれ」

世の中、変わった奴も多いが……と、俺は思わずクッと声を出して笑った。

コイツが居りゃ……飽きねぇな。

End



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