壁外調査が終わっても、それで終わりじゃねぇ。 「お前は……良くやった」 部下だった、冷たくなっちまったヤツの頬を撫でても、もう、温かくはならねぇ、もう、共に跳ぶ事もねぇ…… 頭ではわかっちゃいるが、こんな時はいつだって……己の非力さに打ち拉(ひし)がれる。 『妹を……』 最後の言葉を思い出し、この続きはきっと『頼みます』なんだろうと思ったが、見守るくらいしか出来ねぇだろう。 ナマエには、好きな奴がいるみたいだと、喜んでたじゃねぇか。そいつと幸せになる様にと、お前も願っているんだろう? ならば、俺は見守るだけだ。 なかなか、こうして別れを惜しむ事も出来ねぇが、出来る時は必ず訪れる場所を後にした俺は、まだまだ終わらねぇ事務処理をする為に、持ち場へ戻った。 それから三日、俺は寝る間も惜しんで事後処理を続けた。 今回は、気持ちの切り替えがなかなか出来ず、俺は仕方無く街へと向かっていた。 こんな時は……気分転換が必要らしい。 すると、見覚えのある女が、俺の前を歩いていた。 ナマエ……? その足は、俺が向かう方へと進んで行くが、その先は女が普通に行く場所じゃ無い。 だが、ナマエはゆっくりではあるが、その、娼館の並ぶ方へと歩いて行った。 まさか……!? 扉に手を掛けようとするまで、俺は見ていたが、駆け寄って腕を掴んで引き戻した。 「兵士の副業は、禁止されている筈だが?」 俺の顔を見て、「見逃して下さい」と震えている。 何故か、どうしようもなく腹が立った俺は、そのまま黙って掴んだまま引き返し、人目につかねぇ場所を通り、俺の自室へと連れ帰った。 見守ると……約束した。だが、この怒りは収まりそうになかった。 「兵士を辞めるか、俺に従うか……選ばせてやる」 「兵士を……辞める訳には行きません」 答えのわかっている選択肢、それが卑劣なものだと判断出来る程、俺は冷静では無かった。 「ならば、俺の言う事には逆らうな」 「はい」 「今から、お前は俺の女だ」 「女……ですか?」 「あぁ、そうだ」 俯いて、顔は見えねぇが……声ははっきりとしていた。 「先ずは……」 商売女みてぇな、そんな…… 「服を脱げ」 そう言って、俺は代わりになりそうな物を探す為に、寝室へと入った。 お金が……要る。 兄と二人で兵士として働いて、家の借金を返していた。私なんかよりも稼いでいた兄が死んでしまって、私は悲しいと思うよりも、どうしたら良いのかと途方に暮れた。 でも……泣いている場合じゃない。 私は最後の手段と思って、自分を売る事にした。 最初は、好きな人としたかったなぁ…… でも、それが叶う相手じゃないと諦めて、お店のドアに手を掛けようとしたところを、掴まれた。 「兵士の副業は、禁止されている筈だが?」 聞き覚えのある声に振り返ると、兵長の怒りを露にした顔が見えた。全身が言うことを聞かないくらいに、ガタガタと震えだした。 見逃してと言ってみたけれど、無駄な事はわかっていた。 処分は、重いだろうか…… 引き摺られる様に、兵長に連れられて行ったのは、団長室でも牢屋でも無く、兵長の自室だった。 「兵士を辞めるか、俺に従うか……選ばせてやる」 ああ、黙っていてくれるんだ。その代わり……って事なんだ。 「兵士を……辞める訳には行きません」 もう、何でもいい。 「ならば、俺の言う事には逆らうな」 「はい」 「今から、お前は俺の女だ」 「女……ですか?」 「あぁ、そうだ」 女……? ああ、そうか。あんな店に行こうとしていたんだから、そういう相手……って事か。やっぱり、噂は本当だったんだな。 服を脱げと言われて、逆らう訳にも行かない。飽きて解放される日が来る事を、祈るしかないのかも知れない。 寝室に入ったのを見て、私は着ていた物を全て脱いだ。 「次は、何をすれば良いですか?」 寝室のドアを開けた私は、綺麗に整えられたベッドを見ながらそう言った。 シャツとズボン……新しい物の方が良いだろうと、探すのに手間を食った。 だが、これなら良いだろうと思った時……ナマエが戸口に立った。 「次は、何をすれば良いですか?」 チラッと俺を見て、ベッドの方へ視線を向けたナマエは、下着すら着けてはいなかった。 そこで漸く、俺がした事の意味を理解した。 弱味を握って、自分のものにした。それは俺の思考を、感覚を……麻痺させた。 「言う事を聞いてりゃ、悪い様にはしねぇ」 「……はい」 「いつでも、どこでも……お前は俺を受け入れろ」 「はい」 支配するという、その感覚に興奮を覚えた俺は、自分も脱いでベッドに座ると、ナマエへと手を伸ばした。 「……来い」 アレは……何? 来いと言われて行くしかないけれど、兵長の足の間のアレは……? 前に立つと、兵長は私の胸を撫でてから、膝を着けと指示をした。目の前にある、グロテスクなモノ……これをどうしろと? 恐る恐る見上げると、口を塞がれた。 「んっ、ふ、んんっ」 兵長の舌が……あ、息が……でも、逆らっちゃ……ダメ…… 「オイ……」 膝を着かせて咥えさせようと思ったが、不安そうに見上げた顔に、思わず口付けた。そのまま離してやれずに口内を犯し続けたんだが…… 慣れて……ねぇのか? そのまま、あろう事かナマエは気を失っちまった。 だが、このまま止めるという選択肢は無かった。ベッドに引き上げ、寝かせると、気を失ったままのナマエに覆い被さった。 暫く胸や下肢を撫でていると、うっすらと目を開けた。 「キス位で寝てんじゃねぇよ……」 思わずそう溢せば、震え出した。仕置きでもされるかと思ったんだろう。 だが、まぁ、あまり変わらねぇだろうかと思いながら、俺はナマエの足を思いっきり開かせた。 「や……」 驚いて閉じようとしたが、力で敵う訳もねぇ…… 「抵抗しても、無駄だぞ」 開いた中心へと顔を寄せると、大人しくなった。 どんな目に遭わされるかと、目を覚ました私は怖くなった。けれども、兵長は思った以上に優しかった。 「そろそろ、良さそうだな」 その言葉と同時に、兵長が私の中に入って来た。 「ん……っ」 「逆だ、力を抜け」 目一杯力を入れて耐えようとして、叱られた。 「お前……」 そういう事は、した事が無いとバレてしまった。 そこで、兵長は何故か悲しそうな顔をした様に見えたけれど、「我慢しろ」そう言って一番奥まで貫かれた。 最初は…… そんな事を思いながら、段々と変わっていく感覚に戸惑いながら、息が上がり……手繰り寄せる様に兵長にしがみついて、また、意識が遠退いた。 ナマエに挿し込んで、慣れてねぇどころじゃねぇと気付いた。 あんな店で働こうとするくらいだ、それなりにわかっているもんだと、思い込んでいた。 だが、止めてやれねぇ…… 俺は、好きな奴がいるというナマエを自分のものにするには、これしか無いと思った。 「我慢しろ」 もしかしたら、知らねぇ奴に……もっと酷い目に遭わされていたかも知れねぇんだぞ、善くしてやるから……と、独り善がりとわかっちゃいるが、ナマエが意識を手放すまで止めてはやらなかった。 翌日は、ナマエも俺も休みだった。 ナマエは途中で寝ちまった事を謝っていたが、そうしたのは俺だ。それでも、「慣れろ」としか言えずにまた、ナマエを抱いた。 あの日から、兵長は夜だけじゃなく、昼間も私を呼んだ。 あ……まだ残ってる…… 最初の日に、私は知らずに兵長の背中に爪を立ててしまったらしく、翌朝、深く抉った様な傷に驚いた。でも、兵長は私を責めたりはしなかった。 それから、1年…… 「ナマエ……」 そう呼ばれるだけで、私の身体は期待してしまう様になってしまった。 表向きは付き合っているという事になっていて、私が兵長の部屋に出入りしていても、誰も不思議には思わない。 何度か相談をしようと思ったけれど、誰にして良いものかもわからず、かといって、本当に助けてもらいたいのかと言えば、曖昧だった。 あのまま働いていたら、いずれバレてしまっただろう。あの時の私には、そこまで考える事は出来なかった。 そう思えば、兵長には助けて貰ったのだとも思えた。 [ *前 ]|[ 次# ] [ request ]|[ main ]|[ TOP ] |