……落ち着かねぇ。 何が原因かなんてなぁ、わかっちゃいるが、だからどうしろと言うんだ…… 付き合い始めて半年、頃合いとしちゃおかしくはねぇらしいが、ナマエが浮気してるなんて、俺は認めたくはねぇ。 だが、この間、野郎共が話しているのをたまたま聞いちまった…… 「付き合い始めると、女は綺麗になるって言うだろう?」 「ああ、好きな奴が出来てもそうだって言うよな」 「それがよぉ、更に綺麗になった時は要注意だって話だ」 「綺麗になるなら、良いんじゃないのか?」 「そういう時は、浮気してるらしいぞ」 それは、正直驚いた。まさかと思いつつも、最近ナマエは更に綺麗になったと思っていたし、周りにもそう言われていた。 やはり、浮気だろうか? モヤモヤとした気持ちに苛つくも、本人に訊ける筈も無い。だが、明日ナマエは休みなのたが……誘いを断られた。 「楽しそうだな……」 「あ、おはようございます! 兵長」 「何か良い事でもあるのか?」 「え? いえ、何も……」 寝不足で機嫌も良くねぇ俺と、肌艶も良く、朝から上機嫌のナマエ。疑い始めりゃキリがねぇ…… 「そうか、今夜は空いてるか?」 「すみません、明日早朝訓練が……」 あぁ、そうだったか。 食堂で並んで座ったは良いが、どこかよそよそしくも感じる。 「なら、いつなら空いてそうだ?」 「明日の夜は大丈夫です」 「そうか、今日は何をしてる予定だ?」 明日は空いてると言われ、少し気持ちが上向いた。 「同期の娘と、街に行ってきます。何かお買い物ありますか?」 「あぁ、それならお前が好きな紅茶を買って来てくれるか?」 「私の好みで良いんですか?」 「お前と飲む為のだからな」 そう言えば、恥ずかしそうにしながらも、嬉しいと言って笑った。 この会話も、笑顔も……嘘には見えねぇ。 そういう場合もある、だが、皆がそうではないだろう。そう思って遣り過ごそうとした……のだが…… 「すみません、今夜はちょっと」 また、断られちまった。 このところ甘い時間はあまり無かったからか、かなり期待していた。だからか、立ち去る後ろ姿を見ながら、急激に膨らむ嫌な考えは止められなかった。 それから数日、ナマエとは何も無く、俺はとうとうある行動に出た。 ナマエの相手は……誰だ? こっそりと様子を窺いながら、ナマエの行動や周りに居る奴らを見張った。 同じ班の奴等や班長は、ナマエが好意を持ってもおかしくねぇ。見ていると、話すだけなのに距離が近いやつも居るし、何かと肩を叩いてみたり、髪に触れる奴も居た。 だが、コイツ等じゃねぇ様だ。 朝から、リヴァイは面白い事してるなぁ…… 本部を歩けば当たる、その光景を見ては笑いを堪えていた。 「ハンジ、どうかしたのか?」 「エルヴィン、ミケ……あれ見てよ」 団長室の窓からも、草に隠れ木に隠れ……掃除をしているナマエを見ているリヴァイが見えた。 「何をしているんだ? リヴァイは……」 「多分、尾行してるんじゃないかな」 「「……あれでか?」」 ナマエからは見えないだろうけれど、必死なのか何なのか周りの視線にも気付いていない。 ……そう、丸見えなのだ。 「それにしても、また、何故リヴァイがそんな事を……」 「浮気調査でも、してるんじゃないかな」 先日、談話室で『付き合ってる相手が綺麗になったら浮気をしている……』という話を聞いたが、その時リヴァイもそこに居たのだと話せば、二人は何も言わずに納得した様だった。 「独占欲が強いのか……」 「それもあるだろうが、モテる割には自覚が無いというか、自信が無いのだろう」 「ほんっと、リヴァイは面白いよねぇ」 笑い転げた私に、二人は程々にしておいてやれ、放っておいてやれと言ったけれど、こんなに面白い事を見過ごせる私じゃない。 窓の外を見て議論している二人を置いて、私はリヴァイの近くへと向かった。 ……何か変? 今日は何だか知らないけれど、よく声を掛けられる。 「大変だね、頑張って」 「お疲れ様……」 これはまだわかるけれど…… 「愛されてるね」 「苦労するね、頑張って」 と、先輩方にまで言われたけれど、何が何だかさっぱりわからない。 今日は兵長を見掛けないなと思ったけれど、お休みだからお部屋で本を読んだりしているのかと思えば、会わないのも仕方がない。 後で……行ってみよう。 このところ、色々とタイミングが悪くてお部屋に行けなかった。こんな事してたら、嫌われちゃうかも知れない…… でも、頑張らないと…… 特に変わった事も無く、業務が終わった。だが、油断は出来ねぇ……接触しやすいのは夕食や風呂の後じゃねぇか? 1日張り付いていて何も無かった事を考えれば、有り得ねぇ話じゃねぇ。 早目に夕食を済ませた俺は、尾行を続けた。 風呂の方へ向かったのを見て、気が抜けると、後ろに気配があった。 「1日お疲れさん」 「何か用か?」 「尻尾は掴めたのかい?」 「な、何の事だ……」 「ターゲットには気付かれてないみたいだけどさ、バレバレだよ?」 「……」 地下に居た頃は、尾行は得意だと思っていたが、バレバレだと? 驚いた顔をした俺を見て、ハンジは大笑いだ。そんな状態のくせに、蹴りは躱しやがった。 「こんな事してるってバレた時の方が……ヤバイんじゃないかい?」 「……」 返す言葉も見つからず、ニヤニヤと俺を見ているハンジから逃げる様に、俺は自室に戻った。 何もしてねぇのに疑われたら、そりゃ気分はよくねぇよな…… よくよく考えてみりゃ、不安は己の自信の無さだとわかる。愛想もねぇ、気も利かねぇ……そんな俺に愛想尽かされても仕方がねぇと思ったところで、どうして良いかわからねぇ。 頭でも冷やすか…… シャワーを浴びながら、俺はどうするべきなのかと考えた。 食事もお風呂も済んで、私はこの間街で買ったお酒を持って、足取りも軽く兵長のお部屋に向かった。 喜んでくれるかな…… 前に兵長が「これは好きだ」と言っていたのを見つけて、「なかなか売ってねぇんだ」と言ったのも思い出して、1本しか売ってなかったのを迷わず手に取った。 最近お誘いを断ったりしていたから、お詫びと……自分から行く口実には丁度良いと思った。 ノックをしたけれど、すぐに返事が無かった。いつもならば、すぐに返事があるのに……そう思っていると、上半身裸の兵長が、気怠そうにしながら少しだけドアを開けた。 これは……ま、まさか…… 「お、お邪魔しちゃいましたか? あ、あの、また、出直しますので、ご、ごゆっくり……」 わたわたと、自分でも何を言っているのかと思いながらも、頭を下げて回れ右して走り去ろうとした。 「オイ、待て……」 「す、すみません、あの、お怒りは後で聞きますから、だから……」 「お前は何を言ってるんだ?」 首根っこを掴まれ、逃げるに逃げられない。 「お、お邪魔してすみません……」 プシューっと空気が抜けてしまったみたいに、力が抜けてぶら下げられている様な状態になった。 誰が来る訳でも無い、シャワーの後に下だけ履いてソファーで一杯飲んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。 寝た振りでもするかと思ったが、気配が動かない。仕方ねぇと開けてみると、ナマエが驚いた顔をした。 訳のわからねぇ事を言いながら帰ろうとしたのを、襟を掴んで引き留めた。 「……入れ」 引き摺ってソファーに座らせると、俯いて小さくなっている。 「急にすみません」 「お前が来て困る事はねぇよ」 こんな格好で出て、変な勘違いをしたんだろうと思ったが、それで謝ったり……ましてやゆっくりとなんて言葉が出るって事は、俺の事はもう…… 「急ぎの用でもあるのか?」 「よ、用という程の事は無いですが……」 ナマエは、抱えていた包みを俺の方へそっと出した。 「これ……を」 「くれるのか?」 更に俺の方へ出したのを、恐る恐る受け取ると、ナマエは小さく「なかなか来れなくてごめんなさい」と言った。 その言葉の意味は、何なのか…… 「お前は、綺麗に……なったよな」 「う、嬉しい!」 誰か好きな奴が出来たか……と、続く筈だった言葉は、予想外の言葉で遮られた。 「兵長にそう思って貰えて、すごく嬉しいです」 「……?」 「色々……頑張ったので……」 珍しく、ナマエが自分から抱き着いて来た事にも驚き、持っていた物を落としそうになったが、そっとテーブルに置き、俺もナマエを抱き締めた。 俺の……為に? だが、何故…… 「頑張る事はねぇ、お前は可愛い」 「そ、そんな事無いです。『兵長の彼女がこんなブスじゃ、兵長が可哀想』って怒られましたし、『そんなんで兵長の彼女なんてよく言えるわね』と注意されたので、頑張らないとダメなんです!」 そりゃ……嫌がらせってヤツじゃ…… だから、綺麗になるマッサージを受けてみたり、睡眠時間や運動も……と、その為に会える時間が減ったのだと言った。 「そうか……だが、もうそれ以上綺麗になるな」 「ええっ?」 俺の気が、休まらねぇじゃねえか。 「……?」 クッと口角を上げた俺を、ナマエは不思議そうに見た。 「お前が好きなのは、誰だ?」 「兵長……です」 「そりゃ、名前じゃねぇ」 落胆した様に言えば、慌てる姿が可愛い。 「りっ……リヴァイ……」 「あぁ、よく言えたな」 「兵長……は?」 また兵長かと知らない振りをすれば、焦れた様に名前で呼んだ。 「ナマエが好きだ」 そう言った時のナマエの笑顔は……きっと忘れねぇ。 そっと頬にキスをして、強く強く抱き締めれば、目を閉じたナマエの唇が少し開いた。誘う様なそこへと重ね、甘い甘いナマエを味わった。 「なぁ、綺麗なお前も悪くはねぇが、可愛く啼くお前が見てぇ……」 蕩けた顔を隠す様に俺の胸に顔を埋めたナマエは、小さく頷いた。 心配させやがって…… 漸く気持ちの落ち着いた俺は、抱き上げて囁いた。 「浮気するなら、俺としろ」 End [ *前 ]|[ 次# ] [ request ]|[ main ]|[ TOP ] |