「リヴァ〜イ! どうだった?」 ノックも無く、執務室のドアを勢い良く開け放ち、朝から異様なテンションのハンジが飛び込んで来た。 「朝から煩ぇ、誰かその奇行種を削いでくれ」 書類から顔を上げずに言ったが、いつもの事だと、班員達も見ない振りだ。 ハンジも全く気にする様子はなく、俺の机の横まで来た。 「……で? どうだった?」 「あぁ、予約した。詳しい人数や予算等を知りたいと言っていたが……今夜知らせると言ってある」 「了解! じゃあ、後でね〜」 用件は済んだのか、ハンジは風の様に去って行った。後で紙にでも纏めて持って来るつもりなんだろう……と、俺は書類に目を向けた。 (今夜か……) 顔も見せなかったナマエを想うと、気が重くなって、盛大な溜め息をついた。 (時間までに終わらせねぇとなぁ……) 始めてから、ハンジの乱入もあったが、進まない書類に……今度は盛大に舌打ちをした。 そんな俺に……班員がいちいち焦ったりびくついたりしていた事など、知る由もない。 その後はそんな状態ではあったものの、それなりに書類を進めて、昼になった。 昼食も、どこか気の入らない俺は、溜め息混じりにただ流し込んで席を立った。 「ハンジ分隊長……」 「あれ? リヴァイのとこの……どうかしたの?」 リヴァイが食堂から出ると、班員が此方に集まって来た。 「兵長がおかしいんです」 真面目な顔で言われて、吹き出しそうになったけれど、すんでのところで堪えた。 様子を話すのを聞いていて、見守っていようと思っていたけれど、考えが変わった。 「分隊長、兵長は一体……」 「あれはまるで……」 「「恋煩いする乙女です!」」 ……恋する乙女じゃなくて、恋煩いね……。 身を乗り出した二人に、まぁ落ち着けと座る様に促して、他の班員も座らせた。 「実はね、その通りなんだ」 私は今までの経緯をざっと話して、4日後の打ち上げで協力してくれる様に頼んだ。 「じゃあ、当日はそんな感じで宜しく!」 そう言って立ち上がると、一人に呼び止められた。 「ぶ、分隊長……これだと俺、後で兵長に殺されるんじゃ無いですか?」 「上手くいけば大丈夫さ。きっとそれどころじゃ無くなるからね」 「上手く……いかなかったら……」 「それはたぶん無いだろうと思うけど、ちゃんと助けるから…………安心して頑張って頂戴!」 「分隊長? 今、変な間がありましたよね?」 「え? ないない、じゃぁ〜宜しく!」 にっこり笑ってその場を離れたけど、失敗しちゃったら……それこそどうなるかわかったもんじゃない……「ごめんね」と、私は彼を思い浮かべて謝った。 午後の訓練は……どいつもこいつも弛んでいやがった。対人格闘は皆いつもより手応えもなく、苛ついた。 仕方なく、立体機動に変更して暫く経った頃に……おかしいのは自分だったと気付かされた。 あろう事か、アンカーを刺し損ねてバランスを崩し、体勢を立て直そうと打ったアンカーまでもが的を外し、地面に叩きつけられた。 (ナマエ……) 視界に広がった青空に……ナマエの顔を思い浮かべて……意識が途絶えた。 救護室で目を開けた俺は、心配そうに見るハンジから目を背けた。 「何やってんのさ……」 「俺が聞きてぇよ……」 「こんなでも、今日も行くんでしょ?」 「あぁ、打ち上げの件で行くと約束しちまったからな……」 話し声に気付いたのか、看護兵が仕切りのカーテンから顔を覗かせた。 「あ、気付かれたんですね。気分は悪くありませんか?」 「あぁ、何ともない」 「良かったです。それでしたら、もうお戻りになっても良いということです」 「世話になったな……」 「いいえ、お大事にしてください」 看護兵がパタパタと去っていく足音が、ナマエのそれと重なって……胸が苦しくなった。 「何て顔してんのさ、仕事終わったら私も行くから待っててね」 「何でてめぇが……」 「ん〜、書いて持って行って貰おうと思ったんだけど、直接話した方が確実だし、初めての所だからね」 正直、一人で行くのも気が重かったが、こいつに色々後で訊かれるのも面倒だった。けれども、俺が説明するよりは、わかるだろうと思えばそれも仕方ない事だと思った。 「……そうか」 「リヴァイ、昨日何かあった?」 「……」 「話してくれなんて言わないけどさぁ? リヴァイはどうしたいのさ……」 俺は何も言えなかった。俺の方が聞きたいくらいだ。 「まぁ、人様の恋に口出しする程……野暮じゃないつもりだけどね。訓練で死人が出る前に何とかしないとだよ?」 ハンジは冗談っぽく笑いながら出て行った。 俺も医者に礼を言って執務室へと戻ったが、今日はもう休んでくださいと言われ……俺のサインが必要な書類数枚にサインをして、自室へ戻った。 [ *前 ]|[ 次# ] [ main ]|[ TOP ] |