恋する俺の一発勝負 3


「リヴァ〜イ! どうだった?」

ノックも無く、執務室のドアを勢い良く開け放ち、朝から異様なテンションのハンジが飛び込んで来た。

「朝から煩ぇ、誰かその奇行種を削いでくれ」

書類から顔を上げずに言ったが、いつもの事だと、班員達も見ない振りだ。
ハンジも全く気にする様子はなく、俺の机の横まで来た。

「……で? どうだった?」
「あぁ、予約した。詳しい人数や予算等を知りたいと言っていたが……今夜知らせると言ってある」
「了解! じゃあ、後でね〜」

用件は済んだのか、ハンジは風の様に去って行った。後で紙にでも纏めて持って来るつもりなんだろう……と、俺は書類に目を向けた。

(今夜か……)

顔も見せなかったナマエを想うと、気が重くなって、盛大な溜め息をついた。

(時間までに終わらせねぇとなぁ……)

始めてから、ハンジの乱入もあったが、進まない書類に……今度は盛大に舌打ちをした。

そんな俺に……班員がいちいち焦ったりびくついたりしていた事など、知る由もない。

その後はそんな状態ではあったものの、それなりに書類を進めて、昼になった。
昼食も、どこか気の入らない俺は、溜め息混じりにただ流し込んで席を立った。




「ハンジ分隊長……」
「あれ? リヴァイのとこの……どうかしたの?」

リヴァイが食堂から出ると、班員が此方に集まって来た。

「兵長がおかしいんです」

真面目な顔で言われて、吹き出しそうになったけれど、すんでのところで堪えた。
様子を話すのを聞いていて、見守っていようと思っていたけれど、考えが変わった。

「分隊長、兵長は一体……」
「あれはまるで……」
「「恋煩いする乙女です!」」

……恋する乙女じゃなくて、恋煩いね……。
身を乗り出した二人に、まぁ落ち着けと座る様に促して、他の班員も座らせた。

「実はね、その通りなんだ」

私は今までの経緯をざっと話して、4日後の打ち上げで協力してくれる様に頼んだ。

「じゃあ、当日はそんな感じで宜しく!」

そう言って立ち上がると、一人に呼び止められた。

「ぶ、分隊長……これだと俺、後で兵長に殺されるんじゃ無いですか?」
「上手くいけば大丈夫さ。きっとそれどころじゃ無くなるからね」
「上手く……いかなかったら……」
「それはたぶん無いだろうと思うけど、ちゃんと助けるから…………安心して頑張って頂戴!」
「分隊長? 今、変な間がありましたよね?」
「え? ないない、じゃぁ〜宜しく!」

にっこり笑ってその場を離れたけど、失敗しちゃったら……それこそどうなるかわかったもんじゃない……「ごめんね」と、私は彼を思い浮かべて謝った。




午後の訓練は……どいつもこいつも弛んでいやがった。対人格闘は皆いつもより手応えもなく、苛ついた。
仕方なく、立体機動に変更して暫く経った頃に……おかしいのは自分だったと気付かされた。
あろう事か、アンカーを刺し損ねてバランスを崩し、体勢を立て直そうと打ったアンカーまでもが的を外し、地面に叩きつけられた。

(ナマエ……)

視界に広がった青空に……ナマエの顔を思い浮かべて……意識が途絶えた。




救護室で目を開けた俺は、心配そうに見るハンジから目を背けた。

「何やってんのさ……」
「俺が聞きてぇよ……」
「こんなでも、今日も行くんでしょ?」
「あぁ、打ち上げの件で行くと約束しちまったからな……」

話し声に気付いたのか、看護兵が仕切りのカーテンから顔を覗かせた。

「あ、気付かれたんですね。気分は悪くありませんか?」
「あぁ、何ともない」
「良かったです。それでしたら、もうお戻りになっても良いということです」
「世話になったな……」
「いいえ、お大事にしてください」

看護兵がパタパタと去っていく足音が、ナマエのそれと重なって……胸が苦しくなった。

「何て顔してんのさ、仕事終わったら私も行くから待っててね」
「何でてめぇが……」
「ん〜、書いて持って行って貰おうと思ったんだけど、直接話した方が確実だし、初めての所だからね」

正直、一人で行くのも気が重かったが、こいつに色々後で訊かれるのも面倒だった。けれども、俺が説明するよりは、わかるだろうと思えばそれも仕方ない事だと思った。

「……そうか」
「リヴァイ、昨日何かあった?」
「……」
「話してくれなんて言わないけどさぁ? リヴァイはどうしたいのさ……」

俺は何も言えなかった。俺の方が聞きたいくらいだ。

「まぁ、人様の恋に口出しする程……野暮じゃないつもりだけどね。訓練で死人が出る前に何とかしないとだよ?」

ハンジは冗談っぽく笑いながら出て行った。
俺も医者に礼を言って執務室へと戻ったが、今日はもう休んでくださいと言われ……俺のサインが必要な書類数枚にサインをして、自室へ戻った。


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