壁に臨む…… story


なぁ……この壁は、俺を逃がすまいとそこに在るのだろうか?

なぁ……この壁は、俺をも守ってくれているのだろうか?

時折俺は……答えの無い疑問を投げ掛ける。だが、答えが欲しい訳じゃねぇ。

「俺は……俺の存在は……必要なものなんだろうか?」

壁の中で俺がしてきた事は、何の意味があったんだろうかと振り返り、思い出す光景に顔を背けた。

俺が立てる一番高い場所、壁の上に立っても空に手は届かねぇ。
何も……縛るものも境目も、争いも無い空が羨ましかった。だが、手が届かないそれを睨むしか俺に術など無い。

「鳥にでもなれたら……」

漠然としたその言葉に、俺はそんなロマンチストだったか? と、自嘲する。




壁を潜り、調査へと出た俺は、与えられた役目をこなすが、次々と失われていく兵士を何度見れば良いのかと拳を握る。

守る事すら出来ねぇ……

掬った水が掌から零れ落ちて行く様な喪失感を、どれだけ味わえば終わるのだろうか……?

壁を目指し、俺は壁を眺める。

お前には守れない……戻る資格など無いと言われている様な威圧感になど、挑む気など無い。

帰還の時に潜ろうとした壁は門を閉ざす。
そんな夢を何度も見た。

「俺は外に居たって役に立たねぇ……」

不安に駆られながらも壁を潜るしかねぇ俺は、小さな世界を守る壁がもたらす安寧にすら不安しか抱けねぇ……

「お帰り……」

俺に向けて伸ばされた……いつか壁の上で俺を抱き締めた腕を、俺は引き寄せた。

あぁ……と、俺は納得した。

壁の中でも外でも無く、守られる事を望む訳でも無く……俺は、俺の腕の中を……腕の中の温もりを、守りたかったのだ……と。

End



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