2015 ハピバ


[拍手お礼文]
クリスマス


聖夜と呼ばれるこの夜、世界で一番不機嫌な顔をしているこの男は、クリスマスは勿論、サンタクロースも信じてはいない。
そんな事とは無縁な場所で育ったせいもあるが、秘かに期待をした事もあった。だが、期待は裏切られたのである。

「いやぁ、楽しみだねぇ」
「……くだらねぇ」
「リヴァイ、そんな顔じゃサンタクロースも逃げ出すぞ」
「んなもん、居ねぇし来ねぇ……」

珍しく酔った様子のリヴァイは、あからさまに"嫌な顔"をして見せた。

「サンタクロースは良い子の所にしか来ないんだよ?」
「……ガキ限定だろうが」
「え? 知らないの?」
「あ?」
「大人にも来るんだよ?」

さも当たり前の様に言ったハンジを見たリヴァイは、普段なら蹴り飛ばして終わりの筈が……僅かに瞳が揺れた。

(大人も……だと?)

その頭は、最近、いや、兵団に来てからは悪い事はしてないと考えている。
チラチラと周りで飲んでいたミケやモブリット……エルヴィンを見たが、皆「そうだ」と頷いている。

大人にはスペシャルなプレゼントがあるのだと、ハンジは鼻息を荒くした。

「スペシャルって何だ……」

小さくそう訊いたのを、皆の耳が拾った。

「そんなの、人によって違うと思うけどさ、一番欲しいもの……じゃないかなぁ」
「欲しい、もの……?」

考える素振りを見せたリヴァイは、暫く黙ってしまった。

(アイツは……今どうしてるだろうか……)

欲しいものと言われて思い付いたのは、リヴァイが気に入っている女性であった。そんなプレゼントなど有り得ないとわかっていても、他に欲しいものは思い浮かばない。普段ならこの場に居る筈の彼女は、親が病気になったという事で年末を待たずに早々と帰省中なのである。

(……考えるだけ無駄だな)

小さく溜め息を吐いたリヴァイは、空になったグラスにまた、なみなみと酒を注いだ。

「俺にゃ……来ねぇよ」

フッと笑った様に見えたが、リヴァイはその場にあった酒を次々と飲み干すと、ゆらりと立ち上がった。

「……寝る」
「そうだな、酒が無くなってしまったら……お開きにするしかあるまい」

いつもならば、早く自室に戻りたいリヴァイは率先して片付けるのだが、ぼんやりと立っているだけで動かない。忙しなく動く皆を見ている様にも見えるが、珍しい事もあるものだ。

「リヴァイ、戻って良いぞ?」
「あ、あぁ……」

ミケがリヴァイを通路に出すと、皆は顔を見合わせた。

「効いてるみたい……」
「ああ、では次の作戦に移るか」




普段と違い、ふわふわとした感覚の中に居たリヴァイは、それでもちゃんと自室に辿り着いた。

「着替えも面倒だな……」

そのままベッドにフラフラと向かうと、倒れ込む……事はせずに腰掛けた。

(欲しいもの……か……)

辺りを見回し、そこでやっと大きく息を吐いて後ろに倒れた。モゾモゾと毛布に潜り込んで頭まで被ったが、そろりと目が出るまで引き下げた。

(来る訳……ねぇ)

寝た振りをして見届けてやろうと考えた様だが、リヴァイは段々と意識が朦朧として来たのか、何度も何度も目を擦りながら、やがてその目は開く事が無くなってしまった。




そろそろ、頃合いだろうか……と、後片付けを終えた皆は楽しそうに笑っている。

「そろそろ出番だよ」

ハンジが声を掛けた部屋から出て来たのは、リヴァイが欲しいと思った女性だ。

「本当にやるの……?」
「当たり前じゃないか。その為に睡眠薬まで飲ませたんだからさ、今更止めるとか言わないでよ?」
「言わないけど、リヴァイががっかりするのは見たくないなって思って……」

まあ、その時はその時だとハンジは笑っていたが、皆、無駄だとわかっている事をやる程暇でも物好きでもない。

彼女が家に帰ってみれば、病気は思った程悪く無く、すぐに戻って良いと言われて兵団に戻ったばかりであった。だが、戻った事をリヴァイは知らない。そこで皆は、リヴァイを驚かせてやろうと計画を立てたのだ。

「それは無いと思うけどな……」
「……そう、か……な?」
「そうそう。んじゃ、部屋に入ったらこの袋に入っててね」

半信半疑で……でも、リヴァイが好きな彼女は頷いた。

リヴァイに飲ませたのは速効性のある睡眠薬だが、効果は短い。寝た振りをしてリヴァイが袋を開けるのを待ち、自分はどうして此処に居るのかと不思議がれ……と、ハンジは指示を出した。

「ほら、開いたぞ」

合鍵でリヴァイの部屋のドアを開けたエルヴィンは、普段はあまり見せない顔で笑った。

「入った入った」
「……うん」

リヴァイの寝室に入ると、彼女は自ら袋に入り膝を抱えた。

「メリークリスマス」

皆がそう言って袋の口を閉じると、そっと部屋を出て行った。袋の中の彼女はゆっくりと目を閉じ、リヴァイが開けた時の事を考えた。

(メリークリスマス……?)

皆の声を聞いたリヴァイは、思ったよりも早く目覚めた。耳に残る言葉に、自分は一体どんな夢を見ていたのかと目を擦り、寝ちまったのかと落胆した。

(サンタクロースなど来ねぇよな)

時計は12時を回った辺りだが、部屋に変わったところは無い。飲み直すか……と、リヴァイがベッドから片足を降ろそうとすると何かを踏んだ。

(もしかして、踏まれた……? え? ちょっと……そんなにしなくても……)

(……?)

そのまま足で数回押してみたが、柔らかい。驚いて足を引っ込めたリヴァイは、恐る恐る覗いてみた。

「何だ……こりゃ」

(プレゼントです)

早く紐をほどかないかと中ではドキドキしながら待っているが、なかなか開けようとしない。

「まさか……」

淡い期待をしたリヴァイだが、いやいやそれは有り得ないと頭を振った。期待は裏切られるものだと、軽く蹴って倒した。

ゴン……と、鈍い音と共に、呻く様な声が聞こえた。倒れた袋は、モゾモゾと動いた気もする。

(オイ……?)

そこでやっと袋の紐をといて開けたリヴァイは、中を見て驚いた。どの程度驚いたかといえば、思わず床に尻餅を着く程だ。

「オイ、お前……本物か?」
「ん……?」

チラッとリヴァイを見た気もするが、またムニャムニャと寝た振りを続けている。

(……夢を見ているのか?)

中々、都合の良い夢というものを見れる事は無い。ならば……と、リヴァイは袋から出して抱き上げた。

(起きた方が良いのかな……部屋の外に捨てられちゃったら……)

それはそれで悲しすぎると思ったが、すぐにベッドに寝かされた。

「寝間着姿とは……」

柔らかさも体温も現実の様だと思いつつ、リヴァイはそっと額に口付けた。

「ん……っ」
「起きたか……?」

ゆっくりと目を開けたのを見て、今度は頬へと口付けた。

「何で、リヴァイが……?」

目を擦り、眠そうに訊かれたリヴァイは「お前はプレゼントだ」と目を細めた。
此処に居る筈の無い……そうで無ければ説明のつかない状況に、リヴァイは素直にそう思った。

「リヴァイがプレゼントなんて、嬉しい」

返答に困って咄嗟にそう返せば、リヴァイは少し困った顔をした。

「お前がプレゼントだが……お前は俺を貰ったら嬉しいのか?」
「凄く、嬉しいよ」
「そうか……」

ぎゅっと抱き締めたリヴァイに驚いた様だが、彼女は思ったよりも演技派だったらしい。

「あれ……? 此処、私の部屋じゃない……」
「俺の部屋だ」
「何で……?」
「だから、お前がプレゼントだと言っただろうが……」
「……?」

大きく首を傾げるのを見たリヴァイは、床にある袋を指すと、あれにお前が入っていたのだと説明している。

「リヴァイ……欲しかったの?」
「……」

少し顔を横に向け、リヴァイが頷いた。そんなリヴァイを可愛いと思いながら、彼女は止めの一言を口にする。

「私も……リヴァイが欲しいってお願いしたのになぁ……」

驚いたリヴァイは、普段よりも大きな目で彼女を見ると、何かを言おうとしているのか、口が小さく開いたり閉じたりするが、言葉は聞こえない。
困ったのか悔しいのか、リヴァイは顔をしかめると思いっきり抱き締めた。

「っ、ぎ……ギブ、くるし……」

リヴァイの最大限の愛情は、残念な方向に働いてしまった様だ。

「すまねぇ……」

そろりと腕を緩めたが、離してやるつもりは無いのか、リヴァイは彼女の顎を肩に乗せ、首筋に鼻を擦り付ける様にしている。

「貰ってくれるの?」
「返さねぇ」
「うん」
「お前は俺のもんだ」
「うん」
「い、良いんだな?」
「返品不可だよ」
「……しねぇ」
「本当に?」
「あぁ、嘘は嫌いだ」
「大事にしてね」
「するに決まってるだろうが」
「大好き」
「あぁ……」

そんな会話をして、漸く頭が落ち着いたリヴァイは、しつこくサンタクロースは居るのだと言っていた皆の顔を思い出した。

「ところで、お前いつ戻ったんだ?」
「うん、夕方着いたんだ……」

(やはり……か)

然り気無く言ったからか、彼女も口を滑らせた事には気付いていない。皆にバレていたのかと思ったリヴァイだが、顔は驚く程に穏やかだ。

(騙されたままで……いてやるか)

「寝るぞ……」
「うん」
「消えるなよ?」
「うん」

まだまだ夜明けまでは長い……リヴァイはそっとプレゼントを抱えて目を閉じた。
そして、笑っているだろう数人のサンタクロース達を思い浮かべ、俺にも居たんだなと小さく笑った。

おしまい。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

お礼になるかわかりませんが、是非また来ていただけることを祈って……



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