トラブル・トラブル・とラブる? 3


会議が終わり、急いで馬車に乗り込んだ私とモブリットは、団長室の前に居た。

「リヴァイ……帰ってるかな?」
「まだ……の様な気がします」
「と、取り敢えず入るしかないか……」

勢い良く開け放ったドアから、やあ! と、エルヴィンに片手を挙げて挨拶しながら入った。

「ハンジか……」
「どうしたの? 浮かない顔して……」

これを見ろ……と、渡された封筒の中身を見ると、リヴァイが行っている会議の延期を報せるものだった。

「うわ、これはいつ……? 会議が延期だってぇ?」
「今朝だ、配達が遅れたそうだ」
「……最悪だ」

私は思わずモブリットを見て、二人ともタダじゃ済みそうにないねと無言で伝えると、モブリットも、目を閉じて溜め息を溢した。

「リヴァイの機嫌は最悪だろう……」
「それだけじゃ無いんだよ……」

リヴァイが連れて行ったナマエについては、エルヴィンも知らなかった様で、私は細かく説明した。

「自信を持って何かをしている時は、特に問題は無いのだけど、不安になったりすると、途端に不運を呼び寄せちゃうんだよ……」

昨日届く筈の手紙が、今日になった事も関係があるだろうと言えば、エルヴィンも驚いた。
そして、朝の時点で延期とわかったのであれば、リヴァイももう戻っていてもおかしくは無い。

「凄く嫌な予感しかしないんだけど……」
「下手をすれば、兵長……今日は帰れない可能性もありますよね」
「そこまで……か?」

会議が延期だなんて、自分のせいだろうと思ってしまったら、ナマエの精神的に耐えられる物では無いだろうしなぁ……

頷いた私とモブリットは、リヴァイの怒りの矛先は自分達に向くのだろう……と、揃って項垂れた。




兵長の上に落ちた私は、事故とはいえ、また兵長とキスをしてしまった。

ついてないと思え……?

熱い熱いキスに、どういう意味か考える事を放棄した私は、「はい」と答えてしまった。

するとまた、兵長はもっと凄いキスをして、私をベッドに放り上げた。

こ、このまま……兵長と最後まで……?

期待と不安で、心臓が壊れそう。

覆い被さる様にして、兵長の顔が近付いて……兵長と……そう思った時、物凄い音と共にドアが外から蹴破られた。
部屋に大柄な男が押し入り、俺の女がどうのと喚いたけれど、兵長の一撃で床に倒れた。

「ついてねぇのは……俺の方じゃねぇか……」

なぁ? と、振り返って言った兵長は、後から部屋に来た店主と何やら話していたけれど、終わるとドサッとベッドに腰を下ろした。

いえ、期待してしまった私が悪いんです。

やっぱり、不運なのは私なんだと項垂れた。




ついてねぇ……いや、だが、これで良かったのだろうと思うと、俺はどこかホッとした様な気持ちになった。

あのまま、欲に支配された様な状態で事に及んでいたら、どうなっていたか。しかし、何故あそこまで抑えられなくなったのか? これまでの事を、振り返ってみた。

部屋に入るまでは、寝る場所を確保してやろうとしか、思って無かった筈だよな……?

「兵長……色々とすみません……」

弱々しい声が……何故か腰の辺りに響く。
寝た子を起こす様なざわめきに、俺は何かを見つけた気がした。

「お前、今何を考えた?」
「こんな事にしかならなくて、申し訳ないと……」
「それは良い、他にも考えただろう? 言いにくいかも知れねぇが、全部言ってみろ」

背中を向けて座っているが、振り返ったら押し倒しそうな勢いを抑え、これは俺の意思じゃねぇと確信していた。となれば、ナマエの何かがそうさせているとしか思えなかった。

「私では、兵長のお役にも立てないのかと……」
「あとはねぇか?」
「こ、こんな事でも無いと、兵長とあんな事するなんて……ぜっ、絶対に無いんだろうな……って、思いました。ご、ごめんなさい……」

言いながら、ナマエは泣き出しちまった。

「そ……そんな事考えて、どうしよう……って、すみません……って……」

思い違いか……?

もしかしたらナマエは、期待と言うか……どこかでそれを望んでいたんじゃねぇかと思ったんだが……

「悪かった、泣くな……」

未だ収まらねぇ熱を、その理由を、俺が期待していた……?

身体とは逆に、胸には風が吹き込んだ様な寂しさがあった。

そのまま暫く黙っていると、先程店主が話していた修理の者がやって来た。

そして……

「騒がせたお詫びに、宿の良い部屋を代わりに用意した。そっちでゆっくり休んでくれ。金は要らない」
「あぁ、助かる」

先程店主は、「すぐ直すからそれで良いか?」と俺に訊いた。宿は無理だろうと思っていたから、それで良いと言った筈だが……どういう事だと思っても始まらねぇ。好意には甘える事にした。

「何も考えるな、移動するぞ」
「はい」

宿の場所を教えて貰い、店主に礼を言って酒場を出た。

「此処か……」
「……」

最初の宿よりも立派な……高級な宿だった。

「こんな所に泊まれて嬉しい、そう、考えていてくれ」
「は、はい」

ナマエの表情が明るくなり、これなら大丈夫だろうと思いつつ、一抹の不安が頭を過る。だが、入る以外に選択肢は無かった。

「お待ちしておりました」
「宜しく……頼む」

荷物を運んで貰い、俺とナマエは後を付いて歩いた。
仕事でこんな所に泊まるなど、有り得ねぇだろうと思う豪奢な作りに、言葉も出なかった。

「お部屋は此方です」

ドアを開けた案内の女に続いて入り、荷物を持った男が中に荷物を置くと、「ごゆっくり」と二人は出て行った。

「兵長……」
「悪い事は考えるなよ……」
「凄いお部屋です……ね……」

貴族の奴等が使うのだろうか、幾つも部屋がある。

「ナマエ……お前は不運な訳じゃねぇ、考え方がネガティブなんだ」
「え?」
「こんな部屋に泊まりてぇと、思わなかったか?」
「お、思いました」
「それは、何でだ?」

俺を見て、顔を赤くしたナマエは、天蓋付のベッドに隠れちまった

「なぁ、教えてくれねぇか……」

ゆっくりと近寄ったが、中には入らずに返事を待った。

「兵長……」
「あぁ、なんだ?」
「兵長にとっては、憂さ晴らしだったのだろうと思いますが……私は……出来ればこういう素敵な場所が良かったって……思って……」
「悪かった。あれは、冗談のつもりだったんだ。本当にそうしようと思った訳じゃねえんだ」

だが……と、そうしなきゃならねぇと思う、良くわからねぇ状態になった事を話し、だから、何を考えていたか知りたかったのだと正直に話した。

「すみません……」
「謝る事はねぇ、俺はただ、泊まれる場所さえ確保できれば良いと思って、だが、場所を考えなかったのが悪いと思う」

女は、そういう事も気にするよな……

「だから、お前はそこでゆっくり休んでくれ」

そこへまた、誰かが部屋にやって来た。ドアを開けると、ルームサービスだと言って、ワゴンを渡された。

……これがサービスだと?

シャンパンと軽く摘まめる物と、フルーツにケーキ……

「ナマエ、これもお前が想像したんじゃねぇのか?」

出て来いと言えば、恐る恐る顔を出し、テーブルに並べているのを見ていた。

「さっさと来て食え」
「はい」

目が合うと逸らされちまったが、ソファーの両端に座った。

「お前は、もっと自信を持って、物事を良い方に考えりゃ良い。悪い方悪い方に考えるから、自然と悪い方向に流れが出来ちまうんだろう」
「兵長……」
「此処に居るのが俺じゃなけりゃ、もっと楽しめたんだろうがな……」
「兵長も……です」
「……?」
「兵長に憧れていたんです。そんな事にはならないだろうな……って思いながらも、その場限りでも良いからって、期待……しちゃったんです」

ゆらゆらと揺れるシャンパンを見ながら、ナマエはそう言うと、クイッとグラスを空けた。

「兵長と一緒で嬉しいです。兵長じゃなければ……きっとこんなお部屋なんて、考えなかったと思います」
「ナマエ……?」
「ま、前向きに……って……」
「あぁ、そう……だな」

それは……まるで告白でもされているかの様な言葉で、だが、それは俺の自惚れなんじゃねぇか? と、それ以上言葉が出なかった。

妙な沈黙に耐えきれなくなった頃、先に口を開いたのはナマエだった。

「理想のお部屋で、憧れの兵長と……なんて、やっぱり無理ですよね。あ、あの、ダメ元……という感じで、その、ま、前向きすぎましたよね……」

言いながら、段々と俯いて行く。腰を浮かせた俺は、ナマエの横に膝を着き、背凭れと肘掛けに手を着いて閉じ込めた。

「悪くねぇ……」

顔を寄せ、唇を重ねた。




翌朝、慣れてねぇのに無理をさせたナマエは起き上がれず、荷物は運んで貰い、俺はナマエを抱いて馬車に乗り込んだ。

昨日あれだけ苦労したのは何だったのかと思う程、何もかもがスムーズで、すぐに本部に戻れた。

馬車の中で寝ちまったナマエを抱いたまま、迎えに出たハンジとモブリットに荷物を任せて自室に急いだ。

「もう少し寝ていろ……」

自分のベッドにナマエを寝かせ、団長室に向かった。

「ご苦労……だったな」

珍しく、顔を見ずに言ったエルヴィンは、1日遅れた原因もわかっている様だ。

「あぁ、散々な目に遭った。聞きたいか?」
「遠慮しておこう。今日の仕事はハンジとモブリットがやってくれているから、リヴァイは休んでくれ」
「そうか、そりゃ助かる」

出迎えた時は、荷物を頼むだけで会話も無かったが、アイツ等の顔はかなり引きつっていたなと思うと、足取りも軽く団長室を後にした。

アイツ等にゃ、もう暫くあのままで居て貰うか……

思わぬ休みも手に入れ、その後は自室でナマエと色々な話をして過ごした。
前後しちまったが、付き合う事になり、互いに前向きに考えて行こうと決めた。




「リヴァイ……来ないよね」
「そうですね……」
「かなりヤバいよね」
「ええ、そうですよね……」

忘れられているとも知らず、胃の痛みを感じながらも、待っている二人であった。

End



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