純愛〜想いに障害はない〜


毎年、新兵がやって来る。
強い志や憎しみ、恐怖を胸に抱え……それぞれの努力の結果を示すためにやって来るのだ。

……俺には無かったものだな。

死ぬか生きるかを選べと言われた様な、選択肢とも言えない選択で、俺は此処に居る。

新兵を見ていてふと、違和感を感じた。それなりに人数を見てきたからか、何か違うものを感じる奴が居た。

金髪で碧眼……背丈は俺より有りそうだが、細身というよりは、貧弱な体つきに見える。顔は……見ても男とも女とも言えねぇ。
第一印象は「コイツに務まるのか?」というものだった。




訓練に雑務に追われて半月が過ぎた頃、新兵には初となる調査の日程が決まった。

「お前……やる気あんのか?」
「あります!」
「ならいい、続けろ」

初めて見た印象通りに軟弱な奴だった……そいつ、ナマエは兵団の訓練はおろか、同期の奴等にすらまともについていけて無い状態で、聞けば、訓練兵団もギリギリでクリアしたらしい。

だが、最初の印象にはもうひとつあった。何故かエルヴィンと同じ匂いがしたのだ。そして、その嗅覚が間違っていなかった事が、先日の作戦会議でエルヴィンとぶつかる姿を見て、証明された。

(座学と技工はトップだったのか……それも、作戦立案に関して稀に見る逸材だと……?)

まぁ、それは確かにそうかも知れねぇが、外に出したら最初に食われちまぅのも目に見えている。

(どうしたもんか……)

気付けば、目で追い……声を拾っている。
何だかんだ言いながら、気になって仕方がないのだ。

「どうしたんだ? リヴァイ……悩み事か?」

訓練を見ながら溜め息を吐いた俺に、エルヴィンが声を掛けて来た。

「……いや、アイツは外に出すべきじゃねぇ様な気がしてな」
「ああ、ナマエの事か。だが、出さない訳にもいかない」
「……だろうな」

だが、何故だろう……諦めきれなかった。

「それで本気か?」
「い、いえ、まだ……」
「なら、俺に付いて来い」

平らな所を走るのも悪くねぇが、倒木や岩がある林の中は、同時に複数の筋肉を鍛えるのに適している。

「お前には無理だったか?」
「ぼ、僕にだってやれます!」

筋力のバランスは悪くない……だが、力が足りない……体力が追い付いていない。
予定の半分にも達していないが、息も上がり、汗も半端無い。

「少し休むぞ」
「まだ……いけますっ」
「……無理だ。言う事を聞け、これは命令だ」
「……っ、はい……」

上気した顔が悔しそうに歪み、瞳は揺れている……直視出来ずに視線を逸らした。

(コイツは……男……だよな?)

息が整ったのを見計らい、立ち上がり来た道を戻った。どう頑張っても……通常の兵士の半分以下の体力しか無いだろう。

訓練場まで戻った頃には、他の奴等の訓練は終わっていた。
やっと……といった様子で辿り着いた感じのナマエは、訓練は終わりだと言うとその場に倒れた。
待っていたのであろう同期の数名に運ばれて行ったが、俺が抱いて運んでやりたかったと……思った。

(何なんだ一体……)

妙な苛立ちと不安は日に日に増していく。




それから数日、当たり前だろうが、やはり目覚ましい進歩はない。

兵の配置の最終確認をしていた時に、やはりナマエは置いて行くべきだとエルヴィンに言った。
その時、ノックの音がして、返事も待たずにナマエが入って来た。

「兵長にとって、僕は足手まといですか?」
「聞いていたのか……」

涙を溜めて俺のジャケットを掴んだ姿に……有り得ない感情が過る……

(俺は……コイツが好きなのか……?)

「リヴァイ、ナマエは調査から外す事は出来ない」
「てめぇはコイツの能力を買ってるんだろうが?」
「現場で臨機応変に対応出来ない者に命を預ける事は出来ない。そうだろう?」
「そう……だが、そうだな、そんな奴だったな」
「ああ、変更は無い」
「ぼ、僕も参加出来るんですよね!」

エルヴィンの判断は間違っていない。俺は私情で言っているのか……?

「さっきの(ナマエの)配置を俺の後方に移してくれ」
「わかった、それで決まりだな」
「あぁ……」

俺は、未だジャケットを掴んでいた手をそっと外し、ナマエの顔をチラッと見て団長室を出た。

どうあっても連れて行かなきゃならねぇって言うなら、俺が守るまでだ。




兵長は僕を見て、眉間に皺を寄せて出て行ってしまった……

「団長……先日の課題を持って来ました」
「そうか、後でゆっくり見ることにしよう」
「それであの、僕は……」
「ああ、リヴァイの事だろう?」
「はい。そこまで迷惑だと思われているとは……」
「そうか?」
「確かに、兵士としては役に立たないかも知れませんが……」

気持ちと同様に首も項垂れていく。

「本当にそう思っているのか?」
「えっ?」

団長は、まだ見せてはいけない筈の配置図を広げて書き直していた。
そして、兵長のすぐ後ろに僕の名前を書いた。

「これ……は……」
「見れば君にはわかるだろう?」
「……」
「リヴァイはまだ早いと言ったんだ。力じゃない技術を持たせたいともね」
「団長、僕は……」
「大切な、私達の仲間だ」

こんな可愛い娘を泣かすとは……そう言いながら、団長は頭を撫でてくれた。




どんな状況だろうが、どんな心境だろうが、時間は確実に進んでいく。

気付けば、今はもう壁の外だった……

矢印でいう先端部分に位置する俺の後方にナマエは配置した。それよりも更に後方には、エルヴィンが居る。

ナマエには、俺に万が一があれば、エルヴィンへの伝達に回り交戦はするなと指示を出してある。

(意地でも守るしかねぇ……)

最初の拠点まであと僅かな所まで来て、両翼から煙弾が上がった。進行方向は変わらないが、前方にも現れやがった。
こうなればもう、囲まれたも同然で、俺達が突破するより他に無い。

ナマエと他2名の新兵が近くに居たが、待機させて目の前で戦う羽目になった。

精鋭達は次々と倒していったが、巨人をなぎ倒して飛び掛かる奇行種が、新兵が居る方へ飛んだ。
咄嗟に背に張り付いたが、削ぐ前に新兵は蹴散らされた。馬ごと弾き飛ばされたのが見えたが、無事かどうかはわからねぇ……
着地のタイミングで奇行種を削いで戻った。

他の巨人を討伐し終わった班員達も戻り、皆で新兵を探した。
背の高い草が繁り、背の低い木もあちこちに生えている。

「居ました! 生きてます!」

その声に振り向いたが、抱き上げられたのは違う奴だった。

(ナマエは何処だ……)

もう一人もすぐに見つかり、二人とも怪我をしているが無事だった。

「俺はもう少し探すが、伝達も兼ねてお前等はエルヴィンの元へ急げ」

馬に乗り、走り回ったが……見つからない。
何処だ、何処に居るんだと、範囲を広げて探した。

草の中に……ナマエを見つけた。
嫌な汗がじわりと焦りを促す。駆け寄った迄は良かったが、一転して……傷だらけの姿に恐怖した。

飛ばされ、転がったのであろう。草が手前から薙ぎ倒されている。

横に跪くと、震える手で首に触れた。

「ナマエ……よく……生きて……」

脈はある……そっと腕を通し抱き締めた。
予想よりも柔らかい身体、細い腰……だが、そんな事には気付く筈もなく、医療班を目指した。

ナマエを預け、傍に居たかったが……エルヴィンに呼ばれた。

予想以上の被害を出した調査は、打ち切られて撤退となった。




あれから3年経った……

ナマエの怪我が回復してから、俺はひたすら生き残る術を叩き込んだ。
そして今日、ナマエはエルヴィンの補佐として、次期団長候補と噂されるまでに育った。

「頑張ったな……」

二人きりになった時に、頭を撫でてやった。
少し目線を上げて見なきゃならねぇが……立派になったと目を細めた。
想いを気取られない様にと、俺は背中を向けた。

「兵長のお陰です。あ、あの、兵長……」

何だ? と……顔を向けた瞬間、「好きです」そんな言葉と共に、キスをされた。

(あぁ、お前が男だろうが構わねぇ……)

「俺もお前が好きだ……」





晴れて両思いとなった俺は……新たな悩みを抱えてしまった。

俺が抱いて良いのだろうか……それとも、ナマエが俺を抱きたいのだろうか…… ?

「な、なぁ……お前はどっちがいいんだ?」
「何がですか?」
「いや、いい……その時考えよう」



……その日は、いつ来るのか。
驚く顔が……見てみたい。




End






おまけ 【気遣い……?】


「兵長、お待たせしました」
「……?!」

(女の格好……?)

「ど、どうかしましたか? 僕、変ですか?」
「いや、それは俺への気遣いか?」
「あ……はい! 少しでも可愛い方がいい……かと思って……」
「そうか、すまねぇな」

(俺のために……)

「え? そんな、大した事じゃ……ないですよね?」
「……恥ずかしくはねぇか?」
「そりゃ、少しは……」

(だろうな、男がスカートなんてな……)

「そうだよな、さっさと行くか」
「はい! 手を……繋ぎたいです」

(そうか、そのための女装だったのか……)

「……お前は可愛い奴だな」

嬉しそうに手を繋いで歩いていく後ろ姿を、物陰から見送る二人……

「あれ、まだ気付いてないよね?」
「みたいだな……」
「会話成り立っちゃってたし……」
「教えてやるべきなんだろうか?」
「……今更でしょ? 面白いから黙っとけって言ったのエルヴィンじゃん」
「それはそうだか、ここまで鈍いとは思わなかったからな」
「……そのうち嫌でもわかるよね」

……後日、鬼の形相のリヴァイが、二人の執務室へ向かう姿が目撃された。

(騙しやがって……)

いや、勝手に勘違いしたのは……リヴァイ自身である。

おしまい



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