〜新婚編〜 「おい……ナマエ……どうしたらこうなるんだ?」 穏やかな休日の朝……の筈が、朝食の目玉焼きを焼いて戻れば……トースターから煙が出ている。 「リヴァイ〜っ! や、焼いておいてあげようとね、したんだけどね……出てきてくれなかったの」 ……あぁ、斜めに入ってやがる。 ねぇ、何で? と、泣いているナマエに説明してやった。 「余分があるから泣くな……ほら、涙……」 「うん。ありがと」 涙を拭いてやったら笑えと、ガキの頃に教えた。幼稚園で出逢った俺達は……先月、15年の交際を経て結婚したばかりだ。 しかし、不器用なのは知っていたが、まさかここまでとは思わなかった。出来る出来ないがはっきりしているのは良いが、家事能力は……ほぼ無い。 「ほら、出来たぞ」 「いただきます」 「ちゃんと噛めよ?」 幸せそうに笑うナマエを見ていると、それだけで俺も幸せな気分になるから不思議だ。 出来る事は……俺がやれば良いだけだ。 「リヴァイ、今日はどうするの?」 「あぁ、明日も休みだから……念入りに掃除でもするかと思っていたんだが……何かしたいのか?」 「あのね、幼稚園見に行きたいの」 あまり自分から言い出さないナマエだが、たまにこうして言ってくる。俺はそれを叶えてやるのが、楽しみのひとつでもある。 「そうか、なら……掃除をしてから出掛けよう。昼と夜は外で食べるか?」 「ありがとう! デートみたい!」 嬉しそうな顔は……何年見ていても飽きない。 (幼稚園か……懐かしいな) 先ずは、食事を済ませて掃除だな……と、ナマエを見れば、口の回りを少し汚している。相変わらずだな……と、拭いてやる。 掃除を始めた俺の横で、ナマエも掃除をしている……が、何をやらせても結果は「どうしてこうなった?」という現象が起きるので、目の届く範囲に居させているだけだ。 叩きを持たせれば、物が降ってくる。 掃除機は……物を詰まらせる。 雑巾は……バケツをひっくり返したりする事が、当たり前の様に起きる。 ……では、何をやらせれば良いのかと考えた結果、 「コロコロ」だ! 絨毯のゴミを、わざと小さなコロコロで念入りに取らせる。 飽きずに真剣な顔でやっているのがまた……可愛い。 「ひゃぁ……」 背後で、変な悲鳴が聞こえた。またか? と、俺は振り向いた。 「……お前は猫か?」 「う、うにゃぁ……」 まるで、毛糸玉とじゃれた後の猫……粘着テープに絡まるなど、どうしてこうなったと言うよりは、どうしたらそうなれるのか……これもある種の才能なのか? 「……可愛く鳴くな。まだ昼間だ……」 もがくナマエの服が乱れていく…… 良からぬ妄想が頭をもたげても仕方ないだろう……縛られた、可愛い妻。 「暫くそうしてろ」 笑いながらそう言えば、「助けてよぉ」と、涙目だ。 (……これはヤバい、喰いてぇ) 結局、自分が掃除を出来なくなりそうで……解放してやった。 (そんな趣味は無かったが……今度試してみるか……) そんな事を考えながらも、掃除はきっちり済ませた。 昼食は落ち着いた趣のある、蕎麦屋に入った。ナマエは大好物のカレーうどんを食べているが…… 「何でこうも汚れるもんが好きなんだ、ほら、口……」 「ん……だって、美味しいよ?」 ガキだな……と、拭いてやりながら思うが、「汚しても拭いてやる」という図式を教えたのも俺だ。 長い時間を掛けて、俺好みに育てちまった様なものだな。 「美味いか?」 「うん、とっても」 それでいい。時折拭いてやりながら、眺めていた。 食後に通りかかったアイスクリーム屋も寄った。休日の店内は混雑していて、食べながらぶつかったナマエは口を汚したが……ハンカチを替えるのを忘れた。 仕方なく、舐めてやったが、周りの客が固まっていたのは……無視だ。 「んー、美味しかったねぇ……」 「あぁ、お前も美味かったぞ」 「り、リヴァイー!」 車に乗り、後部座席からハンカチを取るついでにキスをすれば、真っ赤になっている。 「なんだ? もっとか?」 「ま、まだ昼間です〜」 「なら、夜はいいんだな?」 「……よ、幼稚園……」 話題を変えたつもりだろうが、もじもじと……足を動かした。 (夜が楽しみだ……) そこから約車で1時間、互いの実家に近い幼稚園に着いた。 「懐かしいねぇ……」 目を細めて笑うナマエに、幼い姿が浮かぶ。 「あぁ、そうだな」 浸っていた俺が目を開けると、ナマエが横に居ない…… 「っきゃぁっ!」 ……柵を乗り越えられずに落ちやがった。 ひょいと飛び越し、助けてやる。 ナマエが落ちたのは、俺が初めて指輪をやった場所だった。思ったよりも狭い。だが、昔と変わらす、そこには花が咲いていた。 「リヴァイ……」 「なんだ、そんな目で見て……」 そう言いながらも、花を1本持っている自分に笑っちまう。 「ほら、手ぇ出せ」 「ん……」 何度も何度も……繰り返したこの場面。 その度に、お前は俺のだと言い続け、キスをした。 「これからも……ずっとお前は俺のものだ……」 「うん。ありがとう、リヴァイ」 頬にちゅとキスをするナマエ…… 「違うだろう?」 笑いながらキスをする俺…… 「……続きは帰ってからだな」 ずっと続いて来た事、最近、それには続きが増えた。そんな日は、念入りに可愛がってやるという…… それは、いつまでも変わらず、揺るがないものだと……この時は思っていた。 [ *前 ]|[ 次# ] [ request ]|[ main ]|[ TOP ] |