背合わせ鏡 1


「リヴァイ、君の教育係を紹介しよう」

エルヴィンが連れて来たのは……女だった。ナマエは分隊長だと言うが、そうは見えなかった。

……俺は、一目で恋に落ちた。

だが、それから数年、最近俺は兵士長になったが……ナマエとの関係は何も進展しなかった。




「ナマエ……調査報告に誤字があった、ちゃんと確認してから出せ」

パサッと書類を机に置いて通り過ぎた。

「……すみませんでした」

落ち込んだ様な声も、まともに聞かずに部屋を出た。

何故か、ナマエの顔がまともに見れない。話をしたくない訳でも、嫌いになった訳でもない。寧ろ……想いは募るばかりで、もて余す程だ。

「あ、兵長、ここはいつの数字を入れたら良いのでしょう?」
「あぁ、ここはな、調査前に確認した数字を入れるんだ。わかるか?」
「はい、ありがとうございました」

パタパタと走り去る兵士を見送り、俺も自分の執務室へと歩く。
今の様に、他の兵士には普通に話せるのだが、何故かナマエにはそれが出来ない。

何故、こんな風になってしまったのか……それすらもわからない。
夜ともなれば……ナマエの姿を思い浮かべては、己の手を汚すのだ。




リヴァイは……私には冷たい。
教育係なんて、偉そうにしていたのが気に入らなかったのかしら……?
毎日一緒に過ごしていて、惹かれていった私の想いとは逆に、どんどん遠くなって行った。

置いて行かれた書類みたいに、彼にとって私はもう用済みなんだろう。

新たに書き直した書類を持って、重い足取りで兵士長の執務室へ向かう。

(行きたくない……)

それでも、着いてしまうもので、ノックをして、ドアを開けた。

「訂正した書類を持ってきました」
「あぁ、そこに置いてくれ」
「あ、リヴァイ……」
「……」

つい、癖でリヴァイと呼んでしまった。
あからさまに表情が歪んだのを見て、泣きたくなった。

「すみません、兵長……来週、兵士長就任のお祝いを幹部だけでやるそうですので、予定を空けておいて欲しいそうです」
「……わかった」

もう用は済んだだろうという様に、スッと書類に戻ってしまった。

私は……ぼんやりとリヴァイを見ていた。
もう、私に教えてあげられる事もないし、彼の目が私を見る事はないのかもしれない。




「失礼します」

パタン……と、ドアの音がして、ナマエが部屋を出て行った。

大きく息を吐いて、我慢した自分を誉めてやった。

二人きりの執務室、ここへはあまり人も来ない。
自分でナマエが来る様に仕向けておきながら、思い描いた筋書きは……実行に移される事はなかった。

(欲しい……)

手に入らないなら、奪ってでも……
どうにもならない想いは歪みかけている。

(あいつは俺など……)

抑圧された想いをぶつけてしまっても、きっと更なる飢えと渇きに襲われるのは目に見えている。
それならば、視界に入れないで遣り過ごしたい。

あぁ、そうか……俺はアイツに好きな奴が居るから我慢し始めたんだったな……

あれは、本当に偶然聞いてしまっただけだった。
書庫で話しているナマエに用があって声を掛けようとした時に、好きな人は居るのか? と 、言われていたのだ。当然気になった俺は、近くの棚の陰で息を潜めた。

「好きな人? いるよ」
「えーっ! 誰なの?」
「内緒です」

ふふっと笑ったナマエに、もう一人が食い下がった。

「ど、とんな人かだけでも……」
「まぁ、そのくらいならいいかな。とても優しくて素敵な人よ」

聞いた瞬間、俺はフラリと書庫を出て行った。
俺とは似ても似つかない、対極にあるような人物だろう。

(優しくて、素敵な人……か……)

ナマエには似合いだろう……
それ以来、少しずつ距離が遠くなって行った。




「リヴァイの兵士長就任を祝って……乾杯!」

エルヴィンの声で宴は始まった。
皆が酒を注ぎに来ては、グラスを空けていた。
一通り済んだだろうと思ったが、ナマエは未だ来ていなかった。然り気無く見回すと、隅の方でポツンと座っている。

(お前の酒が飲みたかった……)

翌日の休みが祝いの品だとエルヴィンは笑っていた。
皆で用意したというプレゼントも貰った。
何度見ても、ナマエは此方を見る事さえしない。

宴なんてもんは、何かに託(かこ)つけて飲みたいだけだったりもする。挨拶や祝いの品を渡し終え、特にやることも無くなった面々は、それぞれ好き勝手に飲み始めていた。



[ *前 ]|[ 次# ]

[ request ]|[ main ]|[ TOP ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -