05

昼だ。完全に昼だ。
綺礼は事が終わったらさっさと出ていってしまった。酷いオトーサンだ、まったく。

「おとうさん、ね」

まだ、駄目だ。まだ、彼には私のオトウサンでいてもらわないと駄目だ。そう、言峰理子のオトウサン。私が私であるための要。言峰理子を形成する柱でなくては。
まだ、まだ掴んでない。まだ得てない。
私の冷めた思考とは裏腹に、目頭が熱くなって鼻の奥がツンとする。目から溢れた雫が頬を伝ったが特に気にも留めずに浴室に向かう。
途中ギルとすれ違ったがチラリとこちらを見ただけで声は掛けてこなかった。

「ぬるい」

シャワーのコックを捻って出てきたお湯の温度が気に食わなくて温度を上げて熱めのシャワーを頭から浴びる。さっきまで頬を伝っていた雫がシャワーのお湯と混じって流れていった。

「まだダメなのに」

口ではそう語るくせに頭はキチンと理解してるから自分の事ながらタチが悪い。
声に発する度に、頭の中の私がもう遅いと告げる。わかってるけど、わかりたくない。

「これじゃ、ただの子供の我侭じゃない」

自分で言ってて笑えてくる。自分が滑稽で馬鹿らしい期待をしている事にはずっと前から気付いてた。でも、まだ諦めるわけにはいかない。

「だってこれは私が望んだこと」

最後まで貫くか、途中で捨てるかは私しだい。だったらダメ元の希望に縋り付いてでも私はやり通す。
ふと、クーとギルガメッシュ、二人の赤い目を思い出した。そして、綺礼の不敵なあの笑みを思い出した。
前を向くと、何処ぞのサーヴァント達と同じ赤い目をして何処ぞの似非神父と同じように口元を歪めた私が鏡の中にいた。鏡の中の私と見つめ合う。

「私は…絶対、諦めない」

そう目の前の私に宣言して、私はボディーソープのボトルに手を伸ばした。




(命の洗濯)
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