03

ふっと意識が浮上する。ゆっくりと目を開けると部屋はまだ暗かった。時計を確認する。1時、か。まだあと5時間は余裕で寝れるなー。
チラリと窓の外に視線を向ける。今しがた大きな魔術行使があった。恐らく、いや確実にこれはサーヴァント召喚の魔術だろう。

「凛、だろうな…」

「行くか?マスター」
「うわぁ!」

返事が返ってくるとは思わなかった。真横から聞こえてきた声に驚いて時間的に相応しくない声をあげてしまった。

「クー、いつから居たの?吃驚したー、もぉー」

「あ?あー、さっきだな、さっき。うん」

なんだろう、やけに歯切れの悪い返答だ。もしかしてずっと居たのだろうか。なんだそれ、恥ずかし…。

「で、どうすんだ?行くのか、行かないのか」

真面目なトーンに戻ったサーヴァントを見やって首を振る。今行ったところで凛は恐らくクタクタだろうし、行動を起こすとも思えない。クーが満足いく戦いができる確率はかなり低い。

「行かない。今日は、ね」

「そうか。まぁ、気が変わったら呼んでくれや」

張っていた空気が緩む。背中を向けて部屋から出ていこうとするサーヴァントを呼び止める。

「ねぇ、」

立ち止まるだけでなく、律儀に私の横に引き返してきたクーの手を握る。

「どうした?一人じゃ眠れねぇってか?理子はまだ子供だな」

クツクツと喉の奥で笑いながら頭を撫でてくれる。私をマスターと呼ぶときよりも幾分か柔らかな声色で名前を呼んでくれる。クーはまるで、

「…お兄ちゃんみたい」

思わず口をついて出てしまった。
慌ててクーの顔を見上げると少し面食らった顔をした後、ニヤリと歯を見せ言った。

「お兄ちゃん、ねぇ。兄妹はこんなことしねぇだろ」

いったい、スイッチは何処だったのだろうか。
私の唇に触れる私以外の唇。何度か角度を変えたあと、薄く口を開くと口内に入ってくる舌。それに緩く自分の舌を絡ませるとじわじわと奪われていく私の魔力。まるで遅効性の毒のように身体に巡っていく奪われるという快感。気持ちいい、もっとしたい。

「っ、はぁ…クー、もっと…」

もっと優しく名前を呼んで。もっと、もっと。
1度離れた唇を再度繋げる。頭が働かなくなっていく。いつの間にかクーに押し倒されていたけども、何もかもどうでもいい。唾液の絡まる粘着質な音すらも私を鼓膜から侵食しようとしている。

「なぁ、理子。いいか、このまま…」

「う、ん…いいよ」

お互い我慢が利かないもの同士だ。このまま朝まで…というのも良いだろう。
幸福な快楽に溺れている間だけは、不安や恐怖さえも忘れられるのだから。




(快楽を享受する)
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