01

冬木教会、またの名を言峰教会。
そこに続く坂をゆっくりと上って行く。億劫な道を歩きながら考えに耽る。
今日は午後から卒業式に関する会議があるらしく午前中で学校は終わりだった。おかげで、友人との楽しい放課後ライフを過ごすことができた。でも、それもこれきりかもな。
沈みかけの夕陽をチラリと一瞥する。
もう1月も終わり…今日は31日、明日からは2月だ。
そろそろ5度目の戦いが始まる。

「はぁ、しんど…」

それが坂を上がる行為に対してなのか、冬木の街に起こる奇跡の仮面を被った厄災に対してなのかは自分でもよくわからなかった。マフラーを口元まで引き上げる。まだある坂を見ないように下をむいて歩く。

「今日、楽しかったな。あ、パフェ食べてない!あー…」

これから先はおちおち遊びにも行けないってーのに。まいったなぁ。
聖杯戦争が始まれば、そうそう簡単に遊びにも行けなくなる。今日が最後だったかもしれない。

「ま、いっか」

終わってから行けばいい。そう、全て終わってから。終わらせられたら。
前方を確認する為に顔を上げる。もう教会は目の前だった。後ろを見やってまた歩き出す。日はまだ沈んではいない。

教会の扉を開ける。視界には誰もいない。

「綺礼?どこー?」

カツカツと靴音を響かせて教会の中を歩く。淡々とした綺礼の声が聞こえてくる。綺礼の声しか聞こえないってことは…電話、かな?

「残る席はあと2つ。アーチャーとセイバーのクラスだけだ、早々にマスターを揃えねばならん…」

聖杯戦争に関する話…か。
相手は凛かな、綺礼が気にするとしたら凛くらいだろうし。待とう。
少し待つと、用件を言い終えた綺礼が電話を切る。

「相手は凛?」

「あぁ、留守番電話だったがな」

どうりで。やけに話す間隔が短いと思った。ところで凛って留守電使えるのかな?さすがに、使える…よね。

「今日は午前で終わるはずでは、なかったのか」

振り向きながら問うてくる綺礼に向けてニッコリ笑う。

「友達と遊んできたの」

ついでに小首をかしげるのも忘れない。

「あまり出歩くな。もうすぐ聖杯戦、」
「わかってるー!…今日で最後だよ」

あまりいい顔をしない綺礼のお小言をぶった切る。あざとかわいい作戦は失敗に終わったようだ。まぁ、綺礼にはハナからそんなもんは通用するはずないか。
子供のように唇を尖らせて不機嫌ポーズをとる。それを見た綺礼は私の頭に手を置いてくしゃりと撫でる。

「まぁ、そんな顔をするな。挨拶がまだだったな。…おかえり」

私はその一言で口角が上がり一気に笑顔になる。これでは本当にただの子供ではないか。あぁ、まだ子供なのだ。そうだ、子供だったのだ。なら、ここは子供らしく。

「ただいま!綺礼、今日の晩御飯は?」

なんて聞いてみたりしたのだが、間違いだったか。どうやら誤った選択肢を選んだようだ。頭を撫でていた手は逃げる事を許さないとでも言うかのように頭の上に乗ったままだ。私はそのままこの死刑宣告を受け容れるのだ。

「泰山の麻婆豆腐だ。」




(これも、幸せな日常)

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