声に乗せて | ナノ
夕食会

 


ひとまず、愛の鉄拳から逃れる為に陵が助け船を出してくれたお陰で部屋に戻ってこられた。
大下さんの拳は痛そう。
付けてる指輪とかがめり込みそう。
まぁ、無事戻ってきたのは良いんだけど。
大下さんを招くなんて考えてなかったからご飯考えてないや。
今日は簡単に済ませようと思ったのに。
どうしよっかな。
折角だし、大下さんの好みに合わせよっと。


「大下さん、好きなものって何ですか?折角なんで大下さんの好きなものを作りたいなぁと思って」

陵がじっと見てくる。
陵の好きなものはいつでも作れるから良いだろっ。

「……弟、お前の得意料理は何だ?」

まさか質問を質問で返されるなんて。
好きな食べ物聞いたのに俺の得意料理って何か関係あんのかな?

「俺の得意料理はハンバーグです」

「じゃあそれ」

「ハンバーグは一昨日食「分かりました!頑張ります」

慌てて陵の口許を押さえて答えて俺はキッチンへ向かった。
そうだよ、一昨日食べたけど。
断って結局愛の鉄拳食らうなんて事になったら嫌だ。

「その間、陵さんは始末書書いて下さい」

「……分かったよ」

陵は見逃した訳じゃなかったんだ。
俺も始末書で良かったらいくらでも書くんだけどなぁ。

キッチンに掛けてるマイエプロンを付けて早速ハンバーグを作る。
桜慈がハンバーグ好きだから得意なんだよね。
いつ食べに来ても良いように常に材料揃えてるし。
よし、作るぞっ。


「……慣れてんな」

ハンバーグのタネを捏ねてたら急に声を掛けられてビクッとしてしまった。
カウンターに持たれて大下さんが覗いてくる。
ペンが滑る音が聞こえてるから陵はまだ始末書書いてんのかな。

「はい。妹がハンバーグ好きなんで自然と得意になりました」

「お前、妹いんのか」

し、しまった…!
陵の弟って設定なのについ桜慈の事を…!

「そうだ。俺は妹の方には会った事ねぇけどな」

「そうなんすか」

慌てて弁解しようとしたけどリビングから聞こえた陵の声に助かった。
そっか、腹違いなんだし妹がいてもおかしくないよね。
あー、焦った焦った。

「大下さん、目玉焼き乗せますか?」

「乗せる。あと…」

「?」

「……これから名前で呼べ。名字は好きじゃねぇんだよ」

小さく聞こえた言葉に思わず数回瞬きした。
名字好きじゃないんだ。変わった名字とかじゃないのに…まぁ、それなら。

「わかりました、俊稀さん。もうすぐ出来るんでもう少し待ってて下さいね」

形を整えたハンバーグを焼き始めて俊稀さんを見た。
いつもある眉間の皺が少し薄れてる気がした。


 


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