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「カナノのケチ」
「……何度言われても変わらないからね」

 本日何度目か分からないカナエの同じ台詞に、本から顔を上げてため息交じりにカナノが言うと、カナエはとうとうぷいとこちらに背中を向けた。

 カナエが機嫌を損ねた理由は、カナノにあるようで半分はカナエにあった。
 つい先ほど、カナエがゴールデンウィークにどこかに出かけないか、とカナノを誘ったのだが、読書が趣味のカナノは、休みだからこそゆっくり本が読みたいと思っていた。

 カナエはいつだってこうだ。今日、すなわちゴールデンウィーク前日に唐突に言い出すからカナノも困るのだ。もう少し早く誘ってくれれば、カナノだって誘いに乗っていたかもしれない。
 それに、そもそもにぎやかな場所があまり好きではないカナノを誘うのも間違いだ。せっかくの休みだから、と言われても、休みだからこそ、しかもゴールデンウィークという大型連休だからこそ、どこも混むのは目に見えている。

「ねーカナノー」
「……何?」
「どうしてもダメ?」

 それでも諦めの悪いカナエは、しつこく粘っていた。またくるりと椅子の上で膝を抱えながらカナノのほうへ振り返るが、机の上に積まれた本と、読書を邪魔されてじとりとこちらを睨むカナノを見れば、やはり折れてはくれないのだろうと思うが、それでもカナエは諦めない。

「さっきも言ったけど、もう少し早く言ってくれればよかったんだよ」
「そしたらオッケーしてくれた?」
「たぶんね」

 机の上に積まれた、図書室から借りてきた本に加えて、家には図書館から借りた本もあった。あまり付き合いが長いとも言えないが、カナノが活字中毒で人混みがあまり好きではないことは、カナエもよく知っているはずなのだから、こんな直前に言われても断られるのはカナエも分かっていたはずなのだ。

「たぶんってことは、一週間くらい前に誘ってもダメってことじゃん!」
「分からないよ。一週間前ならオッケーしてたかもしれないし」
「カナノのたぶんはあてにならないもん!」

 また始まった、とカナノは大きなため息をひとつ。カナノが首を縦に振るまで諦めてはくれないのだろう。それがカナエだから。

「あーもう分かったよ。一日だけね、一日だけ」
「ほんと!?」
「だから静かにしてくれない?」
「分かった!」

 と言いつつ、カナエはカナノにぎゅうと抱き着く。全然分かってないじゃん、と突っ込もうと思ったが、カナノは諦めて本を閉じた。

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