勝手にやってろバカップル


「あ、クレープ屋!」

さっきから甘いにおいがするなぁと思いながら音哉と歩いてたら、通りすがりの公園にクレープ屋発見。においにつられて公園へ足を踏み入れる。近くでお祭りかなにかやってるのかな。まあいいや。なんとなく遠回りして帰ることにして正解だった。

「……食うか?」
「うん!」

いつの間にか俺の隣にいた音哉に聞かれて即答する。当たり前じゃん。甘党まではいかないけど甘いものは好きだ。
それに今はテスト期間。といってもテスト自体はまだはじまってなくて、部活禁止なのと授業が終わるのが早いから真面目に勉強しろよなって期間。どうせ家じゃほとんど勉強しないからと今まで学校で勉強してきたから音哉も珍しく食べたくなったのかもしれない。勉強すると甘いもの欲しくなるよな。
あー早く部活やりたい。俺が必死に勉強してるのは自分のためよりも部活のためが大きい。勉強しても大していい点数は取れないんだけどさ。

「うーん迷う……なんにしようかなぁ。音哉は? 決めた?」
「んー、チョコかな」
「じゃあ俺いちごのにする! 一口ちょうだいね! 俺のもあげるから!」
「はいはい」

お互い決まったところで列に並ぶ。まだほんとは迷ってたりするんだけどね。どれも美味しそうじゃん。

「あ、飲み物とかいる?」
「あー……あれば欲しいかも」
「んじゃ俺そこの自販機で買ってくる。あとで払うからクレープは頼んでいい?」
「おっけ、んじゃ飲み物よろしく」

適当に話しながら並んでる途中、自販機を発見。クレープは音哉に頼んで、俺は飲み物の調達に向かう。

悩んだ挙げ句、買ったのはお茶二本。俺はジュースが飲みたい気分だったんだけど、甘いもの食べながら甘いもの飲むのもなんかなーと思って。
缶を両手に持ってうっきうきで音哉の後ろ姿を見つけて駆け寄ろうとして、女の子が集まってることに気付いて急ブレーキ。……何話してるんだろ。

「あ、奏斗」

聞き耳を立てながらゆっくり近づいていったらあと五メートルくらいのところで気付かれた。そしたら女の子はきゃーきゃー言いながら去って行った。……ほんとに何話してたんだよ、全然聞き取れなかった。

「ほら」

空いてるベンチに座って、音哉からクレープを受け取る。まだほんのりあったかかった。

「……お茶どーぞ」
「いきなり何機嫌悪くしてるんだ。ほら、一口食うんだろ」
「全然悪くないですぅ、うわークレープ超美味しそういただきまーす」
「……さすがに食い過ぎだろ」

そのくらいいいだろ、ささやかな仕返しだ。
チョコクレープを堪能したところで俺のいちごクレープにかぶりつく。美味い。

まあ、音哉くらいかっこよければ女の子が集まってくるのは分かるけどさ。よく見れば公園は女の子とカップルばっかりだし。こんなかっこいいんだもん、振り返らないわけがないよね。音哉だもん。
分かるけど、分かるけど! ……分かるけどさぁ、でもさぁ……。

「なんで音哉ってそんなにかっこいいの?」
「知らん」

口の端についたクリームをぺろっと舌で舐めとるそれだけの仕草ですら、音哉がやるとかっこいい。ねえほんとになんで? 七不思議だよね。

「俺ももう少しでいいからかっこよくなりたい……」
「お前はかわいいからいいだろ」
「俺も男だしかわいいって言われても嬉しくなんてないですーでも音哉に言われるのは全然嫌じゃない」
「どっちだよ」

男にかわいいは誉め言葉じゃないよ? 嬉しくないからな? 音哉は別として。

悲しいことに俺はお世辞でも「かっこいい」って言われたことが今まで一度もなかった。言われるのは「かわいい」ばっかり。だから余計気にしてるんじゃん、自分でも言いたくないけど童顔なのとちびなこと。せめて身長欲しい。中学に入るまでは身長ほぼ一緒だったのになぁ、なんでこんなに差がついた。

だってさ、いろいろおかしくない? 音哉が俺の家に来た時はいつも母さんに「かっこよくなったわねぇ」とか言われるのに、俺が音哉の家に行くと必ず「かわいくなったわね」って言われるんだぜ?
小学生からの幼馴染だしその頃からずっと仲いいし、なんていうか我が子的な感じでかわいいっておばさんは言ってるのかもしれないけど……とにかく納得いかん。お世辞でもいいからかっこよくなったねって言われてみたい。

「奏斗」
「んあ?」
「クリームついてる」
「えっどこどこ? とって」

反射的に言う前に音哉の手が伸びてきた。親指で俺の口の端についたクリームを取ると、少し悩んでポケットからティッシュを取り出した。思わず反射的に「とって」って言っちゃった。ごめん。
少し離れたとこで女子がきゃーきゃー言ってるけど、あれって音哉のせい? ……だよね、多分。

「そういえばさ、さっき女の子と何話してたの?」
「別に大したことは話してない」
「……俺に言えないようなこと? まさか告白とか」
「まさか」

音哉の場合、ないとは言い切れない。お前と付き合いたいって思ってる女子、学校にいっぱいいると思うよ? あと大会とか講習会で会った女の子とかもその可能性はないとは言い切れない。だって音哉だもん。

「ていうかいきなり告白とかされても断るしかないだろ。よく知らない奴にいきなり付き合ってくださいとか言われても」
「よく知ってる奴だったら? クラスの女子とか」
「断る」

……ほっとしたのは内緒。
俺の知らないところで告白とかされてるのかなぁ。気になるけどなんとなく怖くて聞く勇気はない。
……俺? 一度もないしこれからもないだろうね。俺のことはほっとけよもう。

「食べ終わったし帰るか。寒くなってきたし」
「あ、うん。ちょっと待って」

缶の底に残ってたお茶を飲み干して俺も立ち上がる。クレープ美味しかった。
公園のごみ箱にごみを捨てて音哉と公園を出る。……女の子の視線を感じるのは気のせいじゃない……はず。

それにしても帰りたくない。音哉とまだ一緒にいたいっていうのもあるけど、家に帰っても結局勉強勉強だしさ。部活のためと自分に言い聞かせて毎回頑張ってるけど。

「はいはい奏斗くんはかわいいかわいい」
「なんだよ急に!」

急に音哉が俺の頭に手を置いてそのまま髪の毛をわしゃわしゃしてきた。この身長差が恨めしい。卒業までにもう少しでいいから伸びないかなぁ。

「お前はそのままでいいよ。ていうかそのままでいて」
「……音哉が言うなら……。分かった、このままでいる」
「よし、いい子だ」
「俺はもともといい子ですーっだ!」

小学生の時からずっと一緒にいるから最近まで気付かなかったけど、中学に入ってほんといきなりかっこよくなったよなぁ、音哉って。何食べてるんだろ。
正直かっこよすぎて嫉妬? もするけど、こんなかっこいい幼馴染がいるのは自慢だし、そんな幼馴染が俺はこのままでいいよって言うんだったらそれでいいかなぁって思うんだよね。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -