今も昔も遠い未来もすぐそばで


 最近いまいち楽しんで楽器を吹けてない気がして、中学の時の文化祭のDVDを引っ張り出してみた。先輩の保護者が撮ってくれたもので、文化祭が終わった後に部員全員に配られたもの。

 配られた当時は自分の演奏を聞くなんてなんとなく恥ずかしくてできなくて、当日来られなかった両親に渡した。仕事が忙しくてなかなか見に来られないから、すごく喜んでたっけ。

 大学生になってふと思い出して、見たくなって見てみたら我ながら下手だなと思ったけど雰囲気とか、練習風景とか思い出してなつかしくなった。いろいろあったけど楽しかったなぁ。

「何見てるのー?」

 部長の挨拶が終わってちょうど演奏が始まる前に奏斗がひょっこり顔を覗かせた。俺が答える前に映像を見た瞬間奏斗も思い出したみたいで、なつかかしいー! と目を輝かせて俺の隣に腰を下ろした。

「この頃の演奏って、今聞くと下手だなーって思うけど、楽しそうでいいよね」
「あ、分かる」

 自分の演奏を聞いてて恥ずかしくもなるけど、楽しそうでいいなっていうのは何度聞いても俺も思う。
 プロの演奏とか、上手い演奏とはまた違った魅力があるというか。

「最後は、映画でおなじみ、『sing sing sing』をお送りします。この曲は……」
「あっちょっ」
「ん?」

 アンコールを抜かして最後の曲になった時、突然奏斗がリモコンを奪おうとしたので、なんとなくリモコンを持っている手を奏斗とは反対側に伸ばす。

「もう充分見たからいいじゃん! もうやめよ? ねっ? そろそろいいでしょ?」
「あとこれとアンコールだけだろ」
「そうだけどー!」

 何か見られたくないものでもあるのか、奏斗は必死に俺の手からリモコンを奪おうとしてるけど、馬鹿だから回り込めばいいことに気付かないらしく、俺に抱き着くように両手を伸ばしてるようじゃあいつまでも奪えない。
 俺が覚えてる限りじゃ、すんごい目立つ失敗をしでかしたりしたわけじゃなかったはずだけど、何をそんなに見られたくないんだか。奏斗が見たくなくても俺が見たいから、奏斗がなんと言おうと俺は見るけど。

 奏斗と地味な攻防を繰り広げてるうちにMCが終わって、最後の曲――sing sing singが始まる。イントロが始まった瞬間、なつかしすぎて顔がゆるむのが分かった。

 あー、なつかしい。これ奏斗がドラムかっこいいからやりたいやりたいってずっと言ってて、文化祭でやるってなった時すんごい喜んでたっけな。中二の時のなんだけど、この頃から奏斗のドラムはすごかったな。

 ドラムソロの前までくると奏斗はリモコンを奪うのを諦めて、体育座りをして隣でくるりと画面に背中を向けた。

「もうどうでもいいや……」
「何がだよ」
「あー恥ずかしーうわーもうやめてー」

 かと思えば、棒読みで悲鳴を上げて耳をふさぐ。今度はうるさくして妨害するつもりか? と思ったら背中を丸めて大人しくなった。

 俺には打楽器のことはよく分かんないけど、俺が昔の自分の演奏を聞いて恥ずかしいと思うように、奏斗もこの頃の自分の演奏は恥ずかしいんだろうな。俺にとっちゃこれでも充分すごいと思うし、みんなもそう言うと思うけど。

 ドラムソロの時、これを撮ってる人がそれに気付いて奏斗をズームしてソロが終わるまでの間は、奏斗のどアップが映っている。

 眉毛をやや逆ハの字にして、真剣な表情なんだけど、笑顔で楽しそうにこちらに視線を向けて笑ってる奏斗は、昔も変わってないんだな。今もまさに同じ曲をやってて、ドラムをやることになったのも奏斗。合奏の時、ソロを叩いてる奏斗に自然と目がいってしまうんだけど、今画面で見ている奏斗の表情と同じ表情をしていた。

「……なんだよ」
「いや別に?」
「なんだよー! 下手なら下手って言えばいいだろー!」
「そんなこと誰も思ってないっつーの。俺にとっちゃ充分上手いから」

 改めて見ると中学生の奏斗ってやっぱり幼かったなーと思って、隣にいる本物を見てみたら何も変わってなくて。身長もこの頃からほとんど変わってないもんなぁ。

 ……でもまあ、少しは大人っぽくなったと思うよ? ……たぶん。身長もあの頃と比べると多少は伸びたらしいし?

「つーか、俺お前のドラム、すげー好きだし。だからこうして時々聞きたくなるんだよ。昔も今も変わらず好きだよ」
「ほんと? わーいやったね! 俺も音哉のチューバ大好きだよ! あっもちろん音哉も!」
「はいはいそりゃどーも」

 中身は全然変わってないけどな。ま、そこが奏斗らしくて好きなんだけど。





お題お借りしました:恋したくなるお題

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