たまには気分転換


その日は部活もバイトもない、俺にとってものすごく久々の休みだった。
部活の休みはあってもバイトの休みとかぶることはほとんどなかったから、丸一日自由なのは何ヶ月ぶりだろうなー。

少し遅く起きて、朝ご飯とか洗濯とかやることをやり終えて、久しぶりの休日だ! さてなにすっかな! と雲ひとつない青空を仰ぎながら仁王立ちする。仁王立ちに特に意味はないけどとにかく気分が良かった。

しっかしいざ休みとなるとやりたいことが思い浮かばない。見たい映画があったのを思い出して、DVD借りに行こうかなと思ったけど家でじっとして過ごすのも……と思うし、じゃあどっか出かけるかっつっても今日は日曜日だからどこも混んでそうだなと思うと行く気になれない。我ながらなんてめんどくさがり。

今日に限って譜読みしたり、楽器を吹く気にはなれなかった。今やってる曲でむずいとこがあって、練習しなきゃってのは分かってる。でも今日は特に意味はないけどなんとなくやる気の出ない日っつーかさ。そういうのあるじゃん。

十分くらいそのままの姿勢でベランダに干したシーツとにらめっこしながら考えてたけど、やりたいことが思い浮かばなくて腰を下ろしてテレビをつける。この時間だとそろそろアニメも終わる頃で、面白い番組ないんだよな。見たことないやつでもアニメならなんとなく見る。

まだ午前だし、お昼までに考えるかーとテレビを見ながらぼーっとしてた時。テーブルの上に置いてた携帯が突然鳴った。びっくりして変な声が出て、誰も聞いてないけど恥ずかしくなる。

「ん!? りっちゃんだ!?」

誰だろと思ったらまさかのりっちゃんで立ち上がってガッツポーズ。どんなメールでもりっちゃんからのメールは嬉しい。
うっきうきで届いたメールを開く。ところどころついてるウサギの絵文字と顔文字に顔がゆるむのが分かった。だってりっちゃんかわいい。

今なにしてた? って聞かれたから、今日はバイトなくて暇! って即座に返信する。そしたらすぐに返信がきた。
僕もなにしようか考えてたところだよー、だって。りっちゃんの顔文字のセンスほんとかわいい。

それから数回やりとりして、りっちゃんも暇ですることなくて俺にメールよこしたらしくて、んじゃ久しぶりにデートにでも誘ってみよっかなって思った。デートじゃなくても一緒に帰ったりとか俺の家に来たりとかはたまにしてるけどな。どっかに出かけるのは一ヶ月以上はしてない。主に俺のバイトが忙しくて。……ごめん、りっちゃん。

電話の方が早いかと思って電話するよーってメールを送る。いいよ、ってすぐに返ってきたけど、電話となると心の準備が必要なので、携帯を両手で持って深呼吸を数回。かけてすぐにりっちゃんは出た。

「あ、えっと……もしもし? りっちゃん?」
「もしもし、なるみん? どうかした?」
「んーと……突然電話してごめん」
「大丈夫だよ? ちょうど暇だったから。嬉しいよ」

電話の向こうで笑うりっちゃんにドキッとする。
りっちゃんと電話するのは今でも緊張する。面と向かって話すよりは少しはましだけど、相手がりっちゃんだと緊張するのは変わらない。

「あー、で、そのー……予定とかないんだったらさ、一緒にどっか行く?」
「えっ? い、いいの?」
「りっちゃんがよければだけど! 暇で暇で困ってたとこだし!」
「僕はいいけど……なるみん、久しぶりのお休みなんでしょ? だから休まなくていいのかなって思って」

りっちゃんの優しさに胸が痛い。きゅんときすぎて。
俺の心配なんかしなくてもいいのに……っていうか、りっちゃんと一緒に過ごせるんだったら俺としてはこれ以上の幸せはないんだよ! どんなに疲れてたってりっちゃんの笑顔か言葉ひとつで疲れが全部吹っ飛ぶくらいには俺の中のりっちゃんって超偉大。つまり天使。
久しぶりの休みにりっちゃんと一日過ごせたら明日からめっちゃ頑張れる。

「りっちゃんと一緒に遊べたら俺超幸せだから! だから一緒に遊んでください!」
「……うん。喜んで」

ふふっと笑ったりっちゃんの声に体の力が抜ける。りっちゃんと話すのは緊張しすぎて、何言ったのかも覚えてないこと多くて、変なこと言ったんじゃないかなっていつも心配になる。俺のそういうところが好きって言ってくれるりっちゃんはマジ天使。

電話を切ってしばらく幸せに浸る。日曜日バンザイ。休みバンザイ。神様ありがとう。

って、そんなことをしてる暇はないんだった! シャワー浴びたり着替えたり、さっさと準備しないと! 待たせるのは大体俺の方だから、今日は俺の方が先に着きたい……いや、先に着くようにしないと。


   * * * * *


待ち合わせ場所に着いた時、りっちゃんはまだ来ていなかった。時間は約束の十分くらい前。今日は俺の方が先に着いた。小さくガッツポーズをして息を整える。落ち着いていられなくて走ってきちゃったよ……。

りっちゃんが来るのは結構早い。俺も余裕を持って家を出るタイプだし、遅くても約束した時間の五分前には着くようにはしてるけど、りっちゃんは多分十分から十五分、二十分前くらいには着いてるんじゃないかな。いつも待たせてて本当にごめん。

まだかなーとそわそわしながら待ってたら、人混みの中にりっちゃんの姿を見つけた。俺が見つけると同時にりっちゃんも俺を見つけたみたいで、俺の名前を呼びながらぱたぱたと小走りでやって来た。

「待たせてごめんね」
「ううん! っていうかまだ時間になってないし! 俺もさっき来たばっかだし!」
「なるみんが先に来ててびっくりしたよ」
「う……いつも待たせてごめんなさい」
「ううん、待ってないよ」

じゃ、行こっか、って小首を傾げて笑うりっちゃんマジ天使。

よく見たら、急いで来たのか汗がにじんでいた。急いで来なくてもいいのに……転んだり、事故に遭ったりしたら大変だし。……とかいう俺も走ってきたんだけどさ。

「なるみんはどこか行きたいところある?」
「俺? うーん、特にないかな。りっちゃんは?」
「僕も特にはないかなぁ。でもお腹空いたから先にご飯食べない? ちょうどお昼だし」
「そうだな! 昼食いに行くか!」

そういや、さっきの電話でなにをするかとか、どこに行くかとか全然決めてなかったな。俺はりっちゃんと一緒ならどこでもいいけど。
とりあえず昼飯を食べることにする。りっちゃんとデートだって浮かれてて気付いてなかったけど、朝めんどくさくてトーストだけだったのもあって腹減った。

なにが食べたいか、歩きながら話してたけど迷ってなかなか決められない。ラーメン食いたいなって思ったけど、りっちゃんはハンバーグが食べたいらしくて、それもいいなって思ったし、暑いからそばでもいいかもな……あ、でもパスタも捨てがたい。りっちゃんも迷ってるみたいだった。看板とか見てると迷うよな。

「なんか、ごめんね?」
「えっ? なにが?」

結局なにを食べるか決まらなくて、とりあえずファミレスに入った。
メニューを眺めてたら急にりっちゃんに謝られてびびった。顔を上げたら、申し訳なさそうな顔のりっちゃん。なんかしたっけ?

「急に遊びに連れ出しちゃって」
「いやいや誘ったの俺だから! 暇だったからオッケーしてくれてむしろありがとな! なんか今日譜読みとかする気起きなくてさー、なにしよっか考えてたとこで……」
「あ、僕も。僕も今日はする気起きなかったんだよね。一緒だね」

なんと! なんとなんと! りっちゃんも同じだったとは……。やべぇ嬉しい。ちっちゃいことかもしれないけど、好きなものがかぶったり、一緒にいないのに同じことしてたりするのって嬉しくね?

ふふふ、と笑うりっちゃんに胸がきゅんとなる。りっちゃんの笑顔って癒し効果あるよな。あ、そもそもりっちゃんの存在自体が癒しだった。

「でもたまにはいいよね」
「おう! 気分転換は大事だよな!」
「だよね。……あ、そうだ。ご飯食べたらカラオケ行きたいな」
「カラオケ! いいね! んじゃカラオケ行こうぜ!」
「うん!」

カラオケとか最後に行ったのいつだっけ。思いっきり歌うの好きなんだけど、あんまり行かないんだよな。時間がないのがいちばんの原因。今度おとやんと奏斗とも一緒に行きたいなぁカラオケ。

注文したハンバーグを食べながらカラオケに行ったら何を歌うか、笑顔で話すりっちゃんはマジ天使だった。

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