奏斗の誕生日プレゼント選び


「なーおとやーん……まだ?」
「まだ」

そんなに帰りたかったら先に帰ればいいのに。……さすがに二時間もほぼ同じ場所に留まってたら俺も待たせてるっていう自覚はある。けどそう簡単に決めるわけにはいかない。だからひとりで来たかったのに、俺も暇だからとか言って無理矢理着いてきたのはそっちだ。

「いろいろ見て回って候補は決めたっしょ? だったら家に帰ってゆっくり決めたら?」
「だから帰っていいとさっきから」
「あー分かった分かった。おとやん本気だもんな、いいよ付き合うよ」

そもそも俺ひとりの用事なのだからこいつは関係ない。あらかじめいろいろと歩き回るぞと予告して了承したうえで着いてきているのだから、それが嫌なら帰ればいいのに。……文句を言いながらこうして付き合ってくれるのはありがたいことだけどさ。

しかしさすがにずっと歩きっぱなしで俺も疲れたので、空いているベンチを探して休憩することにする。自販機でコーンポタージュを買ってやったらけろっと元気になったから鳴海は現金なもんだ。

コーヒーを飲みながら、目の前を行き来する人をぼんやり眺める。夕方だからちょうど混み合ってくる時間で、平日だっていうのになんでこんなに人が多いんだろう。……ちなみに俺と鳴海はサボりじゃなくて、今日は短縮授業で部活がないってだけだ。まだ時間に余裕はあるんだが、ゆっくりと店をはしごしながら吟味する機会は今日を逃したらもしかしたら当日までないかもしれない。
そんなわけで、あと二週間くらい後の奏斗の誕生日プレゼントを今日は買いに来ていた。

隣で鳴海が缶からなかなか出てこないコーンとたたかっている間に、さっき見て回ったものを頭の中で整理する。俺はそれほど優柔不断な性格ではない(と自分では思っている)のだが、いざ見て回るとあれもこれもとかなり迷ってしまった。

猫のストラップ、音楽モチーフのクリップ、猫の抱き枕、鍵盤と猫がデザインされたクリアファイル、女子向けの店で目に入ったものだけど猫の腕時計、猫と音符のワンポイントのついたマフラー、猫のおっきめのぬいぐるみ。

予算はこの日のためにこつこつ貯めてきた。だから少しくらい値が張るものでもかまわない。一年に一度なんだし。
俺の誕生日にはマフラーとストラップをくれたから、俺も同じものをやろうか。でもクリアファイルも捨てがたいよな、吹部だし。抱き枕は邪魔になるだろうか。

「おとやん? おーとーやん?」
「……なんだ」
「気が付いた? なんかめっちゃボーっとしてたから」
「……すまん」
「ま、しゃーないよな。大切な幼馴染への誕生日プレゼントだもんな、そりゃー悩むよな」

あえてあいつの欲しいものは聞かない。馬鹿だから欲しいものあるかと聞いたところで誕生日プレゼントだとすぐには察しないとは思うけど、当日にサプライズみたいな感じで驚かせたい。……あいつほんとに馬鹿だから、二月に入るまでは誕生日覚えてるのに当日になるとすっかり忘れてるんだよ。ちょうどその頃コンクールの課題曲が発表される頃だから尚更な。

「しっかしさぁ……見てて思ったけど、おとやんの独占欲半端ねーな」
「は?」
「見てて思ったんだけど、おとやんが選んでたやつってことごとく身につけたり常に持ち歩いたりする系のものじゃん?」

いやまあ俺の奏斗に対する独占欲が半端ないのは自覚してるけど。
言われて気付いた。そういわれれば俺、肌身離さずつけるようなものを基準に選んでる。そうじゃなくても、いつも使うようなもの。……実用的なものをプレゼントしたいといえば聞こえはいいが、実際のところは肌身離さず持ち歩いて欲しいものばっかりだ。最近壊れたって言ってた目覚まし時計とか、あいつの好きなアーティストのCDとかは見るだけ見て候補にはしていない。

「あーいや、悪いってわけじゃねえよ!? なんつーか、よっぽど好きなんだなーっていうか、特別なんだなっていうか……」
「……下心丸見えだな、俺」
「猫柳が喜べばなんだっていいじゃんよ。何もらっても嬉しいと思うぞ、おとやんと同じように。おとやんだってあいつから何もらっても嬉しいだろ?」
「まあ……」

やっぱり目覚まし時計にすべきか、CDにすべきか。少し悩んだものの、鳴海の「奏斗が喜べばなんだっていい」の言葉にそれもそうだなと思って、すっかり冷めきったコーヒーを飲み干した後、もう一度絞ったものを全部見て回ろうと思って立ち上がった。

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