だってかわいいからさ


俺が座っているベッドを背もたれにふんふんと鼻歌を歌いながら楽譜をめくる奏斗の頭を見つめていて、ふと気づいたことがある。

「なあ、奏斗」
「んー? なーにー?」
「……好きだよ」
「え? どうしたの急に……。嬉しいけど。ありがと、俺も好きだよ」

くるりと振り返って奏斗はへにゃっと笑みを浮かべる。……予想はしてたけど、やっぱりダメか。

ならば次は。ベッドから降りて奏斗を持ち上げて隙間を作ってそこに自分の体を入れて、後ろから奏斗を抱きしめる。毎日鍛えてるっていう割には相変わらず細いよなぁ。おまけに軽いし。……小さいし。

「んもー、どしたの音哉? 俺に甘えたいの?」

そしたら体の向きを変えて奏斗の方から俺に抱き着いてきた。……嬉しいんだけどさ。かわいいんだけどさ。違うんだよなぁ……これじゃないんだよ。

「う、わっ!?」

んじゃあ次は、と。奏斗を一度引きはがして、勢いのままに床に押し倒す。きょとんと驚いた表情をしたのち、眉間にしわを寄せて首をかしげた。かわいい。……じゃなくて。

「……違うんだよなぁ」
「違うって、何――んぅ」

からの不意打ちキス。深いキスじゃないけど、最中に俺の服をぎゅっと掴む奏斗が愛しい。最後に奏斗の唇を舐めて離れたら、おもむろに目を開けた奏斗と目が合った。ほんのりと赤く染まった頬と、少しだけ苦しそうな息。……さっきよりは近づいたけど、まだまだだ。

「ね、ほんとにどうしたの音哉……? いちゃいちゃしたいならいいけどさ、今日の音哉積極的だよね」
「……なあ、奏斗」
「なに?」
「お前がされたら恥ずかしいことって何?」
「されたら恥ずかしいこと……? ほんとに今日の音哉どうしたの?」
「いいから」

いきなりだが、奏斗と恋人として付き合い始めてから結構経つ。二人きりの時間を作ってあれこれもそこそこしてきた。

俺は今まで奏斗の本当に照れた顔を見たことが多分片手で数えられるくらいしかなかった。告白の時と、初めてキスをした時と、初めて至った時。多分それくらい。顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせて、何も言えないくらいに照れた顔を見たのはおそらくこの三回だけだったと思う。
今じゃ全部慣れたらしくて、今でも照れることは照れるんだけど、そこまでは照れない。普通に口が利ける程度には。

ついさっきそういえばそうだなぁ、とふと思って、そしたらなんとしてでも真っ赤な奏斗を見たくなった。我ながらなんともわがままな理由だな。すまん。でもやめる気はない。

「みんなの目の前でいきなりズボン下ろされるとか? 名前言おうとして『かにゃと』って言っちゃってそれをみんなに繰り返されるとか?」
「……そういうんじゃなくてさ」

奏斗らしい答えに思わず苦笑する。それはお前じゃなくても恥ずかしい。名前を噛んだ時のことは今でも覚えてる。

「なんていうのかなぁ……俺にされたら恥ずかしいこと? ってある?」
「音哉にされたら恥ずかしいこと? それならいっぱいあるけど……」

嘘つけ。とは心の中で言っておく。その割にお前ほとんど照れてないじゃないか。
でも俺にされたら恥ずかしいことが奏斗からすればたくさんあるということに嬉しさは隠せない。具体的にどういうことをされたら恥ずかしいのか聞きたいのはやまやまだがぐっと堪える。

「あ、でも、耳元で名前呼ばれるのがいちばん恥ずかしいかもしれない」
「へーえ……?」

……あーもーこいつ、ほんと馬鹿。馬鹿でかわいい。

「えっ、あ、ちょ、音哉……!?」
「――好きだよ、奏斗」

言われたとおりに耳元で名前を囁いたら、顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせてる奏斗が俺の下にいましたとさ。……絶対今の俺変な顔してる。こんな顔見せられちゃ抑えられるわけないだろう、いろいろと。

「お、俺も好……いや、俺は大好きだから!」
「うん、知ってる」

……こいつが負けず嫌いなの、忘れてた。あー、かわいい。

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