僕とフルートの話1


僕が吹奏楽部に入ったのは、中学二年生の夏のことだった。


僕の学校は田舎で生徒があんまりいなかったせいか、部活の数が少なく、それでも運動部はそこそこあったけど、文化部は吹奏楽部しなかった。
僕はどうしようもなく運動音痴でしかも体力がなかったから、できれば運動部は避けたいと思っていた。噂で聞く限りでは当たり前だけどどの部活も厳しいと聞いていたし、練習についていける自信なんてなかった。だからできれば吹奏楽部に入りたいと思っていた。元々音楽に興味があったのと、歓迎会で聞いた演奏がすごいなって思ったから。

吹奏楽部は男女の制限はなかったけど、見学に行った時、先輩も見学に来てた人たちも全員女子だったからそこに入る勇気は僕にはなかった。
そうなると、必然的に運動部に入るしか道はなくなる。特に入りたいと思っていた部活もなかったし、その時仲の良かった友達に流されるようにしてバレー部に入部した。

元々体力もないし運動音痴だから、運動部に入ってついていけるかはものすごく不安だった。でも一度決めたことだし、できる限り頑張ろうとは思っていた。
でもいざ練習が始まってみると、予想通り体力作りの時点で既についていけなかった。ランニングなんて外周を半周回る頃にはみんなと距離ができていたし、腹筋や背筋やスクワットも決められた回数を終えるのに遅い時はみんなの倍くらいの時間がかかった。

それでも同級生は「頑張ろう」って声をかけてくれたり、先輩もなかなか終わらない僕の練習に付き合ってくれたりもした。それに、僕ほどではないけど運動が得意じゃない、体力に自信がない人も何人かいたから、励まし合ったりして最初の頃は頑張れた。
家でも早起きして軽くジョギングしてみたり、部屋で軽いストレッチや腹筋とかをしてみたり、なんとか追いつこうと自分なりに努力はしていた。

夏休みに入る頃には、入部した頃よりは体力がついて、それでもみんなにはまだ追いつけてなかったけど、前よりは周りと差が開かなくはなった。
……けど、みんなも同じくらい成長しているわけだから、それでも結局ついていけないことには変わりなかった。
その頃には遅れがちだった人たちもちゃんとついていけるようになっていて、取り残されるのは僕ひとりになっていた。

それなら今まで以上にもっと頑張ればいい。そうは思っていたけど、そもそものスタート地点が違うということに気付いてからは努力する気は少しずつ失せていった。

やめようかな、とは何度も思った。けど、結局やめる勇気もなくだらだらと二年生になっても続けていた。体力作りの時点でもうダメなんだもの、他の運動部にいったところでついていけるわけがない。運動部なんだから、程度の差こそあれどこにいっても体力は基本中の基本。そこでへばっていたら何もできない。
いちばんの理由はやめてしまったら、自分に負けるような気がして。それでも周りより多くの練習量をこなしていても、結局差は開くばかりだった。

案の定練習についていけない自分へのいら立ちと、周りの陰口や視線に耐えられずに、転部を決心したのが中学二年生の夏休み前の定期考査が終わった日のこと。校則ではなにかの部活には必ず所属しなくちゃいけないことになってたから、いわゆる帰宅部はうちの学校は認められていなかった。

運動部がダメとなると、残るのは文化部。つまり僕の場合は吹奏楽部しかなかった。その時の僕は文化部ではありながら吹奏楽部はまた別な意味で大変なことは知らず、楽譜は読めるからなんとかなるだろうな、ぐらいの軽い気持ちだった。運動部よりはましだろうな、なんて。

その日の放課後、転部したいと顧問に伝えたら、特に何も言われずにあっさり手続きが行われた。引き止められることはないだろうなと思ってたけど、やっといってくれるのかと言いたげな視線はちょっとだけ胸に刺さった。それまでも何度か遠回しに転部したらというようなことを言われたことは何度かあったから、あっちとしてもかなりせいせいしてたんだろうな。

「に、二年一組の鳩村朔楽です。えっと……バレー部から転部してきました。よろしくお願いします」

そして次の日から早速吹奏楽部に行ったわけだけど。顧問の先生に連れられて音楽室に行ってみたら、やっぱり女子しかいなかった。視線が痛い。

「やりたい楽器とかある?」
「と、特には……」

音楽室で自己紹介した後、再び顧問の先生に連れられて今度は職員室の奥の小さな部屋にいた。

急に聞かれても、その頃は楽器の名前なんてトランペットとクラリネットくらいしか知らなかったから特にぴんと来なかった。それに、こんな中途半端な時期に転部してきて自分の希望を言うなんて差し出がましいというか。

「それじゃあフルートをやってもらいたいんだけど」
「フルート……ですか?」
「特に希望がないのなら。いろいろあって今フルート人足りてなくて」
「は、はあ……」

こう言ったらなんだけど、その時はなんの楽器でもよかった。楽器のことがよく分からなかったというのもあるし、吹奏楽に興味はあったからとにかく頑張ろうと決めていた。
でもコンクールとか講習会に行った時に他の学校では男子はほとんど低音かパーカスにしかいないのを見て、この時頷いてしまったのを少しだけ後悔したりもした。その頃にはもうフルートを大好きになってたんだけど、男子が自分ひとりだけ、っていうのはやっぱり肩身が狭いから。

夏といえば吹奏楽コンクール。地区大会直前だったにも関わらず、練習時間を削って先輩は僕にいろいろ教えてくれた。それが申し訳なくて楽器を持ち帰って練習したり、土日には少し遠くの教室まで習いに行ったりもしていた。大変だったけど、だんだん楽器が吹けるようになるのが楽しくて、それが自分のばねになっていた。

当然その年のコンクールには出られなかったけど、そのかいあってか秋の文化祭には3rdを吹かせてもらえることになった。覚えるの早いね、と先輩と先生に褒められたのがすごく嬉しかった。

長くなったけど、これが僕とフルートの出会い。今では本当に大好きで、この時の自分に感謝している。
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