あれこれ考えてる時が一番楽しかったりするよね


 トランペットの音が聞こえる教室の前を通り過ぎようとしたら、ドアについてる窓から見えた人物に思わず足を止めた。

「あ、あ……有牛?」
「あ、倉鹿野。見つかっちゃった」

 だって、トランペットを吹いてたのは、連くんでもなくて、榎並さんでもなくて、梓くんでもなくて、有牛だったから。三人の音とはちょっと違うなとは思ってたけど、まさかトランペット以外の人が吹いてるとは思わないじゃない?

「有牛、トランペット吹けるの?」
「少しだけね。中学生の時少しやってたから」
「中学生の時? トロンボーンじゃなくて? トランペットやってたの? ……えっ? トロンボーンじゃないの?」

 混乱する俺を見て、有牛はけらけら笑う。

 だって有牛、二年前に吹部に見学に行った時、「中学はトロンボーンやってたから高校でもトロンボーンにする」って言ってたし……。でも二年前の会話だから、俺の記憶が曖昧になったのかも? とかぐるぐる考えてたんだけど、そうじゃなくて、うーんと、あれ? つまりどういうこと?

「倉鹿野みたいに、やってたこともあったよってこと」
「な、なるほど……。びっくりした」

 そっか、少しだけって言ってるんだからそうだよね。さっきの自分が恥ずかしい。

 意外って言ったら失礼かもだけど、有牛がトランペットやってたなんて意外だ。なんか、有牛ってトロンボーン一筋! って感じがしない? トロンボーンに対する熱意がすごいんだもん。

「久々にペット吹いたらまた吹きたくなってきた」
「俺も久しぶりに吹きたいかも」
「あ、倉鹿野と一緒にアンサンブルもいいね。けど、俺がやりたいのは、一曲の中でボントロとペットを一緒に吹きたいんだよね。持ち替えで」
「い、一曲の中で?」

 パーカッションはドラムとかティンパニ以外は持ち替え(って言うのかな?)は当たり前だったりするけど、管楽器も曲の中で持ち替えたりするの? 曲と曲の間に楽器を持ち替えるのは中学生の頃よくやったし、他の人もたまにやってるのを見るけど……。あ、でも、よく考えると、フルートとピッコロはよくあるし、トランペットとコルネットとフリューゲルホルンもあるし、アルトサックスとテナーサックスの持ち替えも見たことあるな。いやでも、トランペットとトロンボーンは見たことないし、聞いたこともない。あるんだ?

「俺が中三の時、一年生があんまり入らなくて、コンクールでペットとボントロやったんだよね。一曲の中で持ち替えで。倉鹿野はやったことないの?」
「曲ごとに持ち替えはやったことあるけど、曲の中で持ち替えはやったことないなぁ……。でもおもしろそう」
「倉鹿野ならそう言うと思った。でも、ペットとボントロじゃマッピの大きさが違うからきつかったなー。せめてユーフォだよね」
「確かにトランペットとトロンボーンは大変そうだね」

 トロンボーンとユーフォはマウスピースの大きさがほぼ一緒なんだよね。そういうのをいろいろ考えると、可能なのはホルンとトランペット、トロンボーンとユーフォ、クラとサックス、あと木管と金管かな? 木管でも、金管とダブルリードは相性が悪いみたいだけど。

「他にも中学では違う楽器やってた人ってそこそこいるし、そういう人たちが曲の中でとにかく持ち替えして演奏するのやってみたいな」
「あ、俺もやってみたい! えっと、中学では違う楽器やってた人っていうと、芹沢くんは中学ではクラやってたんだっけ?」
「らしいね。あとユーフォの木之下はボントロやってたらしいし、倉鹿野は金管全般いけるし、俺はペットいけるし……。あと他に誰かいるかな」
「あ、猫柳くんは中学でもパーカスだったって言ってたけど、いろいろできるよね。そういうのもあり?」
「ありあり。いっそ木管も金管も弦楽器もやってもらえばいいんじゃないかな」

 木管も、金管も、弦楽器も、そして打楽器も、全部できたらすごいな。猫柳くんのことは、パートも学年も違うから話す機会があんまりなくてよく知らないけど、昼休みとかにいろんな楽器を触ってるのを見るからいろいろできるんだろうなって勝手に思ってるところがある。

 ちょっと考えてみただけでも大変そうな気がするけど、それ以上にやってみたい。だって、楽しそうじゃない? それにほら、俺の無駄な器用貧乏さも活かせるし。金管なら一応全部やったことあるんだ、俺。あ、これを機に木管を覚えてみるのもおもしろそう。木管もちょっとやってみたいんだよね。金管と木管の持ち替えは、アンブシュア気にしなくていいからいいよね。でも、そうするとちょっと有牛の趣旨からはずれるかな。

「でも問題は千鳥だよね。口では言わないけど馬鹿じゃないのって顔してため息つきそう。熊谷は反対しないだろうけど」
「ああ……。あと源内先生も……」
「絶対怒られるね」
「だよね。観田先生は即OKしてくれるだろうけどね……」

 ……やっぱり、現実的に考えると無理だよね。でも、いつかできたらいいな。たまにはいいよね、こんなことを考えてみたって。
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