1stと2ndと俺らの関係
※ifで音哉と奏斗が同じ楽器(トランペット)だったら
楽器のことは無知に近かったから、奏斗がいるからというなんとも不純な理由でトランペットに手を上げた。
希望人数が多い場合は部内オーディションをして先輩たちが決める、ってことになってて、二人のところを俺たち含めて五人が手を上げた。俺は奏斗と違って音楽の成績も悪いし理由が理由なだけに絶対落ちると思っていたら、奇跡的に奏斗と俺の二人が希望の楽器になった。
* * * * *
「今年で最後、かぁ……」
隣で膝を抱えながら奏斗が呟く。右耳から聞こえる音楽がループして、聞き慣れた旋律が再び始まる。……これ聞くの、もう何回目なんだろうな。
「……1st、どっちがやる?」
「そりゃー……お前だろ」
あれから二年。四月になり、俺らは三年になっていた。つまり今年で俺らが最後だから、1stは確実に俺らに回ってくるだろう。もし今年入ってきた一年がかなり上手かったとしたら別だけど。
俺らがさっきからずっと聞いているのは今年のコンクールの曲。CDが配られた日から暇があればずっと聞いてる。
「いいの? いつも思うけど、音哉はそれでいいの?」
「いいから言ってるんだろ。お前が1st、俺が2nd」
目立ちたくないから、なんて理由、トランペット吹いてるくせに何を言ってるんだという話だが。花形の楽器をやってるくせに目立ちたくないなんて矛盾もいいところだ。理由はどうであれトランペットに決めたのも自分。でも俺はできれば目立ちたくなかった。だから、というわけではないけど、技術でいえば奏斗の方が上だから、先輩が引退してからはずっと奏斗が1stで俺が2nd。それまでは二人で3rdだった。
基本的にどのパートでも1stの方が高音でメロディがあって目立つけど、ハモりとかメロディを支える伴奏とかの方が重要だと俺は思ってるし、そっちの方が難しいことだとも思ってる。
「音哉がいいなら、それでいいけど」
「お前の方が高い音きれいだから」
「ありがと。……でも、俺、音哉に支えられてると安心するよ」
「……それはどうも」
俺は奏斗の音が好きだから、中学最後のコンクールは奏斗に思いっきり目立ってほしいと思ってる。
1stになりたいと思ったことがないわけじゃない。去年まで1stを吹いていた先輩の姿はいつもかっこいいなって思ってたし。
でも、俺は2ndをやりたい。奏斗が相手だからと勝負を諦めたわけじゃなく、こいつの音を支えたいと思うから。真っ直ぐで迷いのない音は、こいつの性格をそのまま音にしたようで、俺も頑張らなきゃなって思える。
……でも、俺って異端なのかな。同級生は1stになりたいとなんとなくぴりぴりというか、そわそわというか。落ち着かない感じがするし、1stを吹きたいって思うのはまあ普通だろうし。自分で限界を決めて勝負から逃げてる、と言われればそれは否定できないかもしれない。俺の性格的に。
「音哉って、支える方が向いてるよね」
「……そうか?」
「うん。なんていうか、上手く言えないけど、あったかくて優しくて、音哉みたいで、すごく安心する」
「……どういうことだよ」
「あ、照れてる?」
「うるさい」
具体的にそうやって褒められるとすげー嬉しい。こういう時素直に「ありがとう」って言えないあたり、俺ってまだまだ子どもだなと思う。
こいつのことだから、きっと高校に入っても吹奏楽を続けるつもりなのだろう。そして俺もきっとそう。未来のことだから絶対とは言えないけど、よっぽどのことがない限りは続けるつもりだ。
できることなら、この先もずっとこいつを支えていきたい。
ふわり、レースのカーテンが揺れて部屋に入り込んできたあたたかな陽気に、俺は目を細めた。