Happy!Merry!!Christmas!!!2015


「大丈夫だって、コンクールじゃないんだし気楽にいこうよ」
「わっ」

奏斗に肩をぽん、と叩かれて律は肩を小さく跳ねさせた。にっと歯を見せて笑う奏斗につられて律も弱弱しく笑みを浮かべる。

管楽器より一足先に舞台袖に来てから、律はずっと壁に向かって何度も深呼吸をしていた。他の学校の演奏に耳を傾ける様子もなく、ところどころで数人のグループを作って小声で盛り上がっているみんなの会話に混ざろうともせず、ずっとだ。

「……うん」
「そんなに心配する必要ないって! 楽しんでこーぜ!」

眉をややハの字にして目を伏せた律の頭を、少し背伸びをして奏斗は撫でる。かぶっていたサンタの帽子が少しずれた。コンクールや演奏会の本番直前に、緊張している自分に毎回律がやってくれているおまじないだ。

今日のクリスマスコンサートはコンクールのように賞が与えられるわけでもなく、演奏の完成度を他の学校や団体と競うわけではない。聞く方も、演奏する方も、楽しんで。練習の時、何度も観田先生が言った言葉。それが目的のコンサートだ。曲もそれほどグレードは高くない。

律が緊張している理由は、今日演奏する曲のうち一曲でソロを担当するから。管楽器がぴたりと止んで、打楽器だけのソロの一番目立つところを律が担当する。

「うさたんの音、会場に響かせてよね!」
「……うん!」

奏斗に慰められて元気が出たのか、ようやく律の顔にいつもの笑顔が戻る。

「なにー? 緊張してんの? 気楽にいこーぜって先生も言ってただろー?」

二人の間に突然割って入ってきたのは連。頭にかぶったサンタの帽子がとても似合っている。
ありがとうございます、と律が笑うと満足したのか二人の背中をばしばし叩いてすぐに鈴々依のもとへ行ってしまった。相変わらず落ち着きのない奴だ。

「君、鈴やる子だよね!? オレ鈴の音好きだから楽しみしてるよ!」
「ひゃあ!?」

そして今しがた奏斗と律にやったように、袖のライトが当たらないギリギリの位置で演奏の様子を見ていた鈴々依の背中を叩いて突撃する。女子でも手加減はしないらしい。

「あっありがとうございます……。茅ヶ崎先輩のトランペットソロも楽しみにしてますね」
「おう! まっかしとけ!」
「走りすぎないようにな!」

薄暗い中で、鈴々依が耳まで真っ赤になったのが見えた。笑顔の連、それに突っ込んだのは少し離れたところで借りる楽器を確認していた舞。

自意識過剰で思い込みの激しい鈴々依が、異性に肩を組まれ顔が近い状態で笑顔でそんな台詞を言われたら勘違いしないわけがない。
元々連は性別、学年問わずフレンドリーで鈴々依にもじゃんじゃん絡みに行っているため鈴々依の勘違いも既にかなりの回数になっている。最初こそ勘違いするからほどほどに、などと注意をしていた同級生も面倒になって注意することはもうない。

ちなみに鈴々依が鈴、正確に言えばスレイベルを担当することになったのは名前のせい。本人も鈴が好きなようで、周りからすすめられて嬉しそうに返事をした。
スレイベルというのは直訳するとそりの鈴で、クリスマスソングでよく聞くかわいらしい鈴の音はそれだ。

「りっちゃーん! ソロ頑張ってね!」

ぶんぶんと手を振りながら今度律の元へやってきたのは鳴海。今日演奏する曲にちなんだコスチュームに身を包み、頭にはトナカイのカチューシャ。ふぉにたんこと、彼のユーフォニウムのマウスピースの部分には赤いチェックのリボンがついている。
その後ろで「プレッシャーかけるなよ」と言いたげに睨んでいるのは音哉。鳴海と同じく曲にちなんだコスチュームに、頭にはサンタの帽子。

奏斗と律も鳴海たちと同じ曲のコスチュームで、奏斗はトナカイのカチューシャ、律はうさぎ耳のついたサンタの帽子をかぶっている。学校は違えど、仲のいい四人は事前に話し合っておそろいの曲のコスチュームに、サンタとトナカイはそれぞれ二人ずつ。

「ありがとう。頑張るよ。ふぉにたんかわいいね」
「マジ!? ありがとー! ふぉにたんだってこういう時はお洒落したいもんなー?」

ふぉにたんを抱えて話しかける鳴海に律はくすくすと笑う。緊張もほぐれていつもの調子に戻ってきたらしい律に奏斗はほっとした表情を浮かべる。

「チューバはお洒落させなくていいの?」
「んじゃお前もスティックにお洒落させたら?」
「どうやって?」
「……リボン巻くとか?」
「それ邪魔になりそう」

いくら曲の完成度を問わず賞も与えられないといえど、大勢の人の前で演奏するのは少なからず緊張する。
くだらない話を一つ二つして、奏斗と音哉も緊張が少しほぐれたところで先生から入場しやすいように並ぶようにと指示が入る。

「じゃ、頑張れよ」
「お前もな」

低音は客席から見て三列目の右端、パーカッションは左端。奏斗と音哉、律と鳴海は手を振って別れる。といっても演奏時間は十五分程度だ。長いようだが始まってしまえばあっという間に終わる。

大きな拍手が聞こえてすぐ、ステージの照明が落とされ、一列目の右端のクラリネットから順に入場していく。パーカッションは一番最後。

「ねこやんのドラム、楽しみにしてるよ」
「ありがと!」

ステージに上がる直前、小声でそう言いながら律は奏斗の背中をぽんと叩いた。

律が鍵盤の前に立つ頃には全員が定位置に移動し、用意されていた椅子に腰を下ろしていた。今日演奏する曲にちなんだコスチュームや着ぐるみに身を包んでいる人、サンタの格好をしている人、トナカイ――ステージの端っこのパーカッションからはステージの全体を臨むことができた。

全員が入場して少しして、全身サンタの衣装に身を包んだ観田先生がおもちゃの鈴を鳴らしながらやってきた。背中にはやけに大きなふくらんだ白い袋。会場からも笑いが起こる。

「みんな、楽しもうね」

譜面台に楽譜を置き、指揮棒を構えた観田先生が真っ白なつけひげの向こうで小さな声で言いながら笑った。
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