女装することに抵抗はないけれど


 昔から女装をすることに抵抗はなかった。といっても日常生活ではスカートやその他女ものの服は着ない。文化祭などのイベントでこれを着て欲しいと言われれば快諾するくらいだ。あくまで趣味ではない。女ものの制服からメイド服にロリータ服、浴衣までなんでも躊躇なく着た。奏斗自身ノリのいい性格だということもあるし、本人がコンプレックスに感じている男のわりに小さな身長や幼さの残る顔も周りから女装をすすめられる要因だったし、奏斗もそういう時だけは自分のコンプレックスを逆手に取っていた。

 高校生になってもそれは変わらず、身長は奏斗よりあれど中性的な顔立ちで同じく女装に抵抗のない律に出会ったことでイベントがあれば二人して毎度女装をして盛り上げていた。律は声を聞けばはっきり男だと分かるのだが――それでも女にしてはハスキーなだけだと認めない輩もたまにいる――見た目で女に間違われることがよくあるくらいにはかわいらしい顔立ちをしていた。しかしその割に着やせするタイプなのか、制服を脱げばそこそこの筋肉はついていたし、華奢というほど線も細くないしでそれほど体格がいいというほどではないが体つきは男だった。

 ある時クラスメイトからこれを着てくれないかとふりふりのロリータ服を手渡された。笑顔で快諾した奏斗と律はそれを持って隣の空き教室に向かった。行事のためとはいえこんなものどこで手に入れるのだろうか。ましてどこで保管しているのだろうか。

 なんなくそれに袖を通した奏斗は後ろのファスナーを律に上げてもらう。サイズはぴったりだった。終わったら今度は奏斗が律のファスナーを上げてやる。

「ん、どうかしたの?」

 ファスナーを上げている途中、律は何度も着心地悪そうにもぞもぞと身じろいでいたので手を止めて尋ねる。

「ううん、ちょっと……肩幅きついから入るかなって……破けちゃったりしたら大変だし」

 さすが女の子ものだねという律の次の言葉に奏斗ははたと何かに気付く。

 女装であるからには、これは本来なら女が着るために作られているのであって、それを男が着たらきついのは当然だった。しかし奏斗はそれを今までなんなく着ていた。ウエストも、肩幅も、どこをきついと感じたことは今まで一度もなかった。

 引き続きファスナーを上げながら律の引き締まった広い背中を奏斗は呆然と見つめていた。

「大丈夫かな? ……あれ、どうしたの?」
「……な、なんでも……」

 高校に入ってからは手先が器用なホルン組に採寸してもらって体に合ったものを作ってもらっていたからというのもあるけれど、既に仕立ててある女ものの服を着る機会は何度もあった。しかしとりわけここがきついと思ったことは本当になかったのである。

 毎日欠かさず筋トレをしているから力はあっても見た目に筋肉がまったくついていないのは悩みでもあった。そんなの脱がなければ分からないからそれほど気にすることではないことかもしれないが、男として身長と体格はやはり気にしてしまう。

 しかし教室に戻る頃には、この先女装する時に困らないからまあいいかと持ち前のポジティブさで既に開き直っていた。
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